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第四章

11.今までと変わらない ②

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 今更、遠野に見抜かれたとしてもどうも思わない。それよりも、遠野と話している最中ずっと頭を撫でられていることの方が今は気になった。
 嫌なわけではない。むしろ気持ちがいい。
 ただ、なぜ撫でられているのかわからないから、ソワソワしてしまう。
 やんわりと遠野の手から逃れるように動いて、紅茶を淹れたカップを両手に持った。
 そしたら、カップを持っている矢神の手に遠野が自分の手を重ねてくる。

「オレが持って行きますよ」

 優しい眼差しで、いつものやわらかい声。
 しかし、どうにも違和感を覚えるので、矢神ははっきり言葉にした。

「おまえ、ちょっと距離近いよ」

 その瞬間、遠野は、矢神の手に重ねていた自分の手を素早く離して、固まったように動かなくなる。

「遠野?」
「えっと、あの、オレたち付き合うってことになりましたが、イチャイチャはしないプラトニックな関係なんですかね」
「え?」
「……了解です」

 遠野は一人で納得して、自分のカップを矢神から受け取ってソファに座った。

「あっ……」

 矢神はそこで、はじめて遠野の言っている意味を理解した。
 付き合うなら、触れ合ったりキスしたり、それ以上のこともする。
 今までの延長でしか頭になかったせいで、その部分だけはすっかり抜けていた。
 
 ――オレは遠野とできるのか?

 遠野にさわれられたことはある。あの時は薬を飲まされてて夢うつつの状態だった。
 嫌だと思うどころか、与えられる快楽に包まれて、ただひたすら気持ちよさに酔いしれていた。
 思い出してしまい、身体がぞくっとしてしまう。
 意識が正常な時だったら、どうだろうか。

 しかし、遠野とできるか、できないかよりも、矢神はさっき見せた遠野の表情が頭から離れなかった。
 すごくショックを受けたのか、肩を落として寂しげな悲しい顔をしていたから。
 遠野にあんな顔をさせたくない。
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