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8、二度目の正直
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「ティナ! 来てくれないかと思ってた」
クリスティーナは行ってはいけないと分かっていた。それなのに、来てしまった。
「コーンウェル侯爵様、お話とは……」
のこのこ会いに行って今さらよそよそしい言葉を使う自分に嫌気がさすクリスティーナ。
ウィルはそんなことを気にしていないのか、教会の裏手の古びた階段に自分のベストを敷いてクリスティーナを座らせた。
「ティナを迎えに来たんだ。今度こそ」
「今度こそ……?」
「本当は二年前に迎えに行こうとしたんだけど、母が自殺を図ったんだ」
「そんな……」
あまりに衝撃的な事実にティナは思考が停止してしまう。
ウィルはどこか淡々と事の顛末を話し出す。
「それ以来、自分の選んだ人じゃない女性と結婚するなら命を絶つと言って聞かなかったんだ。元々母は精神的に脆い所があったしね」
「そこまで反対されていたなら何故ここに……それに婚約者の方は……」
ティナの嫌な予感は当たってしまう。
「長年の鬱病のせいで、亡くなった。三ヶ月程前に。悲しかったけど、正直、これでやっとティナに会いに行けるって思った。最低の息子だよね」
「ウィル……」
思わず、名前を呼んでしまった。
「やっぱりティナだね。僕をそう呼ぶ女の子はティナだけだ。ソフィーも可愛いけど、ティナにはやっぱりティナがぴったりだよね」
「ごめんなさい……私、自分の事を周りに知られたくなくて、ここではソフィーって名前で暮らしているの」
「自分の事を知られたくないって?」
「母が平民だったから、その事での風当たりが強かったの。それで……」
「それ、もしティナが侯爵夫人になったら、少しは解消されるかな?」
「え、それって……」
「僕と結婚してくれますか?」
「無理ですっ!」
ティナは間髪入れずに答えていた。
「ごめん、今のは僕が悪いよね。こんな何のムードも無いところで、12年振りに再会していきなりなんて。今度改めてプロポーズさせて」
「いや、あの、ウィル、シチュエーションの問題じゃなくて。私は男爵家の娘で、半分平民みたいなもので、父は没落気味の男爵だったから平民の母とも結婚できたけど、ウィルと私は世界がひっくり返っても一緒になんてなれないわ」
「そうかな?」
「そうに決まってる。それに、ウィルは婚約者の方がいるでしょ? あれ、そう言えば何故ウィルは私が結婚してないって知ってるの?」
「ティナの嘘なんてすぐ見抜けるよ。君は正直が服着て歩いてるみたいなものだからね。アンソニー伯爵嬢とは母が亡くなった後に円満に婚約解消したよ。彼女も元々この婚約には乗り気じゃなかったから」
「そうだったんだ……」
何を聞いても立て板に水の如く答えるウィルにクリスティーナの頭が追い付かない。
「ねえティナ、その指輪、どういう経緯で着けてるのか大体予想は出来るけど、どうせ着けるなら、こっちにして?」
ウィルはトラウザーズのポケットから小箱を取り出した。中にはシンプルな金色の指輪が入っていた。
ティナが展開に付いていけない中、ウィルは器用にティナの薬指から指輪を外して新しい指輪を嵌める。
中からもう1つ指輪を出してティナに渡した。
「これ、僕にも嵌めて」
ウィルは子供みたいにはしゃいでいる。ティナがウィルの薬指に指輪を嵌め終わるのと同時にキスが降ってきた。
「ウィルっ! だ──」
ダメ、と言いかけたけれど、それはウィルの唇に溶かされて言葉にならない。
子供だった自分達が12年後に再会した途端にこんな濃厚なキスをしているなんて、さっきまで想像もしていなかった。
「ティナ、愛してる」
キスの合間にウィルは何度もティナにそう告げた。
クリスティーナは行ってはいけないと分かっていた。それなのに、来てしまった。
「コーンウェル侯爵様、お話とは……」
のこのこ会いに行って今さらよそよそしい言葉を使う自分に嫌気がさすクリスティーナ。
ウィルはそんなことを気にしていないのか、教会の裏手の古びた階段に自分のベストを敷いてクリスティーナを座らせた。
「ティナを迎えに来たんだ。今度こそ」
「今度こそ……?」
「本当は二年前に迎えに行こうとしたんだけど、母が自殺を図ったんだ」
「そんな……」
あまりに衝撃的な事実にティナは思考が停止してしまう。
ウィルはどこか淡々と事の顛末を話し出す。
「それ以来、自分の選んだ人じゃない女性と結婚するなら命を絶つと言って聞かなかったんだ。元々母は精神的に脆い所があったしね」
「そこまで反対されていたなら何故ここに……それに婚約者の方は……」
ティナの嫌な予感は当たってしまう。
「長年の鬱病のせいで、亡くなった。三ヶ月程前に。悲しかったけど、正直、これでやっとティナに会いに行けるって思った。最低の息子だよね」
「ウィル……」
思わず、名前を呼んでしまった。
「やっぱりティナだね。僕をそう呼ぶ女の子はティナだけだ。ソフィーも可愛いけど、ティナにはやっぱりティナがぴったりだよね」
「ごめんなさい……私、自分の事を周りに知られたくなくて、ここではソフィーって名前で暮らしているの」
「自分の事を知られたくないって?」
「母が平民だったから、その事での風当たりが強かったの。それで……」
「それ、もしティナが侯爵夫人になったら、少しは解消されるかな?」
「え、それって……」
「僕と結婚してくれますか?」
「無理ですっ!」
ティナは間髪入れずに答えていた。
「ごめん、今のは僕が悪いよね。こんな何のムードも無いところで、12年振りに再会していきなりなんて。今度改めてプロポーズさせて」
「いや、あの、ウィル、シチュエーションの問題じゃなくて。私は男爵家の娘で、半分平民みたいなもので、父は没落気味の男爵だったから平民の母とも結婚できたけど、ウィルと私は世界がひっくり返っても一緒になんてなれないわ」
「そうかな?」
「そうに決まってる。それに、ウィルは婚約者の方がいるでしょ? あれ、そう言えば何故ウィルは私が結婚してないって知ってるの?」
「ティナの嘘なんてすぐ見抜けるよ。君は正直が服着て歩いてるみたいなものだからね。アンソニー伯爵嬢とは母が亡くなった後に円満に婚約解消したよ。彼女も元々この婚約には乗り気じゃなかったから」
「そうだったんだ……」
何を聞いても立て板に水の如く答えるウィルにクリスティーナの頭が追い付かない。
「ねえティナ、その指輪、どういう経緯で着けてるのか大体予想は出来るけど、どうせ着けるなら、こっちにして?」
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「ウィルっ! だ──」
ダメ、と言いかけたけれど、それはウィルの唇に溶かされて言葉にならない。
子供だった自分達が12年後に再会した途端にこんな濃厚なキスをしているなんて、さっきまで想像もしていなかった。
「ティナ、愛してる」
キスの合間にウィルは何度もティナにそう告げた。
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