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13、結ばれないリボン

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「マリア、もし良かったらこれをもらってくれる?」

教会での結婚式の直前、そう言ってアリシアが渡してくれたのは、真っ白なレースのリボンだった。

繊細な手編みのレースは、北の地方の伝統的な技術で丁寧に作られている。

「もしかして、これ、お義母様が……?」

義母の出身地を思い出したマリアの問いに頷くアリシア。

「マリアにはずっと母親らしいことを何一つしてあげられなくて、本当にごめんなさい」

「そんなこと──ありがとうございます!」

マリアは嬉しい気持ちと、素直に喜べない気持ちが混在していたけれど、アリシアを抱きしめて礼を言った。

その肩は細く、想像していたよりもずっと華奢なものだった。

「ほら、折角のドレスが汚れてしまうわ」

アリシアはマリアから離れると、ドレスに皺が寄っていないか見てくれた。



半年前の森での最悪なハプニングから、本当に色々あった。

アリシアを軽蔑した時もあったし、今でも何故あんな事を、と思ってしまう時がある。

けれど自分も恋を知って、その喜びやときめきを少しは理解出来た今、共感は全く出来なくても、アリシアの気持ちを想像してみる事は出来るようになった。


アリシアは伯爵が国外追放になっても、特に変化は無かった。

あれ程伯爵への恋にはまっているように見えたのに、この六ヶ月間アリシアが落ち込んでいる瞬間を見たことが無かった。

(私達家族には見せなかっただけかもしれないけど……)


マリアはずっとずっと考えて、今日までアリシアと伯爵の事は誰にも言っていない。

知っているのはエドワードと自分だけ。

アリシア本人にもその事について話した事は無かった。

時々急にあの日の事が思い出されて、憤る事もあるけれど、せめて何の罪も無い妹達には幸せに暮らして欲しかったし、その後アリシアが他の人とどうこうなっている気配も無いので、今は何も言わないのが良いように思えた。


アリシアが部屋を出ると、マリアはそのリボンを綺麗に畳んで化粧台の上に置いた。

そろそろだと使いの者が呼びに来て、後ろに掛けていたベールを前にして被る。

このベールが再び上げられる時はもう、エドワードと夫婦になっている。

そう思うと体中に喜びが駆け巡って、先程のアリシアとのやり取りや、やるせない思いが吹き飛んで行く。

マリアは白い薔薇のブーケを手に取り、部屋を出た。




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