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中等部へ進級
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リビングに行くと、弟の匠と尚は小学校の制服に着替えて、ダイニングテーブルに並んで朝食を食べていた。
キッチンにはコーヒーを淹れる高一の次男 浬と、お弁当を詰める母さんの姿。
「朔、おはよう。お腹のご飯ミキサーにかけるから、先に食べれる物食べてて?」
「…はよう。」
腸疾患のある俺は、幼少期に壊死していた小腸を全摘出する手術を受けた為、胃が直接大腸に繋がっていて、経口からの栄養を上手く吸収する事が出来ない。
その為時間をかけて、胃ろうから栄養剤を注入し補っている。
それにプラスして月に2回入院し直腸からの高濃度の栄養剤の投与を行い体調改善を促していた。
「朔、エプロンとバンド着けよ。」
蒼が右手にバンドを着けスプーンを固定し首にエプロンを巻いてくれる。
握力の弱い俺がスプーンやペンを握るのを補助する為のこのバンドは、マジックテープ式で俺の力では取り外しが難しいのが難点だった。
程よく冷めた味噌汁に固定されたスプーンを入れて豆腐を掬う。
だけど口に入る前に手が震えてエプロンの中に豆腐が落下した。
「…ッチ……。」
豆腐は諦め汁を飲もうと、お椀を両手で挟み慎重に口元に近づけた。
ぷるぷると手が震えるが、なんとか飲むことができた。
これでも上達した方だ。
以前はできていた事も小4の時に発症した脳腫瘍のせいで、手足が軽い麻痺状態になり動かす事すら難しかった。
2年余りのリハビリでようやく日常動作ができるまでに回復した。
「母さん、もういらない。」
「わかった。支度しな?」
「ん…。」
学ランを着て身支度を整えると、足に下肢装具を着けて、学校に行くために車に乗った。
「服捲るよ。気分悪くなったら直ぐに教えてね。」
「ぅん。」
胃ろうにカテーテルを繋いで、栄養剤のパウチをS字フックに引っ掛け注入しながら、聖を迎えに貝塚家に向かう。
母さんが車の後部ドアを開けてスロープを下ろすと、かたかたとタイヤの音がして車椅子に乗った聖が入ってきた。
「朔、おはよう!今日から中学生だな!」
「…はよう。聖、制服似合わねぇな…。」
「はぁあ?!似合ってるわ!お前こそ似合わねーよ!」
3月まで私服だった聖も当たり前だけど制服を着ていて、その違和感からからかい戯れ合っていると、俺たちが通う『青葉特別支援学校』が見えて来た。
2階建てで向かい合うように2棟建つ校舎は、身体障害者と知的障害者が共に学ぶ学校だ。
手前の建物が初等科で、奥の建物が今日から通う事になる中等部と高等部がある。
校門には、色とりどりの花をあしらった華やかな立て看板があった。
先生達が登校して来る新入生を笑顔で迎え、胸元に手作りのブローチを着けてくれた。
「朔くん、聖くん、おはよう!中等部 入学おめでとう!下駄箱はこっちになるよ。」
看護資格を持つクラス担当の橘先生が玄関で出迎えてくれた。
「タッチーおはよう!先生も中等部進級おめでとう!」
「聖くんありがとう。」
橘先生と聖が和気あいあいと話す中で俺は、ベンチに座って靴を履き替えるのに苦戦中だった。
足首まである厚手のスニーカーには、足の甲から足首までしっかりとマジックテープで止められていて、これを剥がすのが毎回大変だった。
「朔~、俺先に行くよ?」
「…ん~。」
「朔くん、ゆっくりで大丈夫だよ。」
聖が車椅子のタイヤを床に敷かれた雑巾で拭って、早々と教室に行ってしまった。
早くしようと思えば思うほど上手くマジックテープが掴めなくてイライラしてくる。
「朔!おはよ!」
かたかたと車椅子が近づいて来て、声を掛けられた。
「ん?…ぁ、夕陽…おはよ。朝陽は?」
「朝陽は丞と向こうで話してたよ。」
「そうなんだ。夕陽…制服似合うな。」
「朔も似合ってるよ!…なんか勉強できそう!」
「はぁ?元々勉強できるわっ!」
上履きに履き替えて、壁の手すりを伝い夕陽と教室に向かった。
「お!やーっと来た!夕陽もおはよう!」
「おはよう。聖テンション高いね。周、おはよ~。」
「おはよう。今日からみんな制服だね!大人っぽく見える!」
教室には、先に向かった聖と周の姿があった。
中等部 1年生の教室は、初等科からの持ち上がりで6人。
全員が教室に入ってしばらくすると、担任の山本先生が来た。
「これから体育館に移動して、入学式が始まります。先に高等部の新1年生が入場するから、その後に続いて出席番号順に入場な。車椅子の子は、前の子としっかり距離を取って入場する事。以上。速やかに体育館に移動しなさい。」
簡潔に説明を終えると、俺らを先導して廊下を進んで行った。
キッチンにはコーヒーを淹れる高一の次男 浬と、お弁当を詰める母さんの姿。
「朔、おはよう。お腹のご飯ミキサーにかけるから、先に食べれる物食べてて?」
「…はよう。」
腸疾患のある俺は、幼少期に壊死していた小腸を全摘出する手術を受けた為、胃が直接大腸に繋がっていて、経口からの栄養を上手く吸収する事が出来ない。
その為時間をかけて、胃ろうから栄養剤を注入し補っている。
それにプラスして月に2回入院し直腸からの高濃度の栄養剤の投与を行い体調改善を促していた。
「朔、エプロンとバンド着けよ。」
蒼が右手にバンドを着けスプーンを固定し首にエプロンを巻いてくれる。
握力の弱い俺がスプーンやペンを握るのを補助する為のこのバンドは、マジックテープ式で俺の力では取り外しが難しいのが難点だった。
程よく冷めた味噌汁に固定されたスプーンを入れて豆腐を掬う。
だけど口に入る前に手が震えてエプロンの中に豆腐が落下した。
「…ッチ……。」
豆腐は諦め汁を飲もうと、お椀を両手で挟み慎重に口元に近づけた。
ぷるぷると手が震えるが、なんとか飲むことができた。
これでも上達した方だ。
以前はできていた事も小4の時に発症した脳腫瘍のせいで、手足が軽い麻痺状態になり動かす事すら難しかった。
2年余りのリハビリでようやく日常動作ができるまでに回復した。
「母さん、もういらない。」
「わかった。支度しな?」
「ん…。」
学ランを着て身支度を整えると、足に下肢装具を着けて、学校に行くために車に乗った。
「服捲るよ。気分悪くなったら直ぐに教えてね。」
「ぅん。」
胃ろうにカテーテルを繋いで、栄養剤のパウチをS字フックに引っ掛け注入しながら、聖を迎えに貝塚家に向かう。
母さんが車の後部ドアを開けてスロープを下ろすと、かたかたとタイヤの音がして車椅子に乗った聖が入ってきた。
「朔、おはよう!今日から中学生だな!」
「…はよう。聖、制服似合わねぇな…。」
「はぁあ?!似合ってるわ!お前こそ似合わねーよ!」
3月まで私服だった聖も当たり前だけど制服を着ていて、その違和感からからかい戯れ合っていると、俺たちが通う『青葉特別支援学校』が見えて来た。
2階建てで向かい合うように2棟建つ校舎は、身体障害者と知的障害者が共に学ぶ学校だ。
手前の建物が初等科で、奥の建物が今日から通う事になる中等部と高等部がある。
校門には、色とりどりの花をあしらった華やかな立て看板があった。
先生達が登校して来る新入生を笑顔で迎え、胸元に手作りのブローチを着けてくれた。
「朔くん、聖くん、おはよう!中等部 入学おめでとう!下駄箱はこっちになるよ。」
看護資格を持つクラス担当の橘先生が玄関で出迎えてくれた。
「タッチーおはよう!先生も中等部進級おめでとう!」
「聖くんありがとう。」
橘先生と聖が和気あいあいと話す中で俺は、ベンチに座って靴を履き替えるのに苦戦中だった。
足首まである厚手のスニーカーには、足の甲から足首までしっかりとマジックテープで止められていて、これを剥がすのが毎回大変だった。
「朔~、俺先に行くよ?」
「…ん~。」
「朔くん、ゆっくりで大丈夫だよ。」
聖が車椅子のタイヤを床に敷かれた雑巾で拭って、早々と教室に行ってしまった。
早くしようと思えば思うほど上手くマジックテープが掴めなくてイライラしてくる。
「朔!おはよ!」
かたかたと車椅子が近づいて来て、声を掛けられた。
「ん?…ぁ、夕陽…おはよ。朝陽は?」
「朝陽は丞と向こうで話してたよ。」
「そうなんだ。夕陽…制服似合うな。」
「朔も似合ってるよ!…なんか勉強できそう!」
「はぁ?元々勉強できるわっ!」
上履きに履き替えて、壁の手すりを伝い夕陽と教室に向かった。
「お!やーっと来た!夕陽もおはよう!」
「おはよう。聖テンション高いね。周、おはよ~。」
「おはよう。今日からみんな制服だね!大人っぽく見える!」
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「これから体育館に移動して、入学式が始まります。先に高等部の新1年生が入場するから、その後に続いて出席番号順に入場な。車椅子の子は、前の子としっかり距離を取って入場する事。以上。速やかに体育館に移動しなさい。」
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