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14、純白の誘惑
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「マリア、お疲れ様」
「エドワード様もお疲れ様でした」
午前中の教会での結婚式から始まって、昼間の城下町での御披露目、夕方からのカクテルパーティー、その後の晩餐会と、怒涛のスケジュールが終わり、こうして一息つけた時には、もうとっくに真夜中を回っていた。
マリアは弱音こそ吐かないが、長い一日を終えてさすがに少し疲れているようだ。
やっと二人だけの時間がやって来て、ソファーでマリアを抱きしめていると、もうウェディングドレスは着ていなくても、ようやく彼女が自分と結婚してくれたのだと実感出来た。
抱きしめて軽いキスをする。
相変わらず恥ずかしがっているのが顔に出るマリアを見るのがエドワードはたまらなく好きだった。
「エドワード様は全然お疲れではないのですね」
「そうでもないよ。でも、マリアはどれも重いドレスばかりで大変だったけど、僕のは構造的にはいつもとそう変わらないから、そのせいかもね」
「本格的なドレスを一日に何度も着替えたりするのが、あんなに大変なものだなんて、知りませんでした……」
「でも皆には大好評だったね。とっても可愛いお姫様だって。」
「それは、エドワード様の手前、皆さんそうおっしゃいます。」
「そんなこと無いよ、老若男女、全員君に見惚れてた。」
「そうでしょうか……皆さんエドワード様をご覧になってましたよ」
相変わらず謙虚なマリアに、可愛い過ぎて、夫になった今でも誰かに奪われそうで心配だから閉じ込めたくなると告げたら、また不気味に思われるだろうか。
「そう言えばマリアの従兄弟、すごくかっこいい人だったね」
アランの事は、マリアにアクシデントのキスの話を聞いてから勝手に対抗意識を燃やしていた。
マリアの親戚だから、格好良いのだろうとは思っていたけれど、実際に会ったら格好良いのは勿論、そのにじみ出る様な人の良さに打ちのめされた。
腹黒い自分には絶対に真似できない領域だ。
「アランですか? そうかもしれませんね。小さい頃から見慣れていて特に意識したことがなかったです」
マリアもアランもお互いに何の気も無いのは分かっているのに、(こいつがマリアの唇を奪った不届き者か)とお門違いな恨みを抱いてガンを飛ばしそうになってしまった。いや、もしかしたら飛んでいたかもしれない。
自分の男としての器の小ささは、この半年間で身に染みていた。
事マリアに関して言うと、ティースプーン程の容量もないかもしれない。
自分がマリアを好き過ぎるせいなのか、マリアとまだ深い関係になっていないからなのか、つい嫉妬深くなったり、異常に執着してしまう。
何度も一線を越えたい衝動に駈られたけれど、マリアの中で義母と伯爵の事は少なからず尾を引いているし、無理強いはしたくなかった。
それなのに、日毎にマリアはどんどん色っぽくなって行って、初夜である今日こそはと思っていたけれど、マリアの疲労の加減を見ると、今夜は無理そうだ。
(明日も明後日も一緒に居るんだから、これから機会はいくらでもある)
そう思って己を律する。
ふとマリアを見るといつのまにか自分の腕の中で微睡み始めていた。
エドワードはそっとマリアを抱き上げて寝室まで運び、ベッドに降ろす。
「エドワード様……?」
部屋を出かけた所で呼び止められて振り返ると、一気に目が覚めて取り乱したマリアがベッドを降りてきた。
「すみません! 私、いつの間にか寝てしまって……」
「今日はとても忙しかったからね。ゆっくりお休み。僕ももう少ししたら休むよ」
謝るマリアの額にキスを落としたエドワードは、これ以上ここにいると、自分がコントロール出来なくなりそうで、マリアに背を向けてやや足早に寝室を出ようとする。
「待って下さいっ」
マリアに後ろから抱きつかれて、エドワードは固まる。
「行かないで下さい……今日は……」
消え入りそうな程の細い声で言われ振り返ると、マリアはうつむいて顔を見せようとしない。
「マリア、どうしたの?」
「眠ってしまってすみません、でも今日は結婚して初めての夜です……だから……今夜は……」
腰に回されたマリアの細い腕にぎゅっと力が込められる。
エドワードはうつむくマリアの方へ屈んで口付けた。
「そんな事言われたら、勘違いしたくなる」
「勘違いじゃないです……」
「──マリアのこと、本当はすごく抱きたかった。昼間も今も、いつも以上に綺麗なマリアの隣でずっとそんな事ばっかり考えてたんだ。このドレスを無理矢理脱がして抱いてみたいとか、全部の予定が終わったら、朝までむちゃくちゃに抱きたいとか、一生に一度しかない神聖で大切な日なのに。こんな最低な僕でもいいの?」
「エドワード様じゃなくちゃ嫌です……」
はしばみ色の瞳に見上げられてそう言われると、もう止まれなかった。
マリアを抱き上げると、ベッドに座らせる。
「 本当にいいの? もうここであと一回でもマリアにキスしたら、止まれない──」
マリアはこくりと頷くと、自分からエドワードに抱きついてキスをした。
「エドワード様もお疲れ様でした」
午前中の教会での結婚式から始まって、昼間の城下町での御披露目、夕方からのカクテルパーティー、その後の晩餐会と、怒涛のスケジュールが終わり、こうして一息つけた時には、もうとっくに真夜中を回っていた。
マリアは弱音こそ吐かないが、長い一日を終えてさすがに少し疲れているようだ。
やっと二人だけの時間がやって来て、ソファーでマリアを抱きしめていると、もうウェディングドレスは着ていなくても、ようやく彼女が自分と結婚してくれたのだと実感出来た。
抱きしめて軽いキスをする。
相変わらず恥ずかしがっているのが顔に出るマリアを見るのがエドワードはたまらなく好きだった。
「エドワード様は全然お疲れではないのですね」
「そうでもないよ。でも、マリアはどれも重いドレスばかりで大変だったけど、僕のは構造的にはいつもとそう変わらないから、そのせいかもね」
「本格的なドレスを一日に何度も着替えたりするのが、あんなに大変なものだなんて、知りませんでした……」
「でも皆には大好評だったね。とっても可愛いお姫様だって。」
「それは、エドワード様の手前、皆さんそうおっしゃいます。」
「そんなこと無いよ、老若男女、全員君に見惚れてた。」
「そうでしょうか……皆さんエドワード様をご覧になってましたよ」
相変わらず謙虚なマリアに、可愛い過ぎて、夫になった今でも誰かに奪われそうで心配だから閉じ込めたくなると告げたら、また不気味に思われるだろうか。
「そう言えばマリアの従兄弟、すごくかっこいい人だったね」
アランの事は、マリアにアクシデントのキスの話を聞いてから勝手に対抗意識を燃やしていた。
マリアの親戚だから、格好良いのだろうとは思っていたけれど、実際に会ったら格好良いのは勿論、そのにじみ出る様な人の良さに打ちのめされた。
腹黒い自分には絶対に真似できない領域だ。
「アランですか? そうかもしれませんね。小さい頃から見慣れていて特に意識したことがなかったです」
マリアもアランもお互いに何の気も無いのは分かっているのに、(こいつがマリアの唇を奪った不届き者か)とお門違いな恨みを抱いてガンを飛ばしそうになってしまった。いや、もしかしたら飛んでいたかもしれない。
自分の男としての器の小ささは、この半年間で身に染みていた。
事マリアに関して言うと、ティースプーン程の容量もないかもしれない。
自分がマリアを好き過ぎるせいなのか、マリアとまだ深い関係になっていないからなのか、つい嫉妬深くなったり、異常に執着してしまう。
何度も一線を越えたい衝動に駈られたけれど、マリアの中で義母と伯爵の事は少なからず尾を引いているし、無理強いはしたくなかった。
それなのに、日毎にマリアはどんどん色っぽくなって行って、初夜である今日こそはと思っていたけれど、マリアの疲労の加減を見ると、今夜は無理そうだ。
(明日も明後日も一緒に居るんだから、これから機会はいくらでもある)
そう思って己を律する。
ふとマリアを見るといつのまにか自分の腕の中で微睡み始めていた。
エドワードはそっとマリアを抱き上げて寝室まで運び、ベッドに降ろす。
「エドワード様……?」
部屋を出かけた所で呼び止められて振り返ると、一気に目が覚めて取り乱したマリアがベッドを降りてきた。
「すみません! 私、いつの間にか寝てしまって……」
「今日はとても忙しかったからね。ゆっくりお休み。僕ももう少ししたら休むよ」
謝るマリアの額にキスを落としたエドワードは、これ以上ここにいると、自分がコントロール出来なくなりそうで、マリアに背を向けてやや足早に寝室を出ようとする。
「待って下さいっ」
マリアに後ろから抱きつかれて、エドワードは固まる。
「行かないで下さい……今日は……」
消え入りそうな程の細い声で言われ振り返ると、マリアはうつむいて顔を見せようとしない。
「マリア、どうしたの?」
「眠ってしまってすみません、でも今日は結婚して初めての夜です……だから……今夜は……」
腰に回されたマリアの細い腕にぎゅっと力が込められる。
エドワードはうつむくマリアの方へ屈んで口付けた。
「そんな事言われたら、勘違いしたくなる」
「勘違いじゃないです……」
「──マリアのこと、本当はすごく抱きたかった。昼間も今も、いつも以上に綺麗なマリアの隣でずっとそんな事ばっかり考えてたんだ。このドレスを無理矢理脱がして抱いてみたいとか、全部の予定が終わったら、朝までむちゃくちゃに抱きたいとか、一生に一度しかない神聖で大切な日なのに。こんな最低な僕でもいいの?」
「エドワード様じゃなくちゃ嫌です……」
はしばみ色の瞳に見上げられてそう言われると、もう止まれなかった。
マリアを抱き上げると、ベッドに座らせる。
「 本当にいいの? もうここであと一回でもマリアにキスしたら、止まれない──」
マリアはこくりと頷くと、自分からエドワードに抱きついてキスをした。
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