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13.嫌いじゃない
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皇祐の腕を掴む指に力が入っていて、ズキズキと痛み始めていた。
「腕、痛いよ。ここに居るから離して……」
「あ、ごめん……」
はっとしたように手を離し、悲しそうな目をした。
静かにベンチに座ったら、敦貴も隣に座って身を乗り出してくる。
「コウちゃん、オレのこと嫌い?」
「嫌いじゃないよ」
慌てて首を横に振った。唐突すぎて、思考回路がついていかなくなる。
「オレもコウちゃんが大好き。じゃあ、これからも友だちでいいよね」
安心したように眉を下げて笑った。はっきりと言い切られて困り果てる。
「僕は、敦貴に何もしてあげられない。それでもいいの?」
「いつもオレに付き合ってくれるじゃん。一緒にラーメン食べたり、ゲーセン行ってお菓子取ったり、アイス食べたり。今日はお弁当もくれたしー」
「そんなこと……」
わかりきっていることだったが、誰にでもできるようなことを並べられ、ショックを受ける。皇祐は顔を俯かせた。
「オレは、これからもコウちゃんと友だちでいたい。一緒にいたいもん。いいでしょ?」
皇祐じゃなくてもいいのではないか。懐かれる理由が、いまいち納得できなかった。だが、ここまで断言されたら頷くしかない。
「わかった……」
「やったー」
両手を上げて喜びを表したと思ったら、急にぎゅっと抱きしめられた。敦貴の広くて厚い胸板に顔を押し付けるような格好になって、思うように息ができない。腕の中でしばらくもがいた後、やっと顔を上げることができた。
「苦しい、敦貴……」
「コウちゃん、オレ、ファミレスしゃぼん玉のパフェ半額券持ってるの」
また急に話題が移った。しかも、敦貴の大好きな食べ物のことだ。今の話は、もういいのだろうか。若干呆れそうになったが、相槌を打つ。
「それは、すごいね」
「うん、半額って魅力的だよね。だけど、これ見て、今日の午後三時までなの。これから行けば間に合うけど」
ひらひらと半額券を二枚、皇祐の前に見せつけた。
「え? 授業はどうするんだよ」
「それなんだけどー、もう授業始まっちゃってるしさ、このままサボっちゃおうよ」
「はぁ?」
「ねえ、ダメー? 今月ピンチだから、半額でパフェ食べたいのー」
期待するような、キラキラとした純粋な眼差しをこちらに向けてきた。
「敦貴……」
この時、皇祐は気づいたのだ。彼に頼まれると自分は断れないということに。敦貴もそのことをわかっていて、わざとやっているのではないかと思えてくる。
だけど、例えそうだとしても皇祐は腹が立たなかった。
敦貴が喜んでくれるのなら、それだけで良かったのだ。
***
授業をさぼって、パフェを食べに行った皇祐と敦貴は、翌日、担任に呼び出しを食らったのは言うまでもない。
敦貴はよくあることなのか叱られても平然としていたが、皇祐にとっては初めての体験で、こっぴどく怒られてかなり堪えたのだ。
それでも、敦貴が一緒だったから、嫌な気持ちも半分で済んだような気がしていた。
友だちなんていらない。支え合って生きていくなんて嘘っぱちで、人は一人で生きていくものだ。そう納得していた。
だけど今は、誰かと一緒にいるのも悪くないと思い始めている。心が温かい気持ちで満たされていた。
「腕、痛いよ。ここに居るから離して……」
「あ、ごめん……」
はっとしたように手を離し、悲しそうな目をした。
静かにベンチに座ったら、敦貴も隣に座って身を乗り出してくる。
「コウちゃん、オレのこと嫌い?」
「嫌いじゃないよ」
慌てて首を横に振った。唐突すぎて、思考回路がついていかなくなる。
「オレもコウちゃんが大好き。じゃあ、これからも友だちでいいよね」
安心したように眉を下げて笑った。はっきりと言い切られて困り果てる。
「僕は、敦貴に何もしてあげられない。それでもいいの?」
「いつもオレに付き合ってくれるじゃん。一緒にラーメン食べたり、ゲーセン行ってお菓子取ったり、アイス食べたり。今日はお弁当もくれたしー」
「そんなこと……」
わかりきっていることだったが、誰にでもできるようなことを並べられ、ショックを受ける。皇祐は顔を俯かせた。
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皇祐じゃなくてもいいのではないか。懐かれる理由が、いまいち納得できなかった。だが、ここまで断言されたら頷くしかない。
「わかった……」
「やったー」
両手を上げて喜びを表したと思ったら、急にぎゅっと抱きしめられた。敦貴の広くて厚い胸板に顔を押し付けるような格好になって、思うように息ができない。腕の中でしばらくもがいた後、やっと顔を上げることができた。
「苦しい、敦貴……」
「コウちゃん、オレ、ファミレスしゃぼん玉のパフェ半額券持ってるの」
また急に話題が移った。しかも、敦貴の大好きな食べ物のことだ。今の話は、もういいのだろうか。若干呆れそうになったが、相槌を打つ。
「それは、すごいね」
「うん、半額って魅力的だよね。だけど、これ見て、今日の午後三時までなの。これから行けば間に合うけど」
ひらひらと半額券を二枚、皇祐の前に見せつけた。
「え? 授業はどうするんだよ」
「それなんだけどー、もう授業始まっちゃってるしさ、このままサボっちゃおうよ」
「はぁ?」
「ねえ、ダメー? 今月ピンチだから、半額でパフェ食べたいのー」
期待するような、キラキラとした純粋な眼差しをこちらに向けてきた。
「敦貴……」
この時、皇祐は気づいたのだ。彼に頼まれると自分は断れないということに。敦貴もそのことをわかっていて、わざとやっているのではないかと思えてくる。
だけど、例えそうだとしても皇祐は腹が立たなかった。
敦貴が喜んでくれるのなら、それだけで良かったのだ。
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それでも、敦貴が一緒だったから、嫌な気持ちも半分で済んだような気がしていた。
友だちなんていらない。支え合って生きていくなんて嘘っぱちで、人は一人で生きていくものだ。そう納得していた。
だけど今は、誰かと一緒にいるのも悪くないと思い始めている。心が温かい気持ちで満たされていた。
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