7 / 26
07.同級生とラーメン屋
しおりを挟む
三〇分くらい待ったところで、ようやく店内に入ることができた。中はそんなに広くないが、新しい店というだけあって、きれいにされている。
古くて汚いというのが、皇祐の中のラーメン屋のイメージだったから、意外に思えた。
「お客様は何名ですか?」
学生にも見える可愛らしい女の子が、皇祐たちの前にやってきて、訊ねてきた。
「五名だよー」
敦貴が気だるそうな声で答えると、店員の彼女が、店内を確認しながら少し困った顔をする。
「ぎりぎり四名でしたら座れるんですけど……もう少ししたら空くと思いますので、他のお客様を先にご案内してもよろしいですか?」
かなり混んでいるから、五名いっぺんに座るのはなかなか厳しいらしい。中には相席している人たちもいるようだった。
「そうなのー? じゃあ、ケンちゃんたち先に食べてていいよ。オレとコウちゃん、次に空くまで待ってるから。いいよね、コウちゃん?」
「……構わないけど」
「じゃあ、先に食ってるな」
三人は店員に案内されて、一番奥の座敷に座った。そこも狭いようで、三人が座ってもやっとという感じだ。
「敦貴……良かったのか? みんなと食べなくて」
あんなにも早く食べたいと不満をこぼしていたのに、予想外の行動に目を見張る。
「あ、コウちゃん、みんなと食べたかった? ごめんねー」
軽く腰を曲げ、顔の前で手を合わせて詫びてきた。
「いや、僕は……いいんだ……」
みんなで顔を合わせて食事をするのには、抵抗があった。だから、離れて座ることになって、正直なところほっとしている。
でも、敦貴は違う。みんなと食べることを楽しみにしていたに違いない。
そもそもの原因は、昼休みに皇祐が、敦貴に声をかけたことから始まっていた。そのせいで、今度は敦貴に声をかけられ、二人は関わることになってしまった。この場に皇祐がいなければ、敦貴はみんなと一緒に食べることができたはずだ。
時おり、先に座った男子たちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。そこに、敦貴はいない。心を引き裂くようなズキズキとした痛みに襲われた。
席が空くのを待っている間、皇祐と敦貴に会話はなかった。つまらない思いをしているのではないかと気がかりだったが、話題が見つからない。ただ、黙っているしかなかった。
それから少し経って、二人はやっとカウンターの席に案内される。
「なに食べようかな。迷うなー」
メニューを見ている敦貴は、ご機嫌に鼻歌を歌いながら、口元をほころばせていた。その様子にほっと胸を撫で下ろし、同じくメニューを眺めた。
「コウちゃんは、何にする?」
どれを選べばいいのかわからず、混乱した。不安そうに皇祐が敦貴の方に視線を向ける。
「……うん、どうすればいいだろう」
「迷ってるの? だったらさ、オススメの塩にしなよ。オレは味噌にするから、味見し合おうー」
こちらに身体を寄せてきて、皇祐が持っていたメニューを覗き込むようにして笑顔を見せた。
「任せるよ……」
「わかった。おっちゃん、塩と味噌ねー」
豪快に手をあげて、慣れた様子で敦貴は注文を頼んだ。
「ありがとう……」
「んー?」
敦貴にお礼を言えば、不思議そうな表情を浮かべた。
彼は何もしていないつもりなのかもしれないが、皇祐にとっては有難いことだった。店の中で大きな声を出して注文をするという行為が、皇祐にはハードルが高かったからだ。
古くて汚いというのが、皇祐の中のラーメン屋のイメージだったから、意外に思えた。
「お客様は何名ですか?」
学生にも見える可愛らしい女の子が、皇祐たちの前にやってきて、訊ねてきた。
「五名だよー」
敦貴が気だるそうな声で答えると、店員の彼女が、店内を確認しながら少し困った顔をする。
「ぎりぎり四名でしたら座れるんですけど……もう少ししたら空くと思いますので、他のお客様を先にご案内してもよろしいですか?」
かなり混んでいるから、五名いっぺんに座るのはなかなか厳しいらしい。中には相席している人たちもいるようだった。
「そうなのー? じゃあ、ケンちゃんたち先に食べてていいよ。オレとコウちゃん、次に空くまで待ってるから。いいよね、コウちゃん?」
「……構わないけど」
「じゃあ、先に食ってるな」
三人は店員に案内されて、一番奥の座敷に座った。そこも狭いようで、三人が座ってもやっとという感じだ。
「敦貴……良かったのか? みんなと食べなくて」
あんなにも早く食べたいと不満をこぼしていたのに、予想外の行動に目を見張る。
「あ、コウちゃん、みんなと食べたかった? ごめんねー」
軽く腰を曲げ、顔の前で手を合わせて詫びてきた。
「いや、僕は……いいんだ……」
みんなで顔を合わせて食事をするのには、抵抗があった。だから、離れて座ることになって、正直なところほっとしている。
でも、敦貴は違う。みんなと食べることを楽しみにしていたに違いない。
そもそもの原因は、昼休みに皇祐が、敦貴に声をかけたことから始まっていた。そのせいで、今度は敦貴に声をかけられ、二人は関わることになってしまった。この場に皇祐がいなければ、敦貴はみんなと一緒に食べることができたはずだ。
時おり、先に座った男子たちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。そこに、敦貴はいない。心を引き裂くようなズキズキとした痛みに襲われた。
席が空くのを待っている間、皇祐と敦貴に会話はなかった。つまらない思いをしているのではないかと気がかりだったが、話題が見つからない。ただ、黙っているしかなかった。
それから少し経って、二人はやっとカウンターの席に案内される。
「なに食べようかな。迷うなー」
メニューを見ている敦貴は、ご機嫌に鼻歌を歌いながら、口元をほころばせていた。その様子にほっと胸を撫で下ろし、同じくメニューを眺めた。
「コウちゃんは、何にする?」
どれを選べばいいのかわからず、混乱した。不安そうに皇祐が敦貴の方に視線を向ける。
「……うん、どうすればいいだろう」
「迷ってるの? だったらさ、オススメの塩にしなよ。オレは味噌にするから、味見し合おうー」
こちらに身体を寄せてきて、皇祐が持っていたメニューを覗き込むようにして笑顔を見せた。
「任せるよ……」
「わかった。おっちゃん、塩と味噌ねー」
豪快に手をあげて、慣れた様子で敦貴は注文を頼んだ。
「ありがとう……」
「んー?」
敦貴にお礼を言えば、不思議そうな表情を浮かべた。
彼は何もしていないつもりなのかもしれないが、皇祐にとっては有難いことだった。店の中で大きな声を出して注文をするという行為が、皇祐にはハードルが高かったからだ。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果
はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
告白ゲーム
茉莉花 香乃
BL
自転車にまたがり校門を抜け帰路に着く。最初の交差点で止まった時、教室の自分の机にぶら下がる空の弁当箱のイメージが頭に浮かぶ。「やばい。明日、弁当作ってもらえない」自転車を反転して、もう一度教室をめざす。教室の中には五人の男子がいた。入り辛い。扉の前で中を窺っていると、何やら悪巧みをしているのを聞いてしまった
他サイトにも公開しています
僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
ガラス玉のように
イケのタコ
BL
クール美形×平凡
成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。
親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。
とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。
圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。
スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。
ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。
三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。
しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。
三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。
僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ
樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース
ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー
消えない思いをまだ読んでおられない方は 、
続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。
消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が
高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、
それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。
消えない思いに比べると、
更新はゆっくりになると思いますが、
またまた宜しくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる