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18.恋愛感情

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 そっと目を閉じたら、余計に緊張が高まってしまう。

 自分の心臓が大きな音を立てていて、敦貴に聞こえているんじゃないかと恥ずかしくなった。

 ただの練習。本当にするわけじゃない。緊張で手のひらには汗をかいていた。
 早く終わってほしい。頭の中でいろんな考えが交差していて、整理がつかなくなっていた。

 肩をぐいっと引っ張られる。

 キスされるわけじゃないのに、壊れそうなほど鼓動が激しい。
 敦貴は彼女の美咲のことを思い浮かべながら練習に挑んでいるのだろうか。
 練習とはいえ、目の前にいるのは男友だちの皇祐だ。気持ち悪くはないのか。

 彼女とどんな風にキスをする?
 優しくするのか?
 激しくするのか?

 この場で実際にするわけじゃないのだから、確認はできない。
 そもそも確認してどうする気だ。

 自分が誰かとキスをする時に参考にするのか?

 肩を掴んでいた手に力が入ったのがわかった。
 その瞬間、皇祐の鼻に敦貴の鼻がちょんと触れたのだ。
 思わず、目を開けてしまう。目の前にこちらをまっすぐ見つめる敦貴の顔があった。


 ――触れたい。




「敦貴! アンタ部屋にいるのかい!?」

 突然、怒鳴るような声が響き渡った。

「あ、母ちゃん、帰ってきた。うるさいなー、なんだよ」

 敦貴は立ち上がり、文句を言いながら部屋から出て行った。

 皇祐は自分の身体を両腕で抱きしめる。震えが止まらなかったのだ。
 今、頭に思い浮かべたことに、驚きを隠せずにいた。

 男の友だちである敦貴とキスをしたいと考えたのだ。
 鼓動はドクドクと早鐘を打っている。

 こんなことおかしいとわかっているのに、その思いは止められなかった。




 思い起こせば、昔から女性には興味がなかった。
 勉学に励んでいるから、それどころじゃないと自分の中では完結していた。
 だけど、違ったのだろう。

 中学の頃、バスケット部のキャプテンだった男性の先輩に憧れていたことがあった。
 同じクラスメートの男子も「かっこいいよな」と言っていたから、自分の感情は普通なのだと思っていたのだ。


 敦貴は、はじめてできた友だちで、こんなにも一緒に過ごしている人は他ではいない。
 家でも一人でいることが多いため、家族よりも傍にいる時間は長いだろう。

 敦貴が隣にいるだけで、安心して心が満たされた。その反面、そわそわと落ち着かなかったり、頭の中がぼんやりすることもあった。
 勉強に集中していても、ふっと彼のことを考えてしまう。
 だけど、その瞬間はふわふわと夢のようで、心が癒され、喜びが溢れてくるのだ。

 ――僕は、敦貴が好きなんだ。

 それは友だちとしてではなく、恋愛感情だった。
 この日、敦貴に触れたいと考えて、そう自覚した。

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