ひたすら癒されたいと思っていたら、めちゃくちゃイケメンな癒し系男子が来てくれましたが、予想よりかなりエッチで一途でした

灰兎

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7、君以外、何もいらない

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クレアの目は自分を見ていなかった。

ただ虚空を見つめるように話すクレアを見て、リヒトは自分に腹が立った。

同僚達にクレアとの馴れ初めを聞かれ、いい気になってのろけながら話していた時に、クレアに何かが起きたのだ。

ずっと一緒にいれば良かった。もうどうにもならない事に後悔の念が押し寄せる。

一度広間に戻り、ゲイルに帰宅の旨を伝える。

「クレアちゃんはどうした?」

「──先に帰りました……」

「そうか、手遅れになる前にちゃんと話せよ。」

「はい」

うなだれで部屋を出ようとするリヒトにゲイルは後ろから渇を入れる。

「 考えるのもいいけど、本当に好きな相手なら向き合って、腹割ってちゃんと話し合え。お前の建前とか言い訳なんかじゃなくて、本当の気持ちをな。」

「でも……」

「ごちゃごちゃ言うな、ほら、早く行け、好きな女を泣かして放って置くなんて許されんぞ」

そう言うとゲイルはリヒトを魔法省の外に移動させた。





眠れないながらも横になっていたら、玄関のドアを叩く音が聞こえて、恐る恐るドアの前に行く。

『クレア、夜遅くにごめん、どうしても話したいから、開けて。』

「リヒト、どうしたのいきなり……」

別れるしかないと思っていたのに、リヒトの声を聞いたら、居ても立ってもいられずに、ドアを開けていた。

「ごめん、夜中に勝手に家に来て……」

リヒトは息が上がっていて、髪もボサボサに崩れている。

「本当はさっきすぐにでもクレアを追いかけるべきだったのに、遅くなってごめん。クレアが別れたくても、やっぱりちゃんと何があったか理由を話してくれるまで諦められない──」

「とりあえず、中に入って……」

リヒトを居間に通して、向かい合って座った。

汗だくなリヒトにタオルと水を渡す。

「走って来たの?」

「あ、うん。移動魔法を使えば良かった……頭に血が上って、気が付いたら走ってて──」

コップの水を一気に飲み干すリヒト。

「さっきはごめん、クレアの手を絶対離しちゃいけなかったのに……」

リヒトは頭を下げた。

「クレアと一緒にいられなくなるなんて、考えられなくて。一ヶ月のお試しって言って付き合ってもらったけど、付き合う内にどんどんクレアの事好きになって、別れる事なんて考えてもいなくて。でもさっき、クレアが目の前から居なくなって、僕はずっと一生一緒に居たくても、クレアに愛想を尽かされたら、一瞬で終わってしまうんだってやっと分かって……今さらだけど……」

リヒトはクレアが見たこと無い程に弱々しく肩を落としている。

「クレアが辛い時にこんな事聞いて、すごく自分勝手だと思うんだけど……あの時何があったか、話してくれる? 話したくなかったらいいんだけど……」

あの時の執事の言葉は最後のきっかけに過ぎない。だから本当の問題は、リヒトと一緒にいることに覚悟の出来ていない自分だと分かっている。
けれど、一方的に突き放した自分を、リヒトは追いかけて来てくれた。

「……さっき会場でリヒトの執事のクロードさんに会ったの。それで、いい加減な気持ちで付き合ってるなら別れて欲しいって──」

クレアはクロードの清々しい笑顔を思い出して胸がぎゅっと締め付けられた。

「クロード? 家にクロードって執事は居ない」

リヒトはクレアの告白に驚きを、クレアはリヒトの言葉にさらに驚いた。

「え!? でもすごく執事さんぽかったよ。見掛けはえーっと、ブロンドヘアで、はしばみ色の瞳で、ビシッとした服装してて……」

「誰かは分からないけど、多分誰かが変装してクレアに近付いたんだ」

「そっか……私、偽者だって事にも気付かず、振り回されて、リヒトにあんな事言っちゃったんだ……本当にごめん。それに誰に何を言われても私がしっかりしてれば、何も問題無かったんだと思う……」

「クレアのせいじゃないよ、クレアを一人にしちゃった僕のせい」

リヒトはクレアを抱きしめようとして思わず伸びた手を引っ込める。

「クレアを守りたい。でも、クレアが今の所結婚はまだ早いって言ってたから、それは待つ。同棲も待つ。でも婚約なら良い?」

「こ、婚約? えっとでも私、さっきリヒトに別れるって言ったばっかりだよ……?」

「うん、頭に血が上りながらもちょっと考えてみたんだけど、僕達二人がお互い好きなのは変わらない。問題は周りの環境とかで。だから、魔法省にクレアと僕の婚約を発表したい、王族として。」

「そんな、でもそれじゃリヒトが大変な事に──」

「クレアが今日迄に感じた大変さや痛みに比べたら何でもない。これからクレアに何かしたら、王族に喧嘩売ってると思えって、牽制になる。権力をかざすのは好きじゃないけど、クレアを守る為ならいくらでも利用する。」

「でもそれじゃリヒトが……」

「僕はクレアに何かある方が嫌なんだ。」

リヒトは椅子から降りて膝を突くと、クレアの右手を取り口付けた。

「世界で一番大切で愛しいクレア、僕と婚約してくれますか?」

リヒトの乱れて額にまばらにかかる前髪も、ちょっと開いたワイシャツの胸元も、自分を見つめる熱い視線も、全てがセクシーで、感動的なプロポーズをしてくれているのに、妙に意識してしまって、恥ずかしさだけではなく、顔が熱くなるのを感じた。

「私なんかで良ければ、お願いします……」

クレアはさっきまであんなに悩んでいたのに、リヒトのプロポーズをすんなり受け入れてしまった。

「やったーーー!!!!!」

リヒトは今度こそクレアに抱きついた。

「あ、そうだ、これ!」

リヒトはポケットから小さな箱を取り出す。

「エンゲージリング」

「え、そんなのもらえないよ、こないだ指輪もネックレスも貰ったばっかりだし!」

「それはそれ、これはこれ。一生に一度のプロポーズだから、記念にね。でもデザインとか別のが良ければ、今度一緒に交換しに行こう」

「リヒト、もしかして今日プロポーズしてくれようとしてたの?」

「あー……実は結婚と同棲を断られてから、婚約ならオッケー貰えるかなって、毎日機会をうかがってて。だから、今日もそんなチャンスが来ないかなって思ってたんだ。」

リヒトは照れ隠しに下を向いて指輪を取り出す。

リヒトの手には大分小さいその指輪をつまむとクレアの薬指にはめる。

中央の大きなダイヤの両脇にブルーダイヤが付いている。

「やっぱりエンゲージリングはダイヤですってお店の人に勧められたんだけど、クレアがブルーダイヤを僕に重ねてくれたのが嬉しくて、両脇に付けてもらったんだ。ごめん、完全に僕のエゴ」

「ううん、ありがとうリヒト。嬉しいよ。」

「キス、してもいい?」

「うん、私もキスしたい……」

リヒトはいつものように優しいキスを何度も重ねた。

けれど、二人ともそれじゃ今夜は何だか物足りなかった。

クレアはキスを終えてリヒトの腕に収まると、リヒトの鼓動がとても速く打つのが聞こえた。

「リヒト、ドキドキしてる」

「うん、すごく。クレアといつか結婚出来るかもって思ったら嬉しすぎて」

「うん、それまでに色々ありそうだけど……」

「それは一つずつ頑張って解決して行く」

「私も頑張ります」

「ありがとう、クレア……あの、それで早速一つ相談なんだけど……」

「うん?」

「嫌だったらはっきり断って欲しいんだけど……実は今すっごくクレアに触れたいんだ。クレアが欲しい」

「私も……」

「そうだよね、今日はさすがに──って、え!!? いいの? 本当に?」

リヒトはクレアに何度も確認する。

「誰だってそう言うことしたくない人の婚約を受けたりしないよ……?」

「シャワー浴びてくる! お風呂行ってる間に気が変わったりしない?」

「さっきまで別れるって言って、その後婚約しますって言う奴を信用出来ないのは分かるけど、さすがに気が変わったりしないよ。でも心配なら、一緒にお風呂入る……?」

「入る!」

リヒトはクレアの手を繋いでバスルームに直行した。

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