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第一章
28.避けたくても避けられず ③
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「しかも、今週中に出てけって言うんですよ。ひどいと思いませんか?」
「おい、その寮のお知らせが回って来たのって、確か何カ月も前の話だぞ?」
「あれ、そうでしたか?」
頭を掻きながらけろっとした顔で遠野は言った。
本当にいい加減な奴だと矢神はため息を吐くしかなかった。
そして、更に呆れるような発言を続けたのだ。
「ネットカフェに住もうかな……」
「なっ……おまえバカか! そんなところ生徒に見られたらどうするんだよ!」
「穴場があるんですよ」
「そんなのは関係ないだろ!」
「だって、貯金使いたくないんですもの。けっこう居心地がいいらしいですよ」
「どこの情報だ! 教師がそんなことするな!」
「大丈夫ですって」
何も心配していないようで、遠野はへらへらと笑う。
「大丈夫なわけないだろ!」
「じゃあ、学校からもっと離れたところの……」
「おまえは本当にバカだなっ!」
「そんな、バカバカ言わないでください。わかってますから」
強く言いすぎてしまったのか、遠野は再び落ち込むように俯いてしまった。
矢神は少しやわらかい口調で言いなおす。
「わかってるなら、おかしな考えするな」
「だって、オレ住むところなくなるんですよ。ネットカフェがダメなら野宿ですか……あっ、池田さんにお願いしようかな」
「池田さん? 不動産屋か?」
「駅で寝泊まりしている……」
「それって……何でそんな知り合いいるんだ……」
「いい人ですよ。頼んでみようかな。ダンボールとか新聞ってけっこう暖かいんですって」
遠野の様子からして、とても冗談を言っているようには見えなかった。というよりも、遠野なら平気でそういうことをしそうだった。何となくさっきよりも楽しそうにも見える。感覚が普通と違うのだろうか。
自分に関係ないことならこのまま放っておきたいところだったが、遠野が問題を起こせば、学校全体、そして矢神にも被害が及ぶ。そうなれば、生徒も無事では済まされない。
矢神は少し考えてから、もう一度遠野に尋ねた。
「本当に引っ越し費用ないのか?」
「はい……」
「実家は?」
「実家は……あまり世話になりたくないんですよね」
「まあ、それはわからないでもないが……」
「大丈夫です! どうにかします!」
「どうにかって……」
「今日、池田さんに会いに行きます!」
遠野は目を輝かせて胸を張った。
こいつ、本気だ。
遠野の恐ろしさを感じて思わずぞっとした矢神は、止むを得ず最後の手段に出ることにした。
「ああ、もう、わかったよ! オレの家に来い。部屋が一つ物置きにして余ってるから少しの間貸してやる」
「え!? そんな悪いです……迷惑になりますよね」
急に申し訳なさそうにしおらしい態度を取るから拍子抜けする。
「おまえが駅に寝泊まりする方が、ずっと迷惑がかかるんだよ……」
「本当にいいんですか?」
「その代わり部屋は広くないから荷物は減らせ。あと、引っ越し費用をすぐ貯めろ。それが貯まったら出て行けよ」
「はい、ありがとうございます」
先ほどまでの落ち込んでいた様子は一切なくなり、本当に嬉しそうに遠野は矢神に笑顔を向けたのだ。
「おい、その寮のお知らせが回って来たのって、確か何カ月も前の話だぞ?」
「あれ、そうでしたか?」
頭を掻きながらけろっとした顔で遠野は言った。
本当にいい加減な奴だと矢神はため息を吐くしかなかった。
そして、更に呆れるような発言を続けたのだ。
「ネットカフェに住もうかな……」
「なっ……おまえバカか! そんなところ生徒に見られたらどうするんだよ!」
「穴場があるんですよ」
「そんなのは関係ないだろ!」
「だって、貯金使いたくないんですもの。けっこう居心地がいいらしいですよ」
「どこの情報だ! 教師がそんなことするな!」
「大丈夫ですって」
何も心配していないようで、遠野はへらへらと笑う。
「大丈夫なわけないだろ!」
「じゃあ、学校からもっと離れたところの……」
「おまえは本当にバカだなっ!」
「そんな、バカバカ言わないでください。わかってますから」
強く言いすぎてしまったのか、遠野は再び落ち込むように俯いてしまった。
矢神は少しやわらかい口調で言いなおす。
「わかってるなら、おかしな考えするな」
「だって、オレ住むところなくなるんですよ。ネットカフェがダメなら野宿ですか……あっ、池田さんにお願いしようかな」
「池田さん? 不動産屋か?」
「駅で寝泊まりしている……」
「それって……何でそんな知り合いいるんだ……」
「いい人ですよ。頼んでみようかな。ダンボールとか新聞ってけっこう暖かいんですって」
遠野の様子からして、とても冗談を言っているようには見えなかった。というよりも、遠野なら平気でそういうことをしそうだった。何となくさっきよりも楽しそうにも見える。感覚が普通と違うのだろうか。
自分に関係ないことならこのまま放っておきたいところだったが、遠野が問題を起こせば、学校全体、そして矢神にも被害が及ぶ。そうなれば、生徒も無事では済まされない。
矢神は少し考えてから、もう一度遠野に尋ねた。
「本当に引っ越し費用ないのか?」
「はい……」
「実家は?」
「実家は……あまり世話になりたくないんですよね」
「まあ、それはわからないでもないが……」
「大丈夫です! どうにかします!」
「どうにかって……」
「今日、池田さんに会いに行きます!」
遠野は目を輝かせて胸を張った。
こいつ、本気だ。
遠野の恐ろしさを感じて思わずぞっとした矢神は、止むを得ず最後の手段に出ることにした。
「ああ、もう、わかったよ! オレの家に来い。部屋が一つ物置きにして余ってるから少しの間貸してやる」
「え!? そんな悪いです……迷惑になりますよね」
急に申し訳なさそうにしおらしい態度を取るから拍子抜けする。
「おまえが駅に寝泊まりする方が、ずっと迷惑がかかるんだよ……」
「本当にいいんですか?」
「その代わり部屋は広くないから荷物は減らせ。あと、引っ越し費用をすぐ貯めろ。それが貯まったら出て行けよ」
「はい、ありがとうございます」
先ほどまでの落ち込んでいた様子は一切なくなり、本当に嬉しそうに遠野は矢神に笑顔を向けたのだ。
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