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第三章

45.葛藤の朝 ①

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 頭にガンガンとした痛みが伴い、矢神は目覚めた。

 ベッドに横たわっていた自分は、いつものようにパジャマを着ている。

「……うっ」
 
 吐き気を催し、二日酔いのような状態に思わず額をおさえてうめき声を上げた。
 身体は重たく、動くのも億劫だ。
 
 カーテンの隙間からは日差しが入り、朝を告げていた。
 首だけ動かして目覚まし時計を確認すれば、時刻は6時前を指している。
 
 昨日のことは、はっきりと覚えていた。意識を失うまでは。
 それからはきっと遠野が全て後片付けをしてくれたのだろう。

 汗と精液で汚れていたはずの身体はきれいになっている。
 パジャマも自分で着たとは思えなかった。

「はぁ……」

 大きなため息を吐く。
 今日も仕事だから起きないといけない。
 頭ではわかっていても身体が言うことを聞いてくれなかった。
 
 ゆっくりと身体を起こそうとすれば、ずっしりと重たくて動くのが辛い。 

 あと5分だけ。

 ベッドの中でごろごろと寝返りを打っていた。 
 そんな時、部屋をノックする音がして、びくりと身体を震わせてしまう。
 
「はい」と答えれば、静かにドアを開けて遠野がひょこっと顔を出した。
 
「矢神さん……大丈夫ですか?」

 申しなさげに言うから、心配をかけないでおこうと無理矢理に身体を起こした。
 
「……調子は良い方じゃないけど、平気だ」

 遠野は、恐る恐る部屋に入ってくる。

「顔色が悪いです」
「あー、なんか、酒飲んだあとみたいで頭が重い」
「今日は休んだ方が……」
「そういうわけにはいかないだろ」
「でも……」

 矢神に触れようとして遠野の手が伸びたが、ためらうように空中で彷徨う。
 今にも泣きそうな顔をするから困ってしまう。

 急に、昨日のことが頭を駆け巡った。
 目隠しで視覚を失っていたが、どんな風にされたのかは身体が覚えている。
 
 細長い、その指で――。

「うぅ……」

 思い出した自分が嫌になって、思わず顔を伏せて唸ってしまう。
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