触れてしまえば、もう二度と～苦手な後輩教師（♂）に告白されて戸惑っています～

第四章

19.距離を縮めて ①

　それからも遠野と矢神は、なかなか時間を合わせることが難しく、ゆっくり過ごすことができずにいた。

　お互い忙しく働ているのだから、仕方がないのはわかっているが、やはり寂しく感じてしまう。
　まだ一緒に住んでいるだけマシということだ。離れて住んでいれば、職場の学校でしか顔を合わせることができなくなる。

　そうとはいえ、矢神はフラストレーションがたまっていた。
　遠野と家で会話をしたり、食事をしたりするが、それ以上のことは何もなく、悶々と過ごす日々だ。
　付き合うということにしただけで、こんな風になるとは想像もできなかった。


　明日は、遠野と過ごせなくなってから数週間ぶりの休日だ。
　食事を終え、風呂から上がった矢神は、どうにかして遠野と過ごす時間を作ろうと必死になる。

「おまえ、このあと何かするの？」
「いえ、しませんけど」
「一緒に映画観ないか？」
「いいですね。最近観てなかったですものね」

　いそいそとソファに座る遠野は、テレビのリモコンを操作する。

「ずっと観てたシリーズものは、まだ最新話が配信されてないようです。何か観たい作品ありますか？」

　隣に座った矢神は、遠野の動作を見守った。
　本当は映画なんてどうでも良かった。
　遠野とスキンシップが取りたいだけのただの口実だ。

「映画はいいからさ」

　矢神は、リモコンを持っている遠野の手を掴んだ。
　だけど、このあと、どうやって誘えばいいかわからなくて黙ってしまう。

　きっと遠野は驚いていることだろう。
　映画を観ようと誘われたのに、最終的には映画はいいと言われるのだから。