待ちぼうけ男爵令嬢の初恋は終了しました

灰兎

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13、不意打ちの襲来

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教会前の広場に立つ市場で買い物を済ませたクリスティーナは、両腕に持った篭の重さで腕をプルプルさせながら帰宅した。

今日はクリスティーナが家に戻って初めての日曜日で、家に届いたドレス等もやっと片付けが一段落したので、アーレンで覚えたジンジャーのクッキーを作る予定だ。



「ただいまぁ」

玄関に入った瞬間に両腕の篭を置いた。
重くてドスンと置いてしまい、『あ、卵大丈夫かな』と慌ててしゃがみ込むと左手の篭の中をがさごそと確認する。

「ティナ、お帰り。何か買い忘れ? それなら僕が行ってくるよ。それとも一緒に行く?」

(──まさかっ!)

再び卵の存在が頭からすっぽり抜けて、声がした方に頭を上げると、居間から歩いてくるウィリアムの姿が目に入った。相変わらず見た目は完璧な貴公子だ。

「ウィル……」

「久しぶり、ティナ。3ヶ月は本当に長かった……」

切ない笑顔を見せてさらに近付くウィリアムに思わず身構えたが、クリスティーナに抱きついて来ることもなく、2つの篭を軽々と持つと「これ、キッチンに持っていくの?」と聞いてきた。

「あ、うん、ありがとう、ウィル……」

クリスティーナが混乱しつつも礼を述べると、ウィリアムは笑顔で返した。

「ティナ、元気そうで安心した」

「ウィルも元気そうだね……って、そうじゃなくて!! なんで、うちに来てるの? どうやって入ったの?!」

段々思考力が戻ってきたクリスティーナは、本来一番最初に言いたかった事を口にした。

「どうやって? 呼び鈴を鳴らして自己紹介をしたら、お家に招いて下さったんだよ」

「私の言ってるなんではそう言うんじゃなくて──」

「お帰りなさい、ティナ。侯爵様にきちんとご挨拶と贈り物のお礼を申し上げたの?」

キッチンでお茶の用意をしていたセレスタはなんだか楽しそうだ。

「まだです……」

「ティナはまだちょっと照れているみたいなんです」

ウィリアムは重たい篭をキッチンカウンターの上に丁寧に置いた。

「お忙しい中、ここまでいらしてくださったのよ」

「ありがとう、ウィル……」

(私が呼んだ訳じゃないけど)と可愛げの無いことを思いながら一応礼を述べる。

「どういたしまして。僕がティナに会いたくて勝手にここまで来てしまっただけだから」

「ねぇ、お茶を飲んだら二人でお散歩でもして来たら? 」

「それはとても良いアイディアですね、お義母様」

セレスタの提案に顔を輝かせるウィリアムと引き攣るクリスティーナ。

("お義母様"って……)





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