最悪な結婚を回避したら、初恋をがっつり引きずった王子様に溺愛されました

灰兎

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7、秘密の花言葉

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「行って参ります」

マリアは両親に挨拶をすると、城から遣わされた馬車に乗った。

(これからが正念場だわ……)

馬の蹄の音を聞きながら、義母と伯爵の事を思い、思わずため息が出る。




先日、凄腕の商人も顔負けのプレゼンテーション力と、生まれ持った肩書きで、マリアと実は幼い頃に出会っていた事、その後やっとマリアと再会出来て是非とも結婚させて欲しい、何故彼女でないと駄目かと言う事等を滔々とうとうと語り、マリアの両親を説得するやいなや、光の速さでマリアとエドワードの婚約が結ばれた。
婚約に際してマリアの一家は城に招かれ、父もアリシアもそれは嬉しそうにしていた。
マリアも、エドワードと話す内に、エドワードが身分を偽ってはいないと思うようになっていたが、いざ城に招待されると本当にこの国の王子だったのだと実感した。

国王も王妃も、エドワードの初恋の話は前から知っていたので、諸手を挙げて喜んでいる訳では無いのだろうが、表立って反対はされなかった。




「マリア、来てくれてありがとう」

エドワードに城で会うのは、婚約の時以来二度目だけれど、ビシッと正装した『王太子エドワード』は何だか遠く感じてしまう。

「こちらこそ、ご招待どうもありがとうございます」

「今日はマリアに見せたいものがあるんだ」

エドワードは周りの目も気にせずマリアの手を取ると、バルコニーから庭に出た。

「この庭には二百種類の薔薇が植えられているんだけど、数日前から君と同じ『マリア』って言う名前の白い薔薇も花を咲き始めたんだ」

「白薔薇は、亡くなった母がとても好きなお花でした。私もその影響か、大好きです」

マリアがそう言うと、エドワードは嬉しそうに微笑んだ。

連れて行ってくれたのは、庭の中央の噴水の先のアーチをくぐって少し行った所だった。

マリアの掌に収まりそうな位の上品で可憐な白い薔薇がいくつも咲いている。

よく見ると、中央の花弁はごく薄いピンクに色付いている。

「とても綺麗ですね、こんなに美しい薔薇と同じ名前だなんて、完全に名前負けです……」

マリアは気恥ずかしくなり、おどけて言った。

「マリアの方が綺麗だよ。でも見せられて良かった。実はマリアって名前の薔薇があるって教えてもらって自分で育てたんだ」

「エドワード様が自ら!?」

「うん、僕が君に会えずにひどく落ち込んでいるのを心配した弟が、たまたま弟の母君が育てていた花の名前がマリアだと知って、教えてくれたんだ。最初の頃のは枯らしてしまったけれど、これはもう六年目だよ」

マリアはそのエピソードを聞いて、ついにずっと不思議に思っていた事を思いきって口にした。

「あの、こんな事聞くのは失礼と言うか、傲慢なのかもしれませんが、どうしてそんなに私の事を思って下さるんでしょうか?」

マリアが尋ねると、エドワードはしばらく顎に手を当てて考え込む。

「一目惚れだったから説明は難しいなぁ」

「一目惚れですか? 私に?」

「そうだよ」

「でもエドワード様の方が綺麗ですよ? それに一目惚れだったとしても、そんなに長い間、会ってもいなかったのに思い続けられるものですか?」

「それは経験した人にしか分からないよ。あの頃も今も、マリアは僕に一目惚れどころか、ときめいてすらくれないんだから」

エドワードは苦笑いを浮かべる。

「そんな事ないです、エドワード様みたいな素敵な方といたらドキドキします」

「それは単にマリアが異性に免疫が無いからだよ。恋に落ちた人と居る時って、ドキドキし過ぎて、一緒に飲んだ紅茶の味も思い出せない位舞い上がるんだよ? それなのにその人の表情や、声や香りは残酷過ぎるほど鮮明に覚えているんだ」

そう言われて、マリアはエドワードと会った時の事を思い返してみる。

(確かに、この間婚約した時に食べたケーキの味も紅茶の味も覚えてる。でもそれはただ単に私の食い意地が張ってるだけだろうし……)

黙り込んだマリアを見て、肯定しているものと捉えたエドワードは、マリアに聞こえないように小さく溜め息をついた。

「婚約したのも何かのご縁ですし、エドワード様が私に恋を教えて下さいませんか? 私、頑張りますので!」

昔から気力と努力と我慢で色々を乗り越えて来たマリアの突然の決意は潔いものだった。

「マリア、そこからもうちょっと違うんだ。恋は習うんじゃなくて、落ちるものだから……」

エドワードにそう言われるものの、マリアにはいまいち響かない。



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