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1、新しい家族
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マリアに新しい家族が出来たのは、彼女がまだ十二歳の頃だった。
「マリア、今日から家族になる人達だよ」
母が亡くなって一年が経った頃、いつもよりずっと早く帰宅した父の表情はすこぶる明るく、満面の笑みで新しい家族をマリアに紹介した。
亡くなった母より大分若い女性『アリシア』と、マリアより少し幼く可愛らしい女の子『キアラ』。
ポツンと立つマリアの前に父を含めた三人がずらっと並ぶ。
(私だけ仲間外れみたい……)
父も他の二人も金髪で、父と同じ青い目をしている。
マリアは母譲りのブルネットの髪にはしばみ色の瞳。
「よろしくね、マリアちゃん」
父の隣に立つ女性の優し気で目映い笑顔が何故か少し恐ろしく思えた。
新しい家族、継母アリシアと異母妹キアラとの生活はマリアの予想に反して穏やかなものだった。
仕事で家を空けることの多い父に代わり屋敷を取り仕切るアリシアは若いながらも頼もしく、二つ下のキアラもマリアにそこそこ懐いてくれていた。
そんなある日、母方の従兄弟のアランがマリア達を訪ねて来た。
十六になったばかりのアランに会うのは久し振りだった。
「マリア、大きくなったな」
母と同じはしばみ色の瞳がマリアを嬉しそうに見つめる。
「うん、もう十二歳だもん」
「そうか、そりゃ大きくなる訳だ。よく頑張ってるな、マリアは偉いよ。」
アランはマリアの髪をくしゃくしゃとかき混ぜる様に撫でた。
マリアはそれがくすぐったくて、目を細めた。
「そうだ、マリアも大分大きくなった事だし、あそこに行ってみないか?」
アランは町の北西に見える広大な森を指した。
「え、でも、あそこは行っちゃいけない森だよ?」
「入り口の方を少し見てみるだけだよ。それに、たまには屋敷の外に出たいだろ?」
「うん……」
アランが付いているならと、アリシアはすんなり外出を許してくた。
勿論、森へ行くとは言っていない。
その森はマリアの暮らすウィンドミルと隣のサウスブレア、二つの街の外れに跨がる大きな森で、魔力の宿った方位磁石を持つ猟師や木こりは出入りするものの、他の大人達は立ち入らず、子供達は行くことを禁止されていた。
猛獣や魔物が出る等の報告は無かったが、昔、森に出掛けた大人が、そのまま行方不明になることが続いた為と言われていた。
「ねぇアラン、急にあの森に行こうなんて、どうして思ったの?」
ゆったりと歩む馬に乗りながら、後ろに座るアランに尋ねる。
「 何故か行ってみたいって、急に思ったんだよ。でも少し入り口を覗くくらいだから、心配するな。」
「うん……?」
歯切れの悪いアランを不思議に思いつつ、二十分程行くと、いくつかある森の入り口のサウスブレア寄りの入り口に着いた。
馬を近くの木につなぎ止め、二人は森の中に歩を進めた。
昼間なので生い茂った緑の中にも木漏れ日が差し込み十分に明るく、不穏な雰囲気はしない。
森の外から想像していたのよりずっと美しい景色に、マリアは心が浮き立った。
「ここら辺でいっか」
「ありがとう」
アランは適当な丸太が転がる所にハンカチを敷くと、マリアを座らせた。
「ここに来たのは、お前がいつもあの家で無理してるんじゃないかって思ったからだ。屋敷や街中だと誰が聞いてるか分からないし、ここなら好きに話せると思って」
「アラン……」
「来るのが遅くなってごめんな。本当のところ、どうなんだ? アリシアさんやキアラとは」
「大丈夫だよ、アリシアさんも優しいし、キアラも私を慕ってくれてる」
「じゃあ、家の事を全部させられたり、一人だけご飯が粗末とか、そう言う某昔話みたいな事は無いんだな?」
「うん、大丈夫 」
そう言うマリアの手は、裕福な商人の家の娘らしく、傷一つ無い綺麗なものだった。
「そうか……でもそれなら、なんでそんなに悲しそうな顔をしてるんだ?」
アランの率直な問いと眼差しに、マリアは何も言えなくなってしまう。
「悲しくは無いよ……」
「本当にか?」
「うん、でも何となく居場所が無くて。三人が一緒に居ると、自分が邪魔者に思えるんだ。
キアラはお父様と血は繋がってないけど、同じ髪と目の色だから、私よりもキアラの方が本当の娘みたいで──」
「まさかキアラは──」
アランが言い掛けて、マリアは首を振った。
「それは無いと思う。顔も似てないし、最初の頃はキアラもお父様に懐いてなかった。私の気持ちの問題なの。もっと三人と仲良く出来たら良いんだけど……」
マリアの若草色のドレスに細い木漏れ日がいくつも落ちる。
「マリア、俺の家に来ないか?」
突然アランが言った言葉に、心が強く動かされるのを感じた。
「でも、そんなの迷惑じゃ……」
「迷惑なんかじゃない。俺の両親もマリアが望むならいつでも、って歓迎してる」
「……」
本当なら今すぐにでも連れていってとアランにすがりつきたかったけれど、それでは父との縁が永遠に切れてしまう気がした。
「今すぐには決められないと思うから、ゆっくり考えてみろよ」
「うん、ありがとう、アラン……」
「マリア、今日から家族になる人達だよ」
母が亡くなって一年が経った頃、いつもよりずっと早く帰宅した父の表情はすこぶる明るく、満面の笑みで新しい家族をマリアに紹介した。
亡くなった母より大分若い女性『アリシア』と、マリアより少し幼く可愛らしい女の子『キアラ』。
ポツンと立つマリアの前に父を含めた三人がずらっと並ぶ。
(私だけ仲間外れみたい……)
父も他の二人も金髪で、父と同じ青い目をしている。
マリアは母譲りのブルネットの髪にはしばみ色の瞳。
「よろしくね、マリアちゃん」
父の隣に立つ女性の優し気で目映い笑顔が何故か少し恐ろしく思えた。
新しい家族、継母アリシアと異母妹キアラとの生活はマリアの予想に反して穏やかなものだった。
仕事で家を空けることの多い父に代わり屋敷を取り仕切るアリシアは若いながらも頼もしく、二つ下のキアラもマリアにそこそこ懐いてくれていた。
そんなある日、母方の従兄弟のアランがマリア達を訪ねて来た。
十六になったばかりのアランに会うのは久し振りだった。
「マリア、大きくなったな」
母と同じはしばみ色の瞳がマリアを嬉しそうに見つめる。
「うん、もう十二歳だもん」
「そうか、そりゃ大きくなる訳だ。よく頑張ってるな、マリアは偉いよ。」
アランはマリアの髪をくしゃくしゃとかき混ぜる様に撫でた。
マリアはそれがくすぐったくて、目を細めた。
「そうだ、マリアも大分大きくなった事だし、あそこに行ってみないか?」
アランは町の北西に見える広大な森を指した。
「え、でも、あそこは行っちゃいけない森だよ?」
「入り口の方を少し見てみるだけだよ。それに、たまには屋敷の外に出たいだろ?」
「うん……」
アランが付いているならと、アリシアはすんなり外出を許してくた。
勿論、森へ行くとは言っていない。
その森はマリアの暮らすウィンドミルと隣のサウスブレア、二つの街の外れに跨がる大きな森で、魔力の宿った方位磁石を持つ猟師や木こりは出入りするものの、他の大人達は立ち入らず、子供達は行くことを禁止されていた。
猛獣や魔物が出る等の報告は無かったが、昔、森に出掛けた大人が、そのまま行方不明になることが続いた為と言われていた。
「ねぇアラン、急にあの森に行こうなんて、どうして思ったの?」
ゆったりと歩む馬に乗りながら、後ろに座るアランに尋ねる。
「 何故か行ってみたいって、急に思ったんだよ。でも少し入り口を覗くくらいだから、心配するな。」
「うん……?」
歯切れの悪いアランを不思議に思いつつ、二十分程行くと、いくつかある森の入り口のサウスブレア寄りの入り口に着いた。
馬を近くの木につなぎ止め、二人は森の中に歩を進めた。
昼間なので生い茂った緑の中にも木漏れ日が差し込み十分に明るく、不穏な雰囲気はしない。
森の外から想像していたのよりずっと美しい景色に、マリアは心が浮き立った。
「ここら辺でいっか」
「ありがとう」
アランは適当な丸太が転がる所にハンカチを敷くと、マリアを座らせた。
「ここに来たのは、お前がいつもあの家で無理してるんじゃないかって思ったからだ。屋敷や街中だと誰が聞いてるか分からないし、ここなら好きに話せると思って」
「アラン……」
「来るのが遅くなってごめんな。本当のところ、どうなんだ? アリシアさんやキアラとは」
「大丈夫だよ、アリシアさんも優しいし、キアラも私を慕ってくれてる」
「じゃあ、家の事を全部させられたり、一人だけご飯が粗末とか、そう言う某昔話みたいな事は無いんだな?」
「うん、大丈夫 」
そう言うマリアの手は、裕福な商人の家の娘らしく、傷一つ無い綺麗なものだった。
「そうか……でもそれなら、なんでそんなに悲しそうな顔をしてるんだ?」
アランの率直な問いと眼差しに、マリアは何も言えなくなってしまう。
「悲しくは無いよ……」
「本当にか?」
「うん、でも何となく居場所が無くて。三人が一緒に居ると、自分が邪魔者に思えるんだ。
キアラはお父様と血は繋がってないけど、同じ髪と目の色だから、私よりもキアラの方が本当の娘みたいで──」
「まさかキアラは──」
アランが言い掛けて、マリアは首を振った。
「それは無いと思う。顔も似てないし、最初の頃はキアラもお父様に懐いてなかった。私の気持ちの問題なの。もっと三人と仲良く出来たら良いんだけど……」
マリアの若草色のドレスに細い木漏れ日がいくつも落ちる。
「マリア、俺の家に来ないか?」
突然アランが言った言葉に、心が強く動かされるのを感じた。
「でも、そんなの迷惑じゃ……」
「迷惑なんかじゃない。俺の両親もマリアが望むならいつでも、って歓迎してる」
「……」
本当なら今すぐにでも連れていってとアランにすがりつきたかったけれど、それでは父との縁が永遠に切れてしまう気がした。
「今すぐには決められないと思うから、ゆっくり考えてみろよ」
「うん、ありがとう、アラン……」
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