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最終話 たった一人の友だちで、大好きな人

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 敦貴と過ごすことが少なくなってから、久しぶりだった。彼から声をかけてきたのは。

「コウちゃん、一緒に帰ったらダメ?」

 帰る準備をする皇祐からだいぶ離れたところに彼はいた。

「美咲ちゃんと帰らないのか?」
「帰らない」
「どうして?」
「もう、ムリだよ」

 そう言いながら、敦貴はなぜか目に涙を溜めていた。

「え、敦貴、どうしたんだ? 何があった?」

 皇祐は、敦貴の様子に戸惑った。
 他の人の目が気になったので、とりあえず、人の少ないところへ移動する。
 傷心しきっている敦貴をなんとか慰めようと必死になった。

「僕でよければ、話聞くから」

 落ち着かせるように、そっと敦貴の背中をさすった。

「うん……ゲーセン……」
 
 敦貴は小さな声で喋るからうまく聞き取れない。

「え?」

 聞き返せば、切羽詰まった表情をして言った。

「ゲーセンに行きたくて、パフェが食べたくて、もうムリなんだよ!」
「美咲ちゃんと行ったらいいだろ?」
「だってさ、毎日ゲーセン行きたくないって言うんだもん! 男のくせにいつもパフェばかり食べないでって言うしさ。いいじゃん、パフェ好きなんだから。合わせるのつらくて喧嘩ばっかりで……」

 そこまで言葉にして、涙をボロボロと溢し始める。

「敦貴、泣くなよ」
「さっき別れようって言われて、じゃあ別れるってなって。コウちゃんに言われたけど、もう大切にできない」
「美咲ちゃんのこと好きなんだろ?」
「好きって言われて付き合ったけど、自分の気持ちわかんないよ。もうやだ、めんどくさい。コウちゃんと一緒にいたい」

 ドキリと鼓動が跳ねる。

「僕も一緒にいたい……」

 思わず反射的に言葉にしていた。

「本当? オレと一緒にいてくれるの?」
「うん……だけど、その前に彼女とちゃんと話をした方が……」
「だって別れるって言ってたもん。さっきも隣のクラスの男子と帰ってたし、もうオレのこと必要ないんじゃない?」
「そうなのか……?」
「オレ、コウちゃんの方が好きだもん。コウちゃんはオレのこと……」
「……好きだよ」
 
 ――僕の好きは、君とは違うけど。
 
「良かった! じゃあ、一緒に帰ろう」

 いつの間にか敦貴の涙は引っ込んでいて、満面の笑みだ。
 そんな彼を見ているだけで嬉しくなった。

 初恋は実らないと聞いたことがある。
 本当にその通りだ。

 この恋が叶わなくても、はじめての友だちは失いたくなかった。
 離れていてわかった。恋人じゃなくても、やっぱり傍にいたい。
 どんな形であれ、彼の隣にいたかったのだ。

「じゃーん! ねえ、コレ見て」

 得意げな顔をした敦貴は、小さな紙切れを出す。それを皇祐の目の前でひらひらと揺らして見せた。

「ん? また半額券か」
「これはね、この間応募したのが当たったビッグパフェ無料券! すごいでしょ。コウちゃんと二人で食べようと思って取っといたんだ。行こう!」

 敦貴が無邪気な笑顔をしながら、皇祐の手を握って引っ張った。

「待って、これから? 今日は塾がある日だ」
「一日くらいサボったら……ダメだよね」

 じとっとお願いするような目で見つめてくる敦貴。
 今までの皇祐なら、承諾できる案件ではないのだが、彼に握られた手を放したくはなかった。

「わかったよ」

 そして、ついOKを出してしまう。

「やったー。だから、コウちゃん大好き」

 満面の笑みで手を繋いだまま大袈裟なほど大きくバンザイをするから、一緒になってバンザイする形になった。

「恥ずかしいよ……」
「ふふっ、早く行こう!」

 繋がっていた手は、周りに人がいないからそのままにしていた。
 敦貴に少し硬く握りしめられたから、そっと握り返す。

 彼は、目を細めて口角を上げ、微笑む表情を浮かべていた。
 この敦貴の笑顔を隣という特等席でずっと見ていられる。こんな幸福なことはないのだ。

 彼の笑顔もこの関係も壊したくない。
 このまま守ることができるのなら、自分の気持ちなんて、自分の想いなんて叶わなくてもいい。

 
 ――僕にとって敦貴は、たった一人の友だちで、大好きな人だよ。

 

〈了〉
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