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03.まるごといちごバナナパン
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「おばちゃん、オレの分、取っておいてって言ったじゃん」
彼は小此木敦貴、皇祐のクラスメートだ。喋ったことはないが、身体が大きく、どこにいても目に入ってくるから、印象に残っていた。
「はい、はい、ごめんねー」
忙しそうにしていた店員は、頷きながらも、彼の話を聞き流しているように見えた。その様子が気に入らなかったようで、さらに食って掛かる。
「ねー、ちょっと聞いてるの? スーパーおいしいまるごといちごバナナパン、さっきまでここにあったよね? オレ、見たんだから!」
随分と長い名前のパンだ。よく覚えていられるな、と皇祐は感心した。勉強のことなら記憶していられる自信はあったが、パンの名前は怪しいところだ。
店員は、怒っている彼にたくさんのパンを渡し、言いくるめようとしている。それでも、彼は納得がいかないようだ。
いつの間にか、彼の行動から目が離せなくなっていた。危なっかしくて、放っておけなくなる。
でも、構っていられる時間はなかった。こうしている間にも、昼休みの時間は削られていく。
皇祐は、パンを握りしめてそこから離れようとした。不意に、自分の手にしていたパンの袋が目に入った。そこには、『超おいしい!まるごといちご&バナナロールパン』と書かれている。
「あっ……」
思わず、足を止めた。彼が言っている名前とは若干違うような気もしたが、似たようなパンが他に存在するとも思えなかった。
彼の方を振り返ってみると、周りで友だちが宥める中、悔しそうに地団駄を踏んでいる。まるで癇癪を起こした子どものようだったが、少しかわいそうに思えた。
このパンは、皇祐にとってはどこにでもあるパンと同じ価値しかない。だが、彼にしたら特別なものなのだろう。
皇祐は、ゆっくりと彼に近づいて、声をかけてみた。
「あの」
傍に寄ると、思っていたよりも体格がいいことに気づく。
「あ?」
相当機嫌が悪いのだろう。皇祐に向けた瞳は鋭く、口は曲げられていた。顎までの長さの黒髪が、さらりと揺れる。前髪は鼻にかかっていて、普通なら鬱陶しく見えるのに、手入れが行き届いているのか清潔感が溢れていた。だけど、制服のネクタイは緩めていて、着崩している。
「なーに? なんか用?」
不満げな様子が、彼の声から伝わってきた。
「これ、僕が君のパンを間違って買ってしまったようだ」
パンの袋を差し出すと、彼は急に表情を和らげた。
「あ! オレの欲しかったパン!」
皇祐が彼に手渡すと、満面の笑みで喜びを表す。
「すげー、本物だー、うわー」
パンの袋を空に掲げて、目を輝かせていた。さっきまでの機嫌の悪さはどこに行ったのか、おもちゃを買ってもらった子どものようにはしゃぎ回る。
やはり、彼の中では余程価値のあるもののようだ。思い切って声をかけて良かったと心から思った。
「悪かったな。じゃあ、確かに渡したから」
「え? ちょっと……」
彼は何か言いかけていたが、これ以上、関わりたくなかったから足早にその場を去った。
彼は小此木敦貴、皇祐のクラスメートだ。喋ったことはないが、身体が大きく、どこにいても目に入ってくるから、印象に残っていた。
「はい、はい、ごめんねー」
忙しそうにしていた店員は、頷きながらも、彼の話を聞き流しているように見えた。その様子が気に入らなかったようで、さらに食って掛かる。
「ねー、ちょっと聞いてるの? スーパーおいしいまるごといちごバナナパン、さっきまでここにあったよね? オレ、見たんだから!」
随分と長い名前のパンだ。よく覚えていられるな、と皇祐は感心した。勉強のことなら記憶していられる自信はあったが、パンの名前は怪しいところだ。
店員は、怒っている彼にたくさんのパンを渡し、言いくるめようとしている。それでも、彼は納得がいかないようだ。
いつの間にか、彼の行動から目が離せなくなっていた。危なっかしくて、放っておけなくなる。
でも、構っていられる時間はなかった。こうしている間にも、昼休みの時間は削られていく。
皇祐は、パンを握りしめてそこから離れようとした。不意に、自分の手にしていたパンの袋が目に入った。そこには、『超おいしい!まるごといちご&バナナロールパン』と書かれている。
「あっ……」
思わず、足を止めた。彼が言っている名前とは若干違うような気もしたが、似たようなパンが他に存在するとも思えなかった。
彼の方を振り返ってみると、周りで友だちが宥める中、悔しそうに地団駄を踏んでいる。まるで癇癪を起こした子どものようだったが、少しかわいそうに思えた。
このパンは、皇祐にとってはどこにでもあるパンと同じ価値しかない。だが、彼にしたら特別なものなのだろう。
皇祐は、ゆっくりと彼に近づいて、声をかけてみた。
「あの」
傍に寄ると、思っていたよりも体格がいいことに気づく。
「あ?」
相当機嫌が悪いのだろう。皇祐に向けた瞳は鋭く、口は曲げられていた。顎までの長さの黒髪が、さらりと揺れる。前髪は鼻にかかっていて、普通なら鬱陶しく見えるのに、手入れが行き届いているのか清潔感が溢れていた。だけど、制服のネクタイは緩めていて、着崩している。
「なーに? なんか用?」
不満げな様子が、彼の声から伝わってきた。
「これ、僕が君のパンを間違って買ってしまったようだ」
パンの袋を差し出すと、彼は急に表情を和らげた。
「あ! オレの欲しかったパン!」
皇祐が彼に手渡すと、満面の笑みで喜びを表す。
「すげー、本物だー、うわー」
パンの袋を空に掲げて、目を輝かせていた。さっきまでの機嫌の悪さはどこに行ったのか、おもちゃを買ってもらった子どものようにはしゃぎ回る。
やはり、彼の中では余程価値のあるもののようだ。思い切って声をかけて良かったと心から思った。
「悪かったな。じゃあ、確かに渡したから」
「え? ちょっと……」
彼は何か言いかけていたが、これ以上、関わりたくなかったから足早にその場を去った。
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