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第一章
25.酔いが招いた後悔と優しさ ②
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やっぱり飲み過ぎた。いくら楽しいからって酒は良くない。
軽く頭を振って眠気を追い払い、降ろしてもらおうと遠野から身体を離そうとした。すると、遠野の抱き締める腕に力が込められ、きゅっと締まる。
「矢神さんって軽いですね」
一瞬で頭が鮮明になった。そして、昼間見た映画のシーンが思い出される。
若い男が酒を飲まされ、酔って動けないところを抱き抱えられたあげく、そのまま無理やり――というとんでもない内容。
慌てた矢神は取り乱す。
「は、離せ、離せって!」
両腕で遠野の身体を押しやり、辛うじて地面についていたつま先をばたばたとさせた。
「矢神さん危ないです。そんなに暴れないでください」
階段で人を抱えながら立っているのだから、そのまま二人で落ちていってもおかしくない状態だった。
遠野が腕を解いて足が床についた途端、矢神はその場でふらついてしまう。再び、遠野に腕を掴まれ支えられた。
咄嗟に掴まれたその手を払い除ければ、パシリと大袈裟な程に乾いた音が辺りに響く。
遠野は驚いて目を見開いた後、優しく微笑んだ。
「何かされるかと思いましたか? オレが、矢神さんを好きだって言ったから」
「あ、いや……」
「矢神さんの嫌がることはしませんから大丈夫ですよ。安心してください」
いつもと同じ笑顔で、優しい言い方。
「帰りましょう。ここ暗いですから足元気をつけてくださいね」
だけど、外灯の灯りしかないうっすらとした光の中で、遠野の傷ついたような表情が一瞬見えた。
傷つけるつもりはなかったとは言えない。現に何かされるのではないかと考えた。遠野がそんなことをする男じゃないことはわかっているはずなのに。そういう男なら、今日だって一緒にはいない。
謝るのも何かおかしい。言い訳すればいいのだろうか。何か、何かフォローを。
酔った頭で一生懸命考えるが、言葉が見つからない。
矢神は、前を歩く遠野の背を見つめながら、黙って歩くしかなかったのだ。
軽く頭を振って眠気を追い払い、降ろしてもらおうと遠野から身体を離そうとした。すると、遠野の抱き締める腕に力が込められ、きゅっと締まる。
「矢神さんって軽いですね」
一瞬で頭が鮮明になった。そして、昼間見た映画のシーンが思い出される。
若い男が酒を飲まされ、酔って動けないところを抱き抱えられたあげく、そのまま無理やり――というとんでもない内容。
慌てた矢神は取り乱す。
「は、離せ、離せって!」
両腕で遠野の身体を押しやり、辛うじて地面についていたつま先をばたばたとさせた。
「矢神さん危ないです。そんなに暴れないでください」
階段で人を抱えながら立っているのだから、そのまま二人で落ちていってもおかしくない状態だった。
遠野が腕を解いて足が床についた途端、矢神はその場でふらついてしまう。再び、遠野に腕を掴まれ支えられた。
咄嗟に掴まれたその手を払い除ければ、パシリと大袈裟な程に乾いた音が辺りに響く。
遠野は驚いて目を見開いた後、優しく微笑んだ。
「何かされるかと思いましたか? オレが、矢神さんを好きだって言ったから」
「あ、いや……」
「矢神さんの嫌がることはしませんから大丈夫ですよ。安心してください」
いつもと同じ笑顔で、優しい言い方。
「帰りましょう。ここ暗いですから足元気をつけてくださいね」
だけど、外灯の灯りしかないうっすらとした光の中で、遠野の傷ついたような表情が一瞬見えた。
傷つけるつもりはなかったとは言えない。現に何かされるのではないかと考えた。遠野がそんなことをする男じゃないことはわかっているはずなのに。そういう男なら、今日だって一緒にはいない。
謝るのも何かおかしい。言い訳すればいいのだろうか。何か、何かフォローを。
酔った頭で一生懸命考えるが、言葉が見つからない。
矢神は、前を歩く遠野の背を見つめながら、黙って歩くしかなかったのだ。
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