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第三章

11.誤解と関係の継続 ②

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「引っ越し資金貯めてからでいいって言っただろ」
「それまで眞由美さん待てますか?」
「眞由美? なんであいつの名前が出てくるんだよ」
「この家で一緒に住むんですよね?」
「はぁ!?」
「元は、眞由美さんと住むためにここ借りたって言ってたじゃないですか」

 なぜ、遠野は自分の情報をこんなにも知っているのかわからなかった。そして、次の言葉を聞いて一瞬思考が止まった。

「よりを戻したんですから、一緒に住むんですよね? もう、結婚の話とか進んでるんですか」
「……なんで、より戻したことになってんだよ」
「これからですか?」
「眞由美とは終わってるんだ」
「でも、眞由美さんは、まだ矢神さんのこと好きだと思いますよ」

 この間から遠野の様子がおかしかったのも、眞由美とのことを勘違いしていたからなのだろう。

「眞由美とはよりを戻す気はない」
「そうなんですか? あんなに仲良さそうにしてたから、オレはてっきり」

 あれからしばらく、眞由美は家に来ていなかった。
 この間、おかしな雰囲気になったあげく、冷たい態度で傷つけたのだから、あたりまえだろう。

 きちんと話し合いをすればいいのに、後回しにしていたのが悪いのだ。
 このままはっきりしない状態では良くないとも思う。

 だが、嘉村の話では、複数の男性と関係を持っていたようだし、今頃、愛想を尽かして他にいっている可能性もある。
 それならそれでいい。元々、眞由美とどうこうなるつもりはなかったのだから。

 今は、遠野に気を遣わせてしまったことの方が気に病んだ。

「引っ越しのこと、もう少ししっかり考えろよ。オレは、こんなお化け屋敷には遊びに行きたくないな」
「え? 矢神さん、オレの家に来てくれるんですか?」

 こぼれるような笑みを見せられ、動揺した。

「た、例え話だよ。誰だってこんな家に行きたくないだろ」
「そうですね」
「ほら、用意しろ。飯食いに行くぞ」

 このまま遠野は引っ越してしまうのだろうか。お金が貯まれば、いつかは出て行く。それでもこんなに早くいなくなるのは想像していなかった。何気ない日常がしばらく続くのだと。

 すっきりしない思いを抱え、玄関で靴を履いていたら、チャイムが鳴った。

「あ、矢神さん、オレが注文してた荷物かも。受け取ってくださーい」
「たった今、荷物減らしたいって言ってたのに何買ったんだよ」

 ぶつぶつ文句を言い、矢神は玄関の扉を開けた。
 だが、そこには宅配業者ではなく、さっきまで話題に上っていた眞由美が立っていたのだ。
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