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6、甘く溶け合う相違点
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(やっぱり居ないか……そりゃそうだよね)
いつもより十分は早く森に着いたが、そのせいですっかり汗だくだ。
しばらくいつもの丸太の上に座って、待ってみる事にした。
(二時間待っても逢えなかったら、今日は帰ろう)
そう思った矢先、エドワードが走って現れた。
一昨日と比べて随分上等な服を着ているようだ。
「マリア、ごめん! 遅くなって」
「いえ、大丈夫です。え、あれ、私達、約束してましたか?」
「ううん、でもきっと来てくれるんじゃないかと思って、ここにマリアが来たら、僕に連絡が来るように手配していたんだ」
どうやって、と思ったけれど、今はそれどころではないと思いなおす。
「昨日父に手紙を送ったのはエドワード様ですか?」
「うん、マリアがお見合いするって聞いて、急いで色々準備したんだ」
走って来て暑いのか、ジャケットを脱ぎながら、マリアの横に腰掛ける。
「ありがとうございます……。実は私、エドワード様にお話したいことがありまして──」
「もしかして僕、これから結婚の申し込みを断られる?」
若干顔を強ばらせたエドワードが探るように尋ねてくる。
「いえ、その事ではなく……昨日お見合いをした相手がベルンハルト伯爵と言う方で、この前森にいた男性だったんです。それでその、私の義理の母と……」
「不倫してるんだよね?」
「え、私の義母をご存知だったのですか?」
「──不審者扱いされそうだから言いたくなかったけど、あの日、君の後をこっそりつけたんだ」
(不審者です……)
「そしたら君のお義母様が馬車から出てくるのが見えて、森で見た女性だった。伯爵の方は何度か夜会で見かけた事があったんだけど、毎回女性に囲まれて、随分楽しそうにしているから、目立っていたよ」
「そうだったのですね……」
「君が僕をもう何とも思っていないとしても、差し迫った伯爵との結婚を止めるために少々強引な策を取らせてもらった」
「もう何とも……? 私達、一昨日会ったばかりでは」
どこかのパーティーで会った事があるのかと、エドワードの顔を食い入る様に見てみるも、思い出せない。
第一、王太子に会っていたら忘れるはずもないし、そもそも自分の家の身分では王族が出席する様なパーティーにはまず呼ばれない。
「『マリア、大きくなったら僕と結婚しようね』ってプロポーズしたの覚えてない?」
「ではエドワード様はやはりあの時の『エドワード』なのですか!?」
「そうだよ、やっと思い出してくれた?」
嬉しそうに頷くエドワードは少しでも近付いたら、抱きしめられてしまいそうだ。
丸太の上を若干後退りしつつ、無理やり話を戻すマリア。
「あの、エドワード様のお手紙のお陰で、あの事を父に話さなくても伯爵と結婚せずに済む事になったのですが、エドワード様は私を助ける為だけに結婚するなんて言ってしまって大丈夫なんでしょうか?」
「伯爵との結婚を阻止したかったのは本当だけど、その為に結婚を申し込んだ訳じゃない。
僕はマリアじゃなきゃ駄目なんだ。このまま僕との結婚話を進めれば、マリアは伯爵と結婚せずに済むし、僕はずっと好きだったマリアと一生一緒に居られる。全部丸く収まると思わない? マリアに僕を好きになってもらうって言う最重要課題は残ってるとしても」
「……そうかもしれません、でも父に正直に告げる方が良いかとも思っていて……」
「もしマリアが望むなら僕はいつでも御父上に話すよ。でも、伯爵との結婚話が破棄された今、マリアには考える時間が出来た。お義母様と伯爵の事をお父上に話すかどうか、少し時間を置いてから決めてもいいんじゃないかな。」
「そうですね……これからもお義母様が父を裏切り続けるのは見ていられませんが、父や妹弟が傷付くのも嫌ですし……」
「分かった。じゃあこれから一緒に解決策を考えよう。その為にも、まずは君と正式に婚約しないと」
「えっ!」
「だって婚約したら、ここでこそこそ逢ったりじゃなくて、堂々と二人きりで庭園を歩いたり、演劇鑑賞に行ったり、出来るんだよ? 作戦会議には持ってこいじゃない?」
「ですが……」
話し合いの為と言っているのに、エドワードの口調はまるで密会を楽しみにしている恋人の様だ。
「それに、そうでもしないと、マリアは僕に会ってくれないでしょ? 振り向いてもらう機会も無いまま好きな子に振られたくない」
そのオリーブ色の瞳は、マリアを甘く溶かすように見つめている。
「好きな子って、そんな会ったばかりで……」
「会ったばかりじゃないよ。出会ってからもう十年近くも経ってる」
「でもそれは子供の頃の何て言うか、淡い思い出と言うか──」
「マリアにとってはそうだったかもしれないけど、僕には全身全霊の初恋だよ、今も継続中のね。全然淡い初恋なんかじゃない、むしろ待ちすぎてドロドロだ」
「そんな……」
「これから色々大変だけど、二人で乗り越えよう。それで、最後にマリアが僕を好きになってくれたらいいな」
エドワードはマリアの手の甲に口付けた。
「今日から改めて宜しくねマリア」
「……宜しくお願いします」
エドワードはマリアを優しく抱きしめた。
「エドワード様、あの──」
突然の事にマリアは戸惑うけれど、昨日伯爵に手を触られた時みたいに、早く離れたいとは思わなかった。
「マリアが嫌がることはしないから……一昨日から色々あって、大変だったでしょ? 僕にはわがままでも何でも言っても大丈夫だからね。泣きたかったら我慢しなくて大丈夫だよ」
そう言ってくれたけど、エドワードに抱きしめられて、極度の緊張とドキドキで、マリアの涙腺は緩まなかった。
でもエドワードの穏やかな香りと体温に包まれているうちに、自分がとても心細かったのだと気付いた。
「僕からプロポーズしたのに、迎えに来るのが遅くなってごめん。どんなことをしてでも、もっと早く会いに来れば良かった」
「いえ、昨日の今日ですから、遅くなんて無いです」
「昨日の事じゃなくて、マリアに初めてプロポーズした時の事。もう何年も前だ」
「あれは……お互い小さかったですし、特に連絡先も交換していなかったですから……」
「うん、それが敗因だった。まさかベルンハルト伯爵に先を越されるなんて──」
エドワードはぎゅっとマリアを抱く力を強めた。
「ねえマリア、昔みたいにエドワードって呼んで」
「そんな、出来ません! 不敬罪で捕まってしまいます」
「マリアに『エドワード様』なんて他人行儀に呼ばれたくない。マリアの前ではただのエドワードで居たいんだ。ね、お願い」
いつの間に髪の間に手を差し込まれ、上を向かされる。
(この体勢って、もしかしてキス……!?)
マリアは腕力でも権力でも勝てない相手をどうやって拒否しようか考えあぐねた。
「エ、エドワード様はあの避暑地によくいらっしゃるんですか?」
不自然なポジションのまま、なんとか繰り出した質問。
エドワードは少し不満気にするも、マリアの気持ちを汲み取ったのか、キス寸前の体勢からマリアを解放してくれた。
「あそこにはあれ以来行ってないよ。当時、王都で貴族の子供の誘拐事件が多発していて、それで僕も都を離れていたんだ」
「そんな大変な理由で……」
「マリアに会えたから、あの時の事は今も宝物だよ。誘拐事件が一段落したら、王都に戻って君を見つけて会いに行くつもりだったのに、王太子としての教育や行事で忙殺されて、なかなか調査が進まなくて」
「調査?」
「幼い君の教えてくれた情報は名前だけだったから。でも住んでる街の近くに森があるって言っていたし、そこから少しずつ調べ始めたんだ。お姫様を迎えに行く騎士にでもなった気分だったよ。」
クスッと笑うエドワードの声が耳に心地好い。
「エドワード様が、自らお調べになったんですか?」
「うん、誰にも内緒でね。僕が関心を示している人物が居るって周りにばれたら、それだけで君に危害が及んでしまうから。それにこれは男として自分でやり遂げるべき事だと思って」
「エドワード様……」
「これからは僕や僕の周りの人間が全力で守るけど、僕との婚約が世間に知れ渡ったら、今までよりも危険な事や不愉快な事に直面するかもしれない。本当にごめん、それでも君を諦められなかったんだ……」
「私は大丈夫です。心配しないで下さい。結構頑丈なんです」
「でもだからって何も感じない訳ではないでしょ? マリアはとても繊細だから」
「繊細ではないと思いますけど……でも今回の事、エドワード様が居て下さって、とても心強いです」
「少しでも力になれたなら良かった」
エドワードはおもむろにマリアの両手を自分のそれで包み込んだ。
「これがロマンチックなおとぎ話とかだと、この後二人は熱いキスをするんだけど──」
エドワードは期待を込めた目でマリアを見てくる。
「ダ、ダメですそんな、はしたないこと! 」
マリアがそう言うと、エドワードはがくっと項垂れた。
「そうだよね、さすがに早すぎるよね」
「そうです。キスは結婚式の時に初めて行う神聖な物です」
マリアのその言葉にエドワードが凍り付く。
「──そう言えばマリアって、長女だっけ?」
「はい。下に妹と弟が居ます」
「そうか、家族に先駆者が居ないとなると、厳しいか……」
「先駆者? なんの事ですか?」
「うん、大丈夫。今のは僕が悪かった、ごめん。一昨日再会したばかりでキスなんて有り得ないよね」
ちょっと傷付いた様にエドワードが言うので、マリアは心が痛んだ。
「あの、でも、頬になら、挨拶ですから、神様もお許しになると思います……」
つい大胆な事を言ってしまい、段々小声になるも、何とか言い終えて、エドワードの頬にキスをした。
エドワードは赤面しながら左頬を押さえて固まっていると思ったら、急にマリアの唇のすぐ左横にキスをした。
「エドワード様っ!」
「唇にはしてないし、今のは可愛すぎるマリアのせいだから、これに関しては謝らない」
エドワードはいたずらっ子の様な顔をして今度は右頬にキスをするとマリアを腕に閉じ込めた。
いつもより十分は早く森に着いたが、そのせいですっかり汗だくだ。
しばらくいつもの丸太の上に座って、待ってみる事にした。
(二時間待っても逢えなかったら、今日は帰ろう)
そう思った矢先、エドワードが走って現れた。
一昨日と比べて随分上等な服を着ているようだ。
「マリア、ごめん! 遅くなって」
「いえ、大丈夫です。え、あれ、私達、約束してましたか?」
「ううん、でもきっと来てくれるんじゃないかと思って、ここにマリアが来たら、僕に連絡が来るように手配していたんだ」
どうやって、と思ったけれど、今はそれどころではないと思いなおす。
「昨日父に手紙を送ったのはエドワード様ですか?」
「うん、マリアがお見合いするって聞いて、急いで色々準備したんだ」
走って来て暑いのか、ジャケットを脱ぎながら、マリアの横に腰掛ける。
「ありがとうございます……。実は私、エドワード様にお話したいことがありまして──」
「もしかして僕、これから結婚の申し込みを断られる?」
若干顔を強ばらせたエドワードが探るように尋ねてくる。
「いえ、その事ではなく……昨日お見合いをした相手がベルンハルト伯爵と言う方で、この前森にいた男性だったんです。それでその、私の義理の母と……」
「不倫してるんだよね?」
「え、私の義母をご存知だったのですか?」
「──不審者扱いされそうだから言いたくなかったけど、あの日、君の後をこっそりつけたんだ」
(不審者です……)
「そしたら君のお義母様が馬車から出てくるのが見えて、森で見た女性だった。伯爵の方は何度か夜会で見かけた事があったんだけど、毎回女性に囲まれて、随分楽しそうにしているから、目立っていたよ」
「そうだったのですね……」
「君が僕をもう何とも思っていないとしても、差し迫った伯爵との結婚を止めるために少々強引な策を取らせてもらった」
「もう何とも……? 私達、一昨日会ったばかりでは」
どこかのパーティーで会った事があるのかと、エドワードの顔を食い入る様に見てみるも、思い出せない。
第一、王太子に会っていたら忘れるはずもないし、そもそも自分の家の身分では王族が出席する様なパーティーにはまず呼ばれない。
「『マリア、大きくなったら僕と結婚しようね』ってプロポーズしたの覚えてない?」
「ではエドワード様はやはりあの時の『エドワード』なのですか!?」
「そうだよ、やっと思い出してくれた?」
嬉しそうに頷くエドワードは少しでも近付いたら、抱きしめられてしまいそうだ。
丸太の上を若干後退りしつつ、無理やり話を戻すマリア。
「あの、エドワード様のお手紙のお陰で、あの事を父に話さなくても伯爵と結婚せずに済む事になったのですが、エドワード様は私を助ける為だけに結婚するなんて言ってしまって大丈夫なんでしょうか?」
「伯爵との結婚を阻止したかったのは本当だけど、その為に結婚を申し込んだ訳じゃない。
僕はマリアじゃなきゃ駄目なんだ。このまま僕との結婚話を進めれば、マリアは伯爵と結婚せずに済むし、僕はずっと好きだったマリアと一生一緒に居られる。全部丸く収まると思わない? マリアに僕を好きになってもらうって言う最重要課題は残ってるとしても」
「……そうかもしれません、でも父に正直に告げる方が良いかとも思っていて……」
「もしマリアが望むなら僕はいつでも御父上に話すよ。でも、伯爵との結婚話が破棄された今、マリアには考える時間が出来た。お義母様と伯爵の事をお父上に話すかどうか、少し時間を置いてから決めてもいいんじゃないかな。」
「そうですね……これからもお義母様が父を裏切り続けるのは見ていられませんが、父や妹弟が傷付くのも嫌ですし……」
「分かった。じゃあこれから一緒に解決策を考えよう。その為にも、まずは君と正式に婚約しないと」
「えっ!」
「だって婚約したら、ここでこそこそ逢ったりじゃなくて、堂々と二人きりで庭園を歩いたり、演劇鑑賞に行ったり、出来るんだよ? 作戦会議には持ってこいじゃない?」
「ですが……」
話し合いの為と言っているのに、エドワードの口調はまるで密会を楽しみにしている恋人の様だ。
「それに、そうでもしないと、マリアは僕に会ってくれないでしょ? 振り向いてもらう機会も無いまま好きな子に振られたくない」
そのオリーブ色の瞳は、マリアを甘く溶かすように見つめている。
「好きな子って、そんな会ったばかりで……」
「会ったばかりじゃないよ。出会ってからもう十年近くも経ってる」
「でもそれは子供の頃の何て言うか、淡い思い出と言うか──」
「マリアにとってはそうだったかもしれないけど、僕には全身全霊の初恋だよ、今も継続中のね。全然淡い初恋なんかじゃない、むしろ待ちすぎてドロドロだ」
「そんな……」
「これから色々大変だけど、二人で乗り越えよう。それで、最後にマリアが僕を好きになってくれたらいいな」
エドワードはマリアの手の甲に口付けた。
「今日から改めて宜しくねマリア」
「……宜しくお願いします」
エドワードはマリアを優しく抱きしめた。
「エドワード様、あの──」
突然の事にマリアは戸惑うけれど、昨日伯爵に手を触られた時みたいに、早く離れたいとは思わなかった。
「マリアが嫌がることはしないから……一昨日から色々あって、大変だったでしょ? 僕にはわがままでも何でも言っても大丈夫だからね。泣きたかったら我慢しなくて大丈夫だよ」
そう言ってくれたけど、エドワードに抱きしめられて、極度の緊張とドキドキで、マリアの涙腺は緩まなかった。
でもエドワードの穏やかな香りと体温に包まれているうちに、自分がとても心細かったのだと気付いた。
「僕からプロポーズしたのに、迎えに来るのが遅くなってごめん。どんなことをしてでも、もっと早く会いに来れば良かった」
「いえ、昨日の今日ですから、遅くなんて無いです」
「昨日の事じゃなくて、マリアに初めてプロポーズした時の事。もう何年も前だ」
「あれは……お互い小さかったですし、特に連絡先も交換していなかったですから……」
「うん、それが敗因だった。まさかベルンハルト伯爵に先を越されるなんて──」
エドワードはぎゅっとマリアを抱く力を強めた。
「ねえマリア、昔みたいにエドワードって呼んで」
「そんな、出来ません! 不敬罪で捕まってしまいます」
「マリアに『エドワード様』なんて他人行儀に呼ばれたくない。マリアの前ではただのエドワードで居たいんだ。ね、お願い」
いつの間に髪の間に手を差し込まれ、上を向かされる。
(この体勢って、もしかしてキス……!?)
マリアは腕力でも権力でも勝てない相手をどうやって拒否しようか考えあぐねた。
「エ、エドワード様はあの避暑地によくいらっしゃるんですか?」
不自然なポジションのまま、なんとか繰り出した質問。
エドワードは少し不満気にするも、マリアの気持ちを汲み取ったのか、キス寸前の体勢からマリアを解放してくれた。
「あそこにはあれ以来行ってないよ。当時、王都で貴族の子供の誘拐事件が多発していて、それで僕も都を離れていたんだ」
「そんな大変な理由で……」
「マリアに会えたから、あの時の事は今も宝物だよ。誘拐事件が一段落したら、王都に戻って君を見つけて会いに行くつもりだったのに、王太子としての教育や行事で忙殺されて、なかなか調査が進まなくて」
「調査?」
「幼い君の教えてくれた情報は名前だけだったから。でも住んでる街の近くに森があるって言っていたし、そこから少しずつ調べ始めたんだ。お姫様を迎えに行く騎士にでもなった気分だったよ。」
クスッと笑うエドワードの声が耳に心地好い。
「エドワード様が、自らお調べになったんですか?」
「うん、誰にも内緒でね。僕が関心を示している人物が居るって周りにばれたら、それだけで君に危害が及んでしまうから。それにこれは男として自分でやり遂げるべき事だと思って」
「エドワード様……」
「これからは僕や僕の周りの人間が全力で守るけど、僕との婚約が世間に知れ渡ったら、今までよりも危険な事や不愉快な事に直面するかもしれない。本当にごめん、それでも君を諦められなかったんだ……」
「私は大丈夫です。心配しないで下さい。結構頑丈なんです」
「でもだからって何も感じない訳ではないでしょ? マリアはとても繊細だから」
「繊細ではないと思いますけど……でも今回の事、エドワード様が居て下さって、とても心強いです」
「少しでも力になれたなら良かった」
エドワードはおもむろにマリアの両手を自分のそれで包み込んだ。
「これがロマンチックなおとぎ話とかだと、この後二人は熱いキスをするんだけど──」
エドワードは期待を込めた目でマリアを見てくる。
「ダ、ダメですそんな、はしたないこと! 」
マリアがそう言うと、エドワードはがくっと項垂れた。
「そうだよね、さすがに早すぎるよね」
「そうです。キスは結婚式の時に初めて行う神聖な物です」
マリアのその言葉にエドワードが凍り付く。
「──そう言えばマリアって、長女だっけ?」
「はい。下に妹と弟が居ます」
「そうか、家族に先駆者が居ないとなると、厳しいか……」
「先駆者? なんの事ですか?」
「うん、大丈夫。今のは僕が悪かった、ごめん。一昨日再会したばかりでキスなんて有り得ないよね」
ちょっと傷付いた様にエドワードが言うので、マリアは心が痛んだ。
「あの、でも、頬になら、挨拶ですから、神様もお許しになると思います……」
つい大胆な事を言ってしまい、段々小声になるも、何とか言い終えて、エドワードの頬にキスをした。
エドワードは赤面しながら左頬を押さえて固まっていると思ったら、急にマリアの唇のすぐ左横にキスをした。
「エドワード様っ!」
「唇にはしてないし、今のは可愛すぎるマリアのせいだから、これに関しては謝らない」
エドワードはいたずらっ子の様な顔をして今度は右頬にキスをするとマリアを腕に閉じ込めた。
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