美しくも絶倫な王様は砂漠の舞姫を一夜目から籠絡して溺愛しました

灰兎

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王様も少しは反省したかと思ったら、やっぱり全然懲りていませんでした

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アーサーは自責の念で一睡も出来ずに朝を迎えた。

処女じゃなかったら良いと言う訳ではないが、言い訳をするなら、これほど美しく妖艶な娘がまだ男を知らないとは考えもしなかった。

未だこんこんと眠り続けるリューシャの顔色は、昨晩よりは多少良くなったものの、まだ心許ない。

今日は会談も終わり観光が予定されていたが、部屋で休むと近衛兵に伝えると、リューシャに付き添った。



これ程の器量の娘が踊り子として王宮にも出入りするような立場にありながら、男性経験が無かったのには、何か事情がありそうだ。

それに、男を知らないのに見ず知らずの者にいきなり手を出されてあれ程濡れるはずがない。

媚薬を飲んだのか、飲まされたのか。

何にしてもリューシャが目を覚ましたらまず謝らなければならない。許されなくても。




リューシャが目覚めたのはその日の夕方だった。

微かに睫毛が動いた後、ゆっくりと目蓋が開く。

「リューシャ、具合はどうだ? 」

アーサーに話しかけられて、びっくりしている。

「私は……」

起き上がろうとすると、身体の奥が痛む。

違和感を感じ自分の身体を見下ろすと、見たことの無いシルクの夜着を着ていた。

「昨日、気を失って今まで眠っていたんだ。まだ横になっていた方が良い」

「あの、えっと……」

「昨日の事を覚えていないか?」

「昨日? 昨日は王宮の宴に呼ばれて踊って、それから……」

順を追って思い出そうとすると突然、昨晩のここでの記憶が雪崩の様に押し寄せて来て、赤面する。

「陛下、昨晩の失態、心よりお詫び申し上げます」

寝台から飛び降りて、アーサーの前にひれ伏すリューシャ。

「いや謝るのはこちらの方だ。本当にすまなかった。顔を上げてくれないか、リューシャ」

「いえ、陛下に謝って頂くようなことは一切ございません」

床に付いた手が恐怖からなのか震えている。

「卑しい身ではございますが、こんな私でも殺してお気が済むようでしたら、どうぞご自由に──」

「リューシャ!!」

アーサーはリューシャの言葉を聞いていられなくて、思わず遮った。

「大きな声を出してすまない。君がどういう環境の中で育って来たのかはわからないが、昨日の事は絶対的に俺に非がある。それなのリューシャを手に掛けるなどあり得ない。昨日の事で、俺がリューシャに殺されるなら文句は言えないが」

アーサーはリューシャの側に行くと、両手を取って立たせ、ベッドに座らせた。

リューシャの顔に緊張が走る。

(あぁ、このあどけない表情に昨日気付いていれば……)

今さら後悔しても遅い。

アーサーは奥歯を噛んだ。

リューシャから離れて長椅子に座った。

「リューシャはいくつだ」

「十九です」

「失礼を承知で聞くが、踊り子になって二年、リューシャ程に美しければ、男からの誘いもあっただろうに、何故……」

「何故、処女だったか? という事でしょうか……」

リューシャはアーサーの目を見ずに聞き返した。

そして返事を待たずに、話し始めた。

「私には両親がおらず、祖母が育ててくれました。その祖母が三年前に重い病に掛かってしまい、治療費や薬代、名のある魔術師様の祈祷などにお金が必要になりました。それで十七になったら踊り子として働くという約束で、お金を借りました」

「誰から?」

「地元のマフィアです。結局祖母を回復させてあげられず、一年後に息を引き取りました」

「それで踊り子として働き出したのか」

「はい。……陛下の先程のご質問の事ですが、確かに舞踏団に入って、男性から呼ばれる事が何度もありました。でもその度に催眠の魔術を使って、相手を眠らせていました。一つ所に留まる仕事ではないので、それほど問題も無くこなせていると思っていました……」

「リューシャは魔術を使えるのか?」

「はい、本当に微力ですが。でもその事は誰にも告げてはならないと、祖母からきつく言われていました」

「何故、俺に話した?」

「何故でしょうか……? 陛下なら他の人には黙っていて下さるような気がしたからかもしれません」

リューシャはアーサーに聞かれて少し困ったような戸惑っているような顔をしている。

「では、何故昨日は魔術を使わなかった?」

「使えなかったのです。私の魔術は、自分自身と特定の人には、効かないのです」

「特定とは?」

「──っ、それは……」

リューシャは言い淀んだまま下を向く。

「教えてくれ、リューシャ。」

長椅子から立ち上がり、ベッドに座るリューシャの足元に跪いた。

「陛下!」

慌てて自分もベッドから降りようとするが、アーサーの手が膝の上に置かれていて、その場から動けない。

「リューシャ、頼む」

「私の魔術が効かないのは……私が恋してしまった相手です……」

リューシャは意を決して言葉にしたが、アーサーは何も言わない。

リューシャはやっぱり言うべきでは無かったと言う後悔の念に襲われた。

「申し訳ございません、私の様な者が高貴な陛下に想いを寄せるなど、非礼極まりない事でございます」

「──なんかじゃない。」

「え? 陛下、すみません、もう一度──」

「俺は高貴でも何でもない。ただの男だ。リューシャのような純粋で汚れを知らない者と比べなくても、クズ同然の。だが、リューシャにした事が一生許されなくても、もし挽回するチャンスをくれるなら、俺と一緒に来て欲しい」

「そのようなことは到底……──」

「借金のことは心配するな。すぐに何とかする。ランドールに戻ってリューシャを妻として迎えたい」

「どうかお許しください……」

「君にあんな酷いことをした俺を信じろと言われても不可能かもしれないが、少しだけ、ほんの少しだけでいいから信じて欲しい」

未だリューシャの前に跪いたままのアーサーはリューシャの華奢な手に誓いのキスをした。

「陛下、どうかもう私のような者に跪くのはお止め下さい」

「男は惚れた女の前では膝を折る。」

「そんな……陛下はきっと異国の物珍しい者に興味を引かれただけなのです。ランドールにお戻りになれば、お美しい洗練されたご婦人に囲まれて、ここでのお戯れなどすぐに──」

リューシャがみなまで言う前に、アーサーの唇に阻まれた。

リューシャは目を丸くしているが、アーサーは目を閉じて、リューシャの甘い唇を堪能する。

ピチャピチャと濡れた音が、昨日リューシャを後ろから突き上げた時の絶頂感と、なまめかしい体つきを思い出させ、慌てて唇を離す。

「リューシャに乞われるまで、二度と触れないつもりだったが、その可愛い口があまりに下らない事を言うので、今のキスはリューシャのせいだ」

アーサーはらしくもなく、弁解する様に言うと、散々吸われ、舐めまくられ、赤く腫れたリューシャの濡れた唇を親指でなぞった。

「心配するな、抱いてくれとリューシャが懇願してくるまで、無理強いはしない。でもまた下らない事を言ったら無理矢理にでもキスするからな。舌を入れなかっただけ、感謝して欲しい位だ」

「そんな……」

舌なんか入れたら自分が止まれなくなるからなのを棚に上げて、アーサーは高らかに宣言する。

リューシャに好かれていると知って、今朝迄の後悔を忘れていないにしても、すっかり気が大きくなっている。


コンコン。

唐突にわざとらしい位に大き目のノックの音が響く。

「陛下、私です」

主君を呼んでいるのに何故か尊大に響く宰相の声に、アーサーが苦虫を潰した様な顔になる。

リューシャは慌てて隠れようとするが止められて、アーサーの着ていたジャケットを肩の上から掛けられる。

「入れ」

「失礼致します」

ヴィンセントはリューシャを見ても顔色一つ変えない。

「リューシャ様、お加減はいかがですか?」

「はい、大丈夫です。」

「そうですか、それは何よりです。少しでも違和感があればすぐに医師を呼びますので、遠慮なさらずお申し付け下さい」

「ヴィンセント、お前に話がある」

まるでアーサーを無視するかのようにヴィンセントが彼女と話を進めるので、思わず語気が強まってしまった。

「陛下、ではあちらへ。リューシャ様、しばしの間、失礼致します」

続きの間にアーサーとヴィンセントが歩いていく。

その背中を見ながらリューシャはまだ体に残るだるさを感じて、思わず目蓋を閉じた。

アーサーが貸してくれたジャケットからは彼の残り香がする。

その男らしく爽やかな香りが何とも心地良く、何故だか安心出来て、リューシャはうとうとし始めた。


隣の部屋ではアーサーがヴィンセントの言葉に腰を抜かしそうな程驚いていた。

「のど飴って……」

「えぇ、のど飴です。喉が痛い時に効果的な、もちろん普通に舐めても何の問題もない、蜂蜜90%配合の、のど飴です。」

「だが、あれはどう見ても媚薬の効果では……」

「はい、ですから私に非があるとすれば、ただの、単なるのど飴をリューシャ様に媚薬と偽ってお渡しした事です。」

「そんな……」

予想外の展開にアーサーは頭を抱えた。

「昨晩、もしお嫌でなければ、陛下をお訪ね下さいとお願いした所、どうやら男性経験が無いことを心配していらっしゃいましたので、初めての方でもプロ並みにスムーズに行くと偽って、のど飴をお渡ししました。」

「そうか……ひとまず媚薬でなくて良かった。」

「それで、出発は明日になりますが。」

「あぁ、予定通り進めてくれ。」

「かしこまりました。」

二人が部屋を出ると、リューシャはアーサーのジャケットを羽織ったまま裾をぎゅっと握りしめて眠っていた。

「今夜は襲ってはダメですよ」

アーサーの耳元でヴィンセントがぼそっと呟く。

「分かっている!」


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