最悪な結婚を回避したら、初恋をがっつり引きずった王子様に溺愛されました

灰兎

文字の大きさ
上 下
8 / 17

8、ノーカウントなキス

しおりを挟む
「それで、これからの事だけど──」

庭から戻り人払いをした応接室で、エドワードは先程とは打って変わって深刻な表情で話し始めた。

「婚約の事は心配しないで。もしマリアが破棄したいと思ったら、いつでも応じる。本当の事を言えば絶対応じたくはないし、今日にでも結婚してしまえたらと思っているけど、マリアの気持ちは尊重したい」

「……はい、ありがとうございます」

ソファに隣り合って座るのは話しにくいから、向かいに座ってくれたらなと思いつつも、真摯に礼を述べるマリア。

「それで、問題なのは伯爵と君のお義母様の事だけど、あれから少し考えてみた?」

「はい……でも正直答えは見つかりませんでした。エドワード様と婚約させて頂いて、ベルンハルト伯爵との結婚の話は白紙に戻った今、父に大きな心的ショックを与えるのは最善ではないのかもと思っています。妹と弟にとっても辛い出来事として残ってしまうと思うと……それに私には、両親の夫婦仲が悪いとは思えないんです──」

「そうなると、今のところは伯爵との関係がきっちり終わって欲しい、と言うのがマリアの望む着地点?」

「そうだと思います……私が知らないだけかもしれませんが、義母は伯爵の前にも誰か愛人がいたとは思えません。一人で外出する事なんて全然無かったですから……」

「実はその事について調べてみたんだけど、確かに君のお義母様に伯爵以前にそう言う噂は無かった。けれど、伯爵の方は物騒な噂がいくつも耳に入ってきたんだ。未亡人を狙って結婚詐欺紛いの事をしているって」

「結婚詐欺!?」

「あぁ、若くして夫に先立たれた女性に結婚をちらつかせて迫り、財産を横取りしてはまた別の女性を狙う、と言う噂だ」

「最低……」

「マリアの言う通りだよ。だけど事件の性質上、なかなか女性の方も訴え辛いと言うのが実情の様だ。君のお義母様には最初、マリアを紹介してもらおうと近付いたらしい」

「何故私を? 財産は父のものなのに」

「そろそろ結婚詐欺も潮時と思ったのか、今度は裕福な家の令嬢を探し始めたんだ。そしてマリアのお父様の財産目当てに近付いてみたら、君のお義母様とそう言う仲になってしまったと言う訳だ」

「そんな理由で……」

「ただ伯爵が既婚者のお義母様と金銭的なメリットがないのに何故付き合っていて、君との結婚も遂行しようとしたのかは、聞いてみないと分からない。近々逮捕状が出るはずだから、その後に事情聴取で訊くことになると思う」

「逮捕!?」

「複数の女性を騙したからね。妥当な判断だ。逮捕されれば物理的に君のお義母様とも会えなくなる」

「そうですね──」

マリアはこの状況に安堵するべきなのか、判らない。

「伯爵が逮捕されて、もし義母との事が明るみに出たら、エドワード様や王室の皆様のご迷惑になりませんか?」

「問題にはならないけど、国民の間では話題になるだろうね。心配しなくても、王室には他にもゴシップがごまんとあるから、大丈夫だよ。でも、君達のご家族の事もあるから、表沙汰にはならないよう、細心の注意を払うよ」

「ありがとうございます」

マリアはエドワードに深々と頭を下げる。

「心配しないで、君も君の大切な人もきちんと守るから」

エドワードはマリアを安心させるように微笑んだ。

「ところで今のこの状況とか、ちょっとだけときめいてくれても良いかなって思ったんだけど、どう?」

マリアの両手を握って、首を傾げるようにのぞきこまれる。

「それをエドワード様が言ったら台無しです!」

数秒前まで真剣な話をしていたのに、急にふざけ出すエドワードの感覚がよくわからないけれど、何だか可笑しくて笑ってしまう。

「そっか、残念。じゃあ次の作戦を考えなきゃだ。僕のお姫様は手強いなぁ」

そう言ってマリアの頭を撫でるエドワード。

その手を心地好く思う気持ちは恋に入るのかな、と思いながらマリアはエドワードを見上げる。

(それにしてもかっこいいなぁ。こんなに素敵な人が何で私を好きなんだろ……)

「マリア、そんなに見つめられるとキスしたくなっちゃう」

「え、あ、ごめんなさい、もう見ません!」

「ううん、むしろもっと見てよ。僕の事、マリアの綺麗な瞳にずっと映していて欲しい」

エドワードのオリーブ色の瞳が近付いて来て、のぞきこまれる。

その美しい光彩を放つ瞳につい見惚れてしまっていたら、唇に温かい物が触れた。

それがエドワードの唇だと気付くのに、たっぷり五秒は掛かった。

「エドワード様……!」

「ごめん、マリアの事が好き過ぎて──」

エドワードはすまなそうな顔はしているが、瞳は輝き頬は紅潮している。

「私の、ファーストキス……」

マリアは驚きで固まっている。

「マリアのファーストキスは、あの湖の街で僕とした時だよ。やっぱり忘れちゃったんだね……」

「覚えてないです……」

「でもそれじゃあ、その後マリアは誰ともキスして無いんだね?」

「恋人同士のキスはありません、アクシデントでアランと一度──」

「え、アランて誰!?」

急に慌てふためくエドワード。

「従兄弟です。ちっちゃい頃、馬車から降りる時にエスコートしてもらって、私が転んでたまたまキスしちゃったんです」

「それ、何歳の時?」

食い込み気味に訊いてくるエドワードの目は笑っていない。

「えっと、キアラ達が来る少し前だから、十歳とかそこら辺です」

「なんだ、じゃあやっぱり僕が先だ。良かった。全然良くないけど」

「そ、そんな昔の事は良いんです!今ので大人になってからの私のファーストキスは、奪われてしまいました……」

「ごめん、マリア。でももうしちゃったから返せない」

アランの話を聞いて、対抗意識なのか完全に開き直るエドワード。

「……今のは同意じゃないので、ノーカウントにします」

「分かった、じゃあ次のデートの時は同意してもらってからキスする」

「エドワード様……」

今のキスにドキドキしたかと聞かれたら、びっくりの方が大きかった。

でもあんなに異性に顔を近付けられて警戒していなかったのだから、自分もちょっとはエドワードを好きなのではないかと思える。
それに、本当に自分が嫌がりそうなことは、エドワードはしない気がした。

(エドワード様とキスしてもいい、って私が無意識で思っていたのを見抜かれたのかな。キスしてもいいって思える相手が居るのは恋の始まりじゃないのかな……)


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ケダモノ王子との婚約を強制された令嬢の身代わりにされましたが、彼に溺愛されて私は幸せです。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ミーア=キャッツレイ。そなたを我が息子、シルヴィニアス王子の婚約者とする!」 王城で開かれたパーティに参加していたミーアは、国王によって婚約を一方的に決められてしまう。 その婚約者は神獣の血を引く者、シルヴィニアス。 彼は第二王子にもかかわらず、次期国王となる運命にあった。 一夜にして王妃候補となったミーアは、他の令嬢たちから羨望の眼差しを向けられる。 しかし当のミーアは、王太子との婚約を拒んでしまう。なぜならば、彼女にはすでに別の婚約者がいたのだ。 それでも国王はミーアの恋を許さず、婚約を破棄してしまう。 娘を嫁に出したくない侯爵。 幼馴染に想いを寄せる令嬢。 親に捨てられ、救われた少女。 家族の愛に飢えた、呪われた王子。 そして玉座を狙う者たち……。 それぞれの思いや企みが交錯する中で、神獣の力を持つ王子と身代わりの少女は真実の愛を見つけることができるのか――!? 表紙イラスト/イトノコ(@misokooekaki)様より

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き

待鳥園子
恋愛
「では、言い出したお前が犠牲になれ」 「嫌ですぅ!」 惚れ薬の効果上書きで、女嫌いな騎士団長が一時的に好きになる対象になる事になったローラ。 薬の効果が切れるまで一ヶ月だし、すぐだろうと思っていたけれど、久しぶりに会ったルドルフ団長の様子がどうやらおかしいようで!? ※来栖もよりーぬ先生に「30ぐらいの女性苦手なヒーロー」と誕生日プレゼントリクエストされたので書きました。

拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。

石河 翠
恋愛
婚約者に婚約破棄をつきつけられた公爵令嬢のマーシャ。おバカな王子の相手をせずに済むと喜んだ彼女は、家に帰る途中なんとも不細工な猫を拾う。 助けを求めてくる猫を見捨てられず、家に連れて帰ることに。まるで言葉がわかるかのように賢い猫の相手をしていると、なんと猫の中身はあの王太子だと判明する。猫と王子の入れ替わりにびっくりする主人公。 バカは傀儡にされるくらいでちょうどいいが、可愛い猫が周囲に無理難題を言われるなんてあんまりだという理由で救出作戦を実行することになるが……。 もふもふを愛するヒロインと、かまってもらえないせいでいじけ気味の面倒くさいヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより pp7さまの作品をお借りしております。

処理中です...