上 下
26 / 150
第一章

25.酔いが招いた後悔と優しさ ②

しおりを挟む
 やっぱり飲み過ぎた。いくら楽しいからって酒は良くない。
 軽く頭を振って眠気を追い払い、降ろしてもらおうと遠野から身体を離そうとした。すると、遠野の抱き締める腕に力が込められ、きゅっと締まる。

「矢神さんって軽いですね」

 一瞬で頭が鮮明になった。そして、昼間見た映画のシーンが思い出される。
 若い男が酒を飲まされ、酔って動けないところを抱き抱えられたあげく、そのまま無理やり――というとんでもない内容。
 慌てた矢神は取り乱す。

「は、離せ、離せって!」

 両腕で遠野の身体を押しやり、辛うじて地面についていたつま先をばたばたとさせた。

「矢神さん危ないです。そんなに暴れないでください」

 階段で人を抱えながら立っているのだから、そのまま二人で落ちていってもおかしくない状態だった。

 遠野が腕を解いて足が床についた途端、矢神はその場でふらついてしまう。再び、遠野に腕を掴まれ支えられた。
 咄嗟に掴まれたその手を払い除ければ、パシリと大袈裟な程に乾いた音が辺りに響く。
 遠野は驚いて目を見開いた後、優しく微笑んだ。

「何かされるかと思いましたか? オレが、矢神さんを好きだって言ったから」
「あ、いや……」
「矢神さんの嫌がることはしませんから大丈夫ですよ。安心してください」

 いつもと同じ笑顔で、優しい言い方。

「帰りましょう。ここ暗いですから足元気をつけてくださいね」

 だけど、外灯の灯りしかないうっすらとした光の中で、遠野の傷ついたような表情が一瞬見えた。

 傷つけるつもりはなかったとは言えない。現に何かされるのではないかと考えた。遠野がそんなことをする男じゃないことはわかっているはずなのに。そういう男なら、今日だって一緒にはいない。

 謝るのも何かおかしい。言い訳すればいいのだろうか。何か、何かフォローを。
 酔った頭で一生懸命考えるが、言葉が見つからない。

 矢神は、前を歩く遠野の背を見つめながら、黙って歩くしかなかったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

アダルトショップでオナホになった俺

ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。 覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。 バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。 ※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

処理中です...