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第一章

32.ただの同居 ④

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「そうだ。矢神さんにプレゼントがあるんですよ」
「え、マジで?」

 遠野のプレゼントという言葉に嬉しくなり、弾んだ声を上げてしまった。

「はい、これからお世話になるので。よろしくお願いします」

 遠野から手渡されたそれは、キレイな包み紙に包まれ、真っ赤なリボンまでもがついている。

「何か気を遣わせて悪かったな。開けてもいいか?」
「どうぞ」

 微笑む遠野に釣られて矢神も笑みが零れた。
 せっかくもらったプレゼントだったから、包み紙が破れないように慎重に開いていく。中のものを取り出して広げると、それはパジャマだった。

「水玉……?」
「違います、マカロンです。可愛いですよね。オレとおそろいですよ」

 遠野が自分の分のパジャマを広げた。たった今、矢神がもらったパジャマと色違いのマカロン柄のパジャマである。遠野は白地、矢神のは紫でかなり派手だ。

「はあ……」

 思わずお礼を言うのも忘れるぐらい、そのパジャマから目が離せなくなる。

「あと、マグカップや茶碗も同じ柄があったのでペアで買ってきました」
「わざわざ買ってこなくても良かったのに。カップとかはオレの家にあるんだぞ。金を使うな」
「そうなんですけど、何か買い物してたら嬉しくなっちゃって」
「そんなんじゃ金貯まらないだろ。極力、オレの家のものを使え」
「楽しいですよね、同棲って」

 矢神の話を流すように遠野がさらっと言ったから、重要な部分を聞き逃しそうになった。

「……今、何て?」
「え? 同棲って楽しいなあって」

 とびっきりの笑顔で本当に嬉しそうな声で言った。矢神は思わずその場で立ち上がり、遠野を指差して叫ぶ。

「おまっ……、同棲じゃねえ! 同居だ、おまえは居候だよ!」
「たいして変わらないじゃないですか」

 矢神が言った意味を理解してないようで、遠野は無邪気に笑った。

「変わるよ! 全く違うだろ! 他でおかしなこと言うなよ!」
「わかりました。同棲は内緒ですね」
「内緒じゃない! いや、同棲じゃ……ああ、もういいよ……」

 矢神の言葉にぽかんとしている姿を見て、何を言っても無駄だということに気づく。
 遠野の発言にダメージを食らい、フラフラになりながら矢神は部屋を後にした。

 今の状況は、遠野からすれば同棲になるのだろう。改めて遠野が自分のことを好きだということを自覚する。
 いくら問題を起こすかもしれないからといって、学校のため、生徒のために、自ら犠牲にならなくても良かったのではないだろうか。

 誰から頼まれたわけでもない。何が起こっても仕方がないことだ。
 ふと、この先のことを想像して背筋が寒くなった。今更、出て行けとも言えるわけがない。

「オレ、選択間違えたかもしれない……」

 矢神が廊下で項垂れていると、足元で猫のペルシャが励ますように一鳴きしたのだった。
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