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15、分かっていても
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忙しいウィリアムが王都から半日以上かかるクリスティーナの所まで毎日来る訳にも行かず、その代わりに手紙が毎日届いた。
手紙を届けてくれるのは14歳位の少年で、クリスティーナも時々手紙を書いてその少年に託した。
口数は非常に少ないが、真面目で実直さが伝わってくる感じがした。
2回目に長い距離をやって来てくれた時に、ご飯かせめてお茶だけでもいかがですか、と母のセレスタと一緒に誘ってみた。
すると「ウィリアム様には破格のお駄賃を頂いていまして、その上僕の家族の事までも気に掛けて下さっていますが、もし一歩でもこのお家の敷居を跨いだら、即刻クビと仰せつかっておりますので、お心だけいただきます」と答えた。
どうりでいつもほとんど話さないし、目線すら合わせてもらえないはずだ。
「そうだったのですね、ではどうぞお気をつけてお帰り下さい」
「ありがとうございます」
少年はやはりうつむきがちなまま帰っていった。
毎日届けられる手紙を読むのは、楽しみで、少し切なかった。
ウィリアムの手紙は昔よりもずっと甘さをはらんでいたけれど、その美しい筆跡は変わらなくて、自分も綺麗な字が書けるように練習したのを思い出したりした。
こんなにウィリアムと関わってしまってから離れるのは、これまでよりもずっと辛いに違いない。
そう解っていても、毎日手紙を待ちわびている自分がいた。
『ティナに会いたい』
ウィリアムからの手紙の最後にいつも書いてある定型文だと分かっていても、読むたびに心が揺れ動いてしまう。
(私はきっとこれからもウィルしか好きになれない。だけど、ウィルには私よりもずっと相応しい女性が居るわ……)
手紙を届けてくれるのは14歳位の少年で、クリスティーナも時々手紙を書いてその少年に託した。
口数は非常に少ないが、真面目で実直さが伝わってくる感じがした。
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すると「ウィリアム様には破格のお駄賃を頂いていまして、その上僕の家族の事までも気に掛けて下さっていますが、もし一歩でもこのお家の敷居を跨いだら、即刻クビと仰せつかっておりますので、お心だけいただきます」と答えた。
どうりでいつもほとんど話さないし、目線すら合わせてもらえないはずだ。
「そうだったのですね、ではどうぞお気をつけてお帰り下さい」
「ありがとうございます」
少年はやはりうつむきがちなまま帰っていった。
毎日届けられる手紙を読むのは、楽しみで、少し切なかった。
ウィリアムの手紙は昔よりもずっと甘さをはらんでいたけれど、その美しい筆跡は変わらなくて、自分も綺麗な字が書けるように練習したのを思い出したりした。
こんなにウィリアムと関わってしまってから離れるのは、これまでよりもずっと辛いに違いない。
そう解っていても、毎日手紙を待ちわびている自分がいた。
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ウィリアムからの手紙の最後にいつも書いてある定型文だと分かっていても、読むたびに心が揺れ動いてしまう。
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