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第四章
18.淡い期待
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平日は何かと忙しいが、休日ならゆっくり一緒に過ごせるだろう。
矢神はそんな淡い期待を抱いていた。
だが、現実は残酷である。
「次の休みは、どこか出かけるか? おまえ、Tシャツ欲しいって言ってたよな」
矢神の誘いに遠野は喜びの笑みを浮かべたが、すぐにしょんぼりとした顔に変わる。
「次の休日は、生徒たちとバスケットボールしに行く約束をしていて。夜はそのままご飯食べに行って……」
「……そっか」
「せっかく誘ってくれたのにすみません。オレ、腑抜けになってた時に生徒たちには心配かけたから、どうにか挽回したくて」
遠野が生徒のことを強く思っているのが伝わってきて、かえって申し訳ない気持ちになった。
一緒に過ごせないからなんだ。
教師として、誰よりも生徒のことを考えてあげないといけないのに。
「オレのことは気にするな。生徒のこと考えてる遠野はかっこいいよ」
「矢神さーん」
両手を広げてハグする格好をしたところで、遠野は止まった。そして尋ねてくる。
「ギュッてしてもいいですか?」
「……うん、いいけど」
矢神の返答を聞いたあと、遠野は優しく抱きしめてきた。大きな手のひらで、背中をゆっくりと摩ってくる。
自分の胸の鼓動が速くなるのを感じた。やはりなかなか慣れるものではない。
遠野に抱きしめられている時、いつも矢神は直立不動のまま固まった状態なのだが、遠野の身体に腕を回すべきか迷っていた。
遠野が少し動いて首元に顔を埋めてくる。そして、すーっと息を吸い込んだ。
「矢神さんの匂い」
そう言われて、思わず身体を離した。
「やめろって、まだ風呂入ってない」
「えー、いい匂いするのに」
「するか! 今日も汗かいたし」
矢神の言葉は耳に入っていないのか、身体を引き寄せられて再び匂いを嗅がれる。
「嫌だって、変態!」
遠野から離れようと踠くが、一向に止めようとしない。
匂いを嗅ぎながら首筋に唇を這わしてくるから、ぞわぞわとした刺激が広がっていく。
しまいには耳たぶを甘噛みされて、身体が跳ねると同時に甘い声が漏れた。
「ふあっ……」
その瞬間、遠野がぱっと自分の身体から矢神を離す。
「ごめんなさい。また調子に乗りました」
「え?」
「オレ、先に風呂入らせていただきます。おやすみなさい」
逃げるように遠野は、その場から早々にいなくなった。
――なんで、いつも途中で止めるんだよ。
熱く帯びた頬を両手で押さえる。
矢神は、遠野に触れられることを嫌がるどころか、思っていた以上に喜びを感じていたのだ。
矢神はそんな淡い期待を抱いていた。
だが、現実は残酷である。
「次の休みは、どこか出かけるか? おまえ、Tシャツ欲しいって言ってたよな」
矢神の誘いに遠野は喜びの笑みを浮かべたが、すぐにしょんぼりとした顔に変わる。
「次の休日は、生徒たちとバスケットボールしに行く約束をしていて。夜はそのままご飯食べに行って……」
「……そっか」
「せっかく誘ってくれたのにすみません。オレ、腑抜けになってた時に生徒たちには心配かけたから、どうにか挽回したくて」
遠野が生徒のことを強く思っているのが伝わってきて、かえって申し訳ない気持ちになった。
一緒に過ごせないからなんだ。
教師として、誰よりも生徒のことを考えてあげないといけないのに。
「オレのことは気にするな。生徒のこと考えてる遠野はかっこいいよ」
「矢神さーん」
両手を広げてハグする格好をしたところで、遠野は止まった。そして尋ねてくる。
「ギュッてしてもいいですか?」
「……うん、いいけど」
矢神の返答を聞いたあと、遠野は優しく抱きしめてきた。大きな手のひらで、背中をゆっくりと摩ってくる。
自分の胸の鼓動が速くなるのを感じた。やはりなかなか慣れるものではない。
遠野に抱きしめられている時、いつも矢神は直立不動のまま固まった状態なのだが、遠野の身体に腕を回すべきか迷っていた。
遠野が少し動いて首元に顔を埋めてくる。そして、すーっと息を吸い込んだ。
「矢神さんの匂い」
そう言われて、思わず身体を離した。
「やめろって、まだ風呂入ってない」
「えー、いい匂いするのに」
「するか! 今日も汗かいたし」
矢神の言葉は耳に入っていないのか、身体を引き寄せられて再び匂いを嗅がれる。
「嫌だって、変態!」
遠野から離れようと踠くが、一向に止めようとしない。
匂いを嗅ぎながら首筋に唇を這わしてくるから、ぞわぞわとした刺激が広がっていく。
しまいには耳たぶを甘噛みされて、身体が跳ねると同時に甘い声が漏れた。
「ふあっ……」
その瞬間、遠野がぱっと自分の身体から矢神を離す。
「ごめんなさい。また調子に乗りました」
「え?」
「オレ、先に風呂入らせていただきます。おやすみなさい」
逃げるように遠野は、その場から早々にいなくなった。
――なんで、いつも途中で止めるんだよ。
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矢神は、遠野に触れられることを嫌がるどころか、思っていた以上に喜びを感じていたのだ。
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