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悪魔が恋をすると容赦がありません

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月も浮かばぬ六月の真夜中、ほの暗い部屋のベッドの上で、散々ニーナの身体を求め尽くした美しい悪魔はそれでも飽きたらず、「もう一度あなたを抱きたい」と耳元で囁いた。
もう身体は疲れ切っているはずなのに、その蠱惑こわく的な響きはニーナの中を再び熱く濡らした。



ニーナが十八歳で実家から出てから、あっという間に七年が経った。

元々は公爵家の令嬢だったが、ある高貴な女性の嫉妬が原因で、あらぬ噂を流された為、家族に修道院に入る事を勧められた。

ニーナの家族は意地悪ではなかったけれど、どこか家族としての情が稀薄で、騒動が起きた時も、ニーナを否定も非難もしなかったが、信じてくれることも無かった。

今頃あの屋敷では最初から自分は居なかった事になって、以前と変わらぬ毎日が繰り返されているのだろう。

ニーナには何も非が無かったが、上流階級の女性達の争いや派閥にもうんざりしていたので、修道院に行くことにした。

そして知り合いの伝手で、今の教会にたどり着いた。

過疎化の進む村にあるこの教会にはニーナを含めシスターが五人しかいない。

親しい人はいないが、少なくともニーナがしてもいない不貞行為を誹謗中傷して嘲笑って来る人もいない。

それだけで十分だった。

社交界では妬まれた輝くような黄金色の美しい髪はベールで隠して、珍しがられたライラックの瞳は、うつむきがちに暮らすことで目立たなくさせる術を身に付けた。

(ただ穏やかな日々を送りたい……。)

しかしニーナの切なる祈りも虚しく、積み重ねた安寧な日々は少しずつ悪魔に侵されていく事になる。





始まりは5月の雨の日だった。

前日からしとしと降り続けていた雨の日曜日、教会でのミサが行われた。

ミサの為にやって来た隣の教区の神父が説教をする中、ニーナはその後ろに控えていたが、ふと絡み付くような視線を感じてそちらを見ると、自分を見つめていたのは息が止まるほどに美しい男性だった。

黒いジャケットを着たその人は、ニーナと目が合うと、ミサの最中なのに何の後ろめたさも無い様子で艶っぽい笑みを浮かべた。

ニーナは身体の芯からゾクッと震えが駆け抜けるのを感じた。

ほんの一瞬の事だったのに、まるで視線で犯されているような、淫靡な熱を帯びた闇色の瞳はニーナの心に罪悪感にも似た甘さを落とした。

思わず顔を背け、心の中で色欲を戒める教えの一説を暗唱し始めた。



気が付くとミサは終わっていて、ニーナは心が波立つのを感じた。

自分が修道女であるという事を差し引いても、危機を感じた。

男性に心が浮き立つなど、穏やかな人生には不要なものだ。

けれど次の日曜日が来ると、自分から男性を探してしまった。

男性は前回と全く同じ席に座って、ニーナを見ていた。

そして目が合うとやはりにこりと笑い、そして下唇を噛んだ。

ニーナは思わず声が出そうになった。

まるで自分に食いつきたいと、そう言われている気がした。

(だめ、もう見ちゃダメ。きっととても危険な人なんだわ。)

ニーナは一日に何度も彼を思い出しては、自分を戒めようとした。

次の日曜日が来るのが怖くて、そして絶望的な程に待ち遠しかった。

それでも、もう二度と視線を交わらせてはいけないと、彼の座って居るであろう席の方を見ないようにした。

どうにか誘惑に負けずミサも終盤に入ろうとした時、ニーナは参列席の最前列に男を見つけて、心臓が飛び跳ねるのを感じた。

けれど彼は全然ニーナを見ていない。

長い手足を品よく揃えて、すました顔で神父の話を聞いている。

ニーナは男と視線が合わないのをいいことに、ほんの数秒、男の顔をまじまじと眺めた。

漆黒の髪は少し長めだが、綺麗に整えられている。

目も鼻も唇もこれ以上良いバランスは見つけられないと思える程に整っている。

どこか人間離れした完璧な美しさを持つ男は、ニーナの視線に一向に気付かない。

今までこの男に見られると、あれほどに羞恥心と罪悪感を煽られたのに、今はこちらを全く見てくれない男に焦燥感がつのった。

(やっぱり目が合っていたと思っていたのは気のせいだったんだわ……)

ニーナは安堵と失望を同時に味わいながら、ミサの後片付けをした。

その次の日曜は、男はミサに現れなかった。

(きっと旅行中にこの村を通りかかった人だったんだわ。そうでなければ、あれほど素敵な男性がこの小さな村に居て噂にならないわけ無いもの。)



ミサの翌日、その日はシスター エステールもシスター マリーも遠くの教区に会合で出掛けていてニーナと二人のシスターしか居なかった。

シスター エステールが出掛ける前に「6月は危険な訪問者が出る月です。くれぐれも気を付けなさい。特に目が赤い者には注意する事」とニーナ達に念を押して出掛けていった。

それはこの村に伝わる伝説のような物だった。

誰かが実際に襲われたという話は聞かないが、昔から6月には悪魔が出る、と恐れられていた。



(いい天気……)

昼前に洗濯を終えたニーナは洗濯桶を日当たりの良い場所に立て掛けて、告解室へ向かった。




6月に入り気温が上がって来て、ずっと居ると蒸し暑さを覚える告解室で、ニーナは一人、胸にくすぶっている熱をどうにか冷まして自分の中で消化しようとしていた。

すると突然、レースで隠された小窓の向こうに人が入って来る音がした。

しばらくしてその人物は椅子に座る。

小窓はやや下の方に付いているので、人物の顔までは見えない。

告解を始める文言をお互いに唱え、男は罪を告白し始めた。

「一ヶ月程前から、私は色欲の罪を犯しています」

ビロードの様に滑らかで深く落ち着いた声だった。

ニーナは相手がそう言ったきり続けないので、促す。

「それはどう言った事でしょうか?」

「私は最近この村に越して来たのですが、日曜のミサでとても美しい女性を見かけました」

ニーナは、ミサでの出会いと聞いてハッとする。もしかしてこの向こうに居るのは、名前も知らないあの危険な男なのかもしれない。

手の平に汗がにじむのを感じた。

「シスター、先を続けても?」

黙り込んだニーナに男は訪ねる。

「どうぞ」

「私はその麗しいご婦人を何度も犯しました。私の想像の中で。そしてその方を想って自分を慰めてしまいました。日曜のミサの後に家に帰ると決まって何度も、何度も」

ニーナはあまりの内容に思考回路が完全に遮断されてしまった。

「シスター、私は一体どうしたらいいでしょうか。こうしている今も劣情に捕らわれて、この熱をどうにかしないと気が狂いそうになるのです。どうかこの罪深い私を清めお赦し下さい」

「っ……」

返す言葉が見付からないニーナは、この薄い小窓を隔てた向こうに居るのはあの男だと確信した。

「……色欲を戒める章を暗唱して、主の教えを思い出して下さい。慈悲深き神はきっとあなたをお救い下さいます」

「ではシスターは私の罪をお赦し下さいますか?」

「はい、赦します。あなたに神の祝福を」

そう言ってニーナは小窓に木の仕切りを下ろすと、少し強引に告解を終わらせた。

その向こうで男が「シスター、感謝します。シスターにも神の御加護がありますように。」と嘲笑う様に言うのが聞こえた。

ニーナは男の声が耳にこびりついて、頭の中でこだましているような気がした。

もしかして自分は幻覚でも見たのだろうか。
やっと心が落ち着き告解室を出ると、男は跡形も無く消え去っていたが、教会の入り口付近に幼い少年が倒れているのが見えて、慌てて駆け寄った。

栗色の髪はほこりにまみれ、その目は落ち窪み、涙で溢れている。

「あなた大丈夫? どうしたの?」

「僕……シスターにお願いしたい事があって来たの……ママが具合が悪いんだけど、お医者さんにも原因が分からないって言われちゃって……でもシスターならお祈りを捧げてくれるかもと思ったんだ……」

「そうだったの、今すぐ行くわ。お家まで案内してくれる?」

やつれた少年を背におぶって家まで急いで向かった。

「このお家ね?」

「うん、そう……」

息をするのも苦しそうな少年に尋ねてからドアをノックする。

「こんにちは、失礼します」

病床に居る母親は出迎えられないほどに臥せっていると言うので、返事を待たずに中へ入る。

近くの椅子に少年を降ろす。

少年は気の毒なほど軽かったが、おぶって走ったのでさすがに肩に痛みを覚えて手を添えると、背後から「くっくっくっ」と愉快なのを堪えきれないと言った低い笑い声が聞こえてきた。

振り返ると案の上少年などおらず、ミサで見かけた男が立っていた。

「あなたを教会の外に出すのは存外簡単でしたね。あれほどシスター エステールに言われていたのに、訪問者には気を付けなさいと」

「何故それを……」

「私は教会には何とか入れても、中では力が使えない。それだけで自ずと答えは出るでしょう?」

そう言う男の目はみるみる内に漆黒から緋色へと変わっていく。

「悪魔──!」

ニーナは己の迂闊さに、立ちくらみがした。今の今まで気付かないなんて。

そんなニーナの様子を気に留める事もなく男はニーナを強引に抱き寄せると有無を言わさずに唇を重ねた。

ニーナはこの卑怯で魅力的な男を拒まなくてはいけないと思うのに、心のどこかでこんな時が訪れるのを切望していたのだと思い知らされた。

急に抵抗しなくなったニーナを不審に思ったのか、男は唇を離した。

「……あなたの名前は?」

ニーナは自分に降参した。

「悪魔に名を尋ねるとは、変わった人だ。」

「名前が無いの?」

「堕天使、悪魔、魔物、怪物、どれでもお好きな様に」

「そんなの名前じゃないわ」

「では……ミカエルと。昔呼ばれていた名です」

「ミカエル? あなたは悪魔ではなく天使なの?」

驚いてニーナが聞くとミカエルは笑った。

「そんな訳ないでしょう? 天使はこんな事をしませんよ」

「あなたの不思議な力は悪魔だからなのかもしれないけど……私はまだ、ミカエルが悪魔だって思えるような事をされていないわ」

「十分したでしょう」

「ミサでのこと? 懺悔の時のこと? それとも騙してここまで連れて来たこと? それなら私にも責任があるし、人間の男の方がずっと姑息だわ」

ニーナはどこか冷めた様子で告げた。

「私はこれからどうなるの? あなたに殺されるの?」

「殺すために拐った訳ではありません。ただ、あなたを一目見た時、その美しさと、何かを諦めたような様子に興味が湧きました。そしてその内、どうしても欲しいと思うようになった」

「どうしてすぐに拐わなかったの?」

「教会内部であなたに手出しは出来ない。人手が減る時を待っていました。
特にシスター エステールは厄介です。でもやっとここまで連れてこられた」

ミカエルは不敵な笑みを浮かべながらニーナのベールを取った。

金色の髪が腰まで流れ出る。

「ニーナ、私はあなたが欲しい」

「随分と唐突ね……」

「ミサの時に見つめ合って、幾度も気持ちを確かめ合ったと思ったのは私だけですか?」

「それは……」

ニーナには異を唱える術はなかった。

「あなたの瞳には私を激しく求める光があった。私があなたを強く求めた様に。」

ミカエルはニーナの細い首を親指で撫でた。

「ここまで来て、何もせずにあなたを帰すなんて無理です。どうか、私を受け入れると、誓って下さい」

ミカエルの脅迫にも似た懇願に、ニーナは不覚にもときめいてしまう。

相手は悪魔で、今すぐにでも殺されてしまうかもしれない。それなのに、この男を拒めない。

ミカエルの理不尽な程の魅力がニーナを惑わしている。

ニーナはしばらく考え込むと、ミカエルの言葉には答えず腰紐を解いてから、チュニックを脱いで椅子の背もたれに掛けて、肌着だけになった。

「残りは後で脱ぐわ」

ミカエルに目線を合わせずに言った。

極度の緊張のせいで肌が粟立つ。

「ニーナ……」

呼ばれて見上げると、ミカエルの紅い瞳はさっきよりも爛々と輝いていた。

部屋の隅にあったベッドまで連れて行かれ、座らされる。

ミカエルはじれったそうに靴を脱ぎ、ジャケットを脱ぎ捨て、シャツのボタンを全て外した。

そんな性急な動作でさえ優雅で、ニーナの心を揺らがせる。

シャツを脱ぎながら、待ちきれないとばかりにニーナに口付けて、ベッドに押し倒す。

ミカエルの薄い唇は冷たいのに、キスをするとすぐに熱くなって、ニーナをどこまでも溶かしていく。

初めてミカエルに会った時から、こんな風に求めてもらえたらと思ってしまっていた。

唇の角度を変える度に少しずつ崩れていくミカエルの髪に触れる。

絹のような手触りのそれはするすると素直に手櫛を通した。

くすぐったそうに少し首をすくめるミカエルは、ニーナにまるで恋しているかの様に眩しそうに目を細めた。

露になったミカエルの上半身は想像よりもずっと男らしく、なまめかしかった。

ニーナは下腹部がキュンと切なく収縮するのを感じた。

ミカエルはニーナの肌着を脱がせショーツにも手を掛けた。

ショーツから細い銀糸が引いたのを見つけるとクスッと笑い、足首から抜くとニーナを見つめながらクロッチ部分に口付けて口に含んだ。

「見ないで……」

「見なかったら、舐めるのは赦してくれるんですね、シスター?」

そう言ってショーツを置くとニーナの割れ目に顔を突っ込んだ。

「あぁ……っ!」

先程からすっかり熟していたそこはミカエルの唇も舌も、すんなり受け入れた。

「ミカ……エル……」

「私の事を思ってここに触れましたか?」

ミカエルの指がゆっくり円を描く様にニーナのクリトリスを刺激する。

「そんなこと……して、ない……」

「本当に? ニーナのここはこんなに濡れて、蕾も大きく膨らんでいるのに?」

試すように訊いてくるミカエルは、何を答えてもお仕置きをして来るような意地悪な笑顔を浮かべている。

「そんなの……知らない……あぁんんん……」

指で花芯をいじられながら、中を舌で刺激され唇で吸われると、視界がチカチカする程の快感が押し寄せてきた。

その余韻に浸る間にミカエルはニーナの胸を両手で柔らかく揉み始める。

「あなたの身体は男を狂わせる。こんなに清楚な顔をして、これ程までに淫らな胸をしているなんて、嬉しい誤算です。」

執拗に胸を揉みながら、片手でニーナの右手を取り、濡れそぼった蜜壺に誘う。

「ここを、今私がしたようにそっとなぞって下さい。強くしてはダメですよ。出来ますか?」

ニーナは潤んだ瞳でミカエルを見つめ返すとこくりと頷いた。

ミカエルは再びニーナの胸を両手で包み込むように揉み始める。

ニーナの膝は力が入らなくなって来て、自然と開いてきてしまう。

その大きく開いた足の間に身体を入れると、ミカエルはニーナの上に覆い被さるようにして、胸を少しずつ舐め始めた。

ニーナはその控えめさを物足りなく感じてしまう。

「ミカエル……お願い、もっと……」

「もっと、なんですか?」

「分かってるくせに……」

「えぇ、分かっていますよ。でもあなたに言わせたい」

「……もっと……もっと強く触って……」

「勿論です」

ミカエルは答えるやいなや、左胸の乳首を親指と人差し指でつまみ、右の乳首にしゃぶりついた。

「はぁん……ミカエル……!」

ニーナはたまらず自分の指を強くクリトリスに押し付けた。その瞬間、ミカエルが乳首を軽く噛んだ。

「あぁぁぁん……そんな……ダメぇ……」

あまりの快楽に思わず背を反らしてしまう。

それなのに、ミカエルはチャンスとばかりに左手の指をニーナの中に入れる。

誰にも触られたことの無いそこは、ミカエルの指をまるで迎え入れるかの様に呑み込んだ。

「これなら、すぐにでも私を受け入れられそうですね」

二本目の指を早くも挿入したミカエルは、ニーナのよい場所を探るため、指を中で動かす。

「ニーナの中、コリコリしていて、挿れたら最高に気持ち良さそうです。ほら、分かりますか? いちいち私の指に絡まりつくように引っ掛かる」

「そんなの、わかん……ない……」

ニーナは息が上がってきた。

「大丈夫ですか? ゆっくりと呼吸して下さい。そうです。そう、ゆっくりと」

ニーナの呼吸を整えるのを手伝いながら、ミカエルは一糸纏わぬ姿となった。

その姿は匂い立つ様な色気を放っており、身体の中央で勃起するそれは、女の理性を奪う凶器の様に鋭く反り返っている。

「初めは少し痛むかもしれませんが、その後は良くなるはずです。少しずつ慣らしましょう」

そう言うと、ニーナの唇にキスをして、髪を撫でた。

キスを続けながら少しずつミカエルが中に入って来るのを感じた。

もっと凄まじい痛みが来るのかと思ったが、とてつもない違和感の割には痛みは少なかった。

その様子を見たミカエルは途中まで入ると、ニーナの両足を自分の肩に乗せた。

そしてそれから程なくして、ぐっと奥までミカエルのペニスが到達するのを感じた。

「ニーナ、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫……このまま、少しこのままで居て……」

ニーナはミカエルを見つめた。

ミカエルはニーナの両手を取り、それぞれの指と指を絡ませた。

二人の間に淫らで緩やかな沈黙が流れる。

おもむろにミカエルがニーナの右手の人差し指を咥えて舐めた。

同時にニーナの襞がキュンと締まる。

ミカエルはその濡れた指を使ってニーナの乳首の周りをくるくると撫でた。

先程から勃っていた乳首は、新たな刺激に更にピンと硬く上を向いた。

「こうすれば、気持ちよいでしょう? 僕がいじってあげられないタイミングでも、こうやって自分で慰めてあげて下さいね。あぁ、ほらまた締まった」

はぁ、と聞いたこともない程セクシーなため息をもらすミカエル。

「少しだけ動いても?」

「大丈夫だと思う……」

ミカエルは指でニーナを愛した時よりもさらにゆっくりと深く動いた。

「ここ、ですか?」

ミカエルの腰の動きが目には入るだけで達してしまいそうな程、ニーナの身体は淫らな絶頂を欲していた。

先程まで男を知らなかった身体なのに、もっと、と切望して中がうごめいている。

「ミカエル、動いて……」

少し動きを早めるミカエル。

ニーナの中が先程よりも少しだけ締め付けをゆるめて、動きやすくなったと感じる。

すかさず色々な角度を試して、ニーナの様子を伺う。

「あぁ、そこ……気持ち……」

「この角度ですね?」

入り口付近の上部に亀頭が当たると、ニーナはたまらない気持ちになった。

「そうされると、私……」

ニーナは何かが訪れるのを感じた。

一度も経験したことが無いのに、ミカエルに出会った時からずっと求めていたと錯覚しそうになる甘美な感覚。

「んん……! ミカエル、私、もう……!」

「イッて下さいニーナ、私も果てそうです──っ!」

今までよりも少しだけ激しく穿たれて、ついうわ言のように言葉がこぼれる。

「ミカエル、私、あなたが──」

「私もです、ニーナ、あなたをずっと──」

その直後にミカエルに深く貫かれる。

ニーナは声にならない叫びをあげると、
ミカエルの熱い飛沫を最奥に感じた。

快感にわなわなと震えるニーナの両足をそっと降ろすと、落ち着くまで彼女の身体を抱き締めた。




「ニーナ、明日あなたを私の家に連れて行きたい」

「ここが家ではないの?」

「これは仮の住まいです」

「分かった、連れていって」

「随分すんなり承諾してくれるのですね。行き先は地獄かもしれませんよ?」

「地獄は社交界で見たわ。人から生まれる地獄は凄惨だから、悪魔のそれと良い勝負かもしれないわね……」

「そこは『あなたを愛しているから、どこまでも付いていくわ』と答えて欲しいところですが、でも……」

ミカエルはニーナの頭を撫でてから、ぎゅっと抱き締めなおした。

「辛い思いをしたのですね、ニーナ」

ニーナは七年前のあの時ですら一滴も流さなかった涙が溢れてくるのを感じた。

うつむいて隠したけれど、ミカエルの素肌は涙に濡れてしまう。

「これからの地獄は少なくとも私が一緒です」

「うん……」

「あなたが悪魔の私を信じられなくても、あなたから決して離れないと誓います。いっそあなたが私から離れない呪いを掛けましょうか?」

「そんな素敵な呪いがあるなら、今すぐ掛けて……」

ミカエルの手つきがニーナを慈しむ様な愛撫から、再び、男が女を快楽のどん底に突き堕として征服しようとする様な、したたかな物に変わっていく。

「ニーナ、悪魔の呪いの効力は絶対です。あなたはもう二度と私から離れられない」

暗い欲望を引き摺った紅の瞳が微かに光ると、ミカエルは儀式の始まりかのようにニーナに口付け、舌を深く絡めた。


月の無い六月の夜、ニーナは美しい悪魔の花嫁となり、甘く爛れた欲望に汚された地獄へと二人で堕ちて行った。



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