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中等部へ進級
朝
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今年の桜は例年に比べて咲き始めが遅く。
入学式の今日、満開の桜が新入生の門出を祝うように咲き誇っていた。
リビングのカーテンを開けた母・綾香は、近所の公園に植えられた桜の木を見て顔を綻ばせた。
「いい天気だな。朔も今日から制服かぁ。」
コーヒーカップを手に隣に立つ長男の蒼の言葉に慌てて綾香は時計を確認した。
「そろそろ着替えさせないと、遅刻しそうね。」
「俺が行って来るよ?母さんは匠達を起こして来て。」
朔よりも先に新学期を迎えた小学4年生の4男匠と、つい昨日小学校に入学したばかりの末っ子の5男尚を母に任せ。
蒼は、リビングの隣にある朔の部屋に向かった。
部屋に入ると朔はすでに目覚めており、ベッドの上に体を起こし座っていた。
「朔、おはよう。今日から中等部だな。」
「……ぅん。」
「初の制服だな。」
特別支援学校に通う朔は、初等科の時は基本私服だった為、中等部に上がった今日から制服が支給された。
クローゼットには真新しい学ランが掛かっていて、それを取り朔に手渡すがあまり嬉しそうじゃない。
「…どした?先にカテーテル抜いてあげるから着替えよう?」
排泄障害を患う朔は、就寝時に膀胱留置カテーテルを挿入している。
普段から導尿しないと排尿できないが、てんかん発作で力が入ると漏れ出てしまう事もある。
その上腸疾患で栄養の吸収が乏しい為、胃ろうから栄養剤の注入をしているが、これは母さんが起きた時に外したようだ。
「…制服のボタンがめんどくせぇ。別に私服でも良かったのに。」
「確かに…ボタンがあると大変だよな。でも制服姿かっこいいと思うよ。カテーテル抜くな?少し気持ち悪いよ。」
陰茎の先から伸びた尿カテをガーゼで掴み抜いていく。
つーんとした痛みを感じたのか、ぴくりと腰が揺れた。
「はい。いいよ。」
蒼が紙パンツを履かせて、カテーテルを片付けている間に制服のズボンに足を通した。
小5の時に発症した脳腫瘍の影響で、四肢障害を患い手足に力が入りずらくなった。
下肢装具を着けていないと、歩く時に足の甲が地面と接触して捻挫や骨折のリスクが高くなる。
手も握る力がかなり弱い為、物を掴む事が難しくそれを補助する為のバンドを手に巻き付けている。
ズボンのファスナーには、母さんが予め着やすいように紐を結んでくれていて、それに指を引っ掛けてファスナーを上げた。
「おっ!順調じゃん。次はワイシャツだな。」
パジャマを頭から引き抜くと、綺麗に皺が伸ばされた真っ白なワイシャツに腕を通した。
「…なんか、これ着たら勉強出来そう。」
「はは…それは朔の努力しだいだろ。でも大人っぽくなった感じはするよ。」
「だろ?」
自慢げな朔の姿に蒼は優しく微笑んだ。
朔は、ワイシャツの小さなボタンにかなり苦戦していた。
ボタンを力の入りずらい指先で摘む事が難しくて、なかなか穴に通す事が出来ずにいた。
「蒼、やって…。」
どう頑張っても上手くいかなくて、イライラしながら蒼に頼るが、蒼は首を縦に振らなかった。
「リハビリでまっちゃんと練習しただろ?ちゃんとできるんだから、深呼吸して落ち着いて。」
「むりだって言ってんだろ!ぜんっぜん入んねぇじゃん!」
「…わかった。首の所は留めてあげるから、後は朔がやるよ。」
あまり納得してないような顔だが、蒼が首元のボタンを留めてやると、渋々ボタンに手を掛けた。
あれから10分も格闘してようやくワイシャツが着れた所で、朝ごはんを食べる為に蒼に脇を支えられリビングに向かった。
入学式の今日、満開の桜が新入生の門出を祝うように咲き誇っていた。
リビングのカーテンを開けた母・綾香は、近所の公園に植えられた桜の木を見て顔を綻ばせた。
「いい天気だな。朔も今日から制服かぁ。」
コーヒーカップを手に隣に立つ長男の蒼の言葉に慌てて綾香は時計を確認した。
「そろそろ着替えさせないと、遅刻しそうね。」
「俺が行って来るよ?母さんは匠達を起こして来て。」
朔よりも先に新学期を迎えた小学4年生の4男匠と、つい昨日小学校に入学したばかりの末っ子の5男尚を母に任せ。
蒼は、リビングの隣にある朔の部屋に向かった。
部屋に入ると朔はすでに目覚めており、ベッドの上に体を起こし座っていた。
「朔、おはよう。今日から中等部だな。」
「……ぅん。」
「初の制服だな。」
特別支援学校に通う朔は、初等科の時は基本私服だった為、中等部に上がった今日から制服が支給された。
クローゼットには真新しい学ランが掛かっていて、それを取り朔に手渡すがあまり嬉しそうじゃない。
「…どした?先にカテーテル抜いてあげるから着替えよう?」
排泄障害を患う朔は、就寝時に膀胱留置カテーテルを挿入している。
普段から導尿しないと排尿できないが、てんかん発作で力が入ると漏れ出てしまう事もある。
その上腸疾患で栄養の吸収が乏しい為、胃ろうから栄養剤の注入をしているが、これは母さんが起きた時に外したようだ。
「…制服のボタンがめんどくせぇ。別に私服でも良かったのに。」
「確かに…ボタンがあると大変だよな。でも制服姿かっこいいと思うよ。カテーテル抜くな?少し気持ち悪いよ。」
陰茎の先から伸びた尿カテをガーゼで掴み抜いていく。
つーんとした痛みを感じたのか、ぴくりと腰が揺れた。
「はい。いいよ。」
蒼が紙パンツを履かせて、カテーテルを片付けている間に制服のズボンに足を通した。
小5の時に発症した脳腫瘍の影響で、四肢障害を患い手足に力が入りずらくなった。
下肢装具を着けていないと、歩く時に足の甲が地面と接触して捻挫や骨折のリスクが高くなる。
手も握る力がかなり弱い為、物を掴む事が難しくそれを補助する為のバンドを手に巻き付けている。
ズボンのファスナーには、母さんが予め着やすいように紐を結んでくれていて、それに指を引っ掛けてファスナーを上げた。
「おっ!順調じゃん。次はワイシャツだな。」
パジャマを頭から引き抜くと、綺麗に皺が伸ばされた真っ白なワイシャツに腕を通した。
「…なんか、これ着たら勉強出来そう。」
「はは…それは朔の努力しだいだろ。でも大人っぽくなった感じはするよ。」
「だろ?」
自慢げな朔の姿に蒼は優しく微笑んだ。
朔は、ワイシャツの小さなボタンにかなり苦戦していた。
ボタンを力の入りずらい指先で摘む事が難しくて、なかなか穴に通す事が出来ずにいた。
「蒼、やって…。」
どう頑張っても上手くいかなくて、イライラしながら蒼に頼るが、蒼は首を縦に振らなかった。
「リハビリでまっちゃんと練習しただろ?ちゃんとできるんだから、深呼吸して落ち着いて。」
「むりだって言ってんだろ!ぜんっぜん入んねぇじゃん!」
「…わかった。首の所は留めてあげるから、後は朔がやるよ。」
あまり納得してないような顔だが、蒼が首元のボタンを留めてやると、渋々ボタンに手を掛けた。
あれから10分も格闘してようやくワイシャツが着れた所で、朝ごはんを食べる為に蒼に脇を支えられリビングに向かった。
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