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05.昼休みは短い

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 いつもなら、食事が終わると本を読んで、休み時間を満喫するのだが。
 彼の方は、そんな皇祐の思いも知らずに、三袋目のパンを幸せそうに食べている。
 いい加減うんざりして、小さくため息をついた。

「そうだ、知ってる? 駅に向かう途中にでっかい豪華な歯医者あるの」
「……歯医者? いや、気づかなかったけど……」

 唐突な話題に戸惑っていた。虫歯でもあるのだろうかと頭を捻る。

「その隣にラーメン屋ができたんだけど、今日オープンするんだって」
「……詳しいな」
「オレもさっき聞いたんだ。学生は百円で食べられるの。すごくない?」
「百円……、それは安い」

 この世の中に、百円で食事のできるところがあるなんて知らなかったから、本当に驚いたという声を出していた。

「でしょ!」

 得意げな顔をする彼が、微笑ましく感じた。食べることに関して、特別な思いを持っているようだ。
 食に執着しない皇祐にとっては、不思議な感覚だった。

 今度は、おにぎりを口いっぱいに入れ、頬を膨らませて食べている。
 頭の中に、動物のリスが浮かんだ。こんな大きなリスがいるはずないのに、似ていると感じたのだ。いつの間にか彼の食べる姿に目を奪われていた。はっと我に返り、頭をふるふると振った。

 彼が喋らない時は、静かな時間が流れた。その沈黙が落ち着かなくて、居心地が悪い。
 何か話さないといけないとわかっていても、何も浮かばない。彼との共通な話題が、自分にあるとは思えなかった。

 やっぱり、彼がここに居る理由が見つからない。苦しくて、重いものが心にのしかかってくるようだった。
 皇祐は、自分の腕時計の時間を確認し、ベンチから立ち上がる。

「もう戻るよ」
「え? まだ時間あるよ?」

 二個目のおにぎりを手に持ちながら、驚きの表情を見せた。

「次の授業の予習をしたいんだ」
「すっげー」

 顔を上げた彼は、目をぱちくりさせて、おにぎりをぱくっとくわえた。

「じゃあ」

 彼から逃げるように、その場を後にした。
 心休まる昼の時間が、一気に沈んだ気分で終わってしまったのだった。
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