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第二章

13.後輩の温かさに癒される ③

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「熱いですから、ふうふうしてくださいね」
「わかってるよ!」

 幼いころ、風邪で熱が出るたびに、母親はお粥を作ってくれた。梅干しをひとつ乗せるのをいつも忘れない。

 風邪の時は食欲が落ちるから、食べやすいようにお粥を作ってくれるのだろうけど、ごはんの味しかしないお粥は、子どもの矢神にとっては美味しい食べ物ではなかった。しかも食欲がないのに、治らないからと言われ、無理してでも食べなくてはいけなかった。そのせいで、お粥は好んで食べなくなる。

 だから、この時、久しぶりにお粥を口にしたのだ。遠野の作ったお粥は、味付けしてあるからなのか、幼いころ味わったものとはかなり違った。
 味噌風味でとても優しい味だ。生姜にネギも入っていて身体が温まる。卵でとじてあるから食べやすく、食欲がなかったのが嘘のように、不思議とするすると入っていった。

「どうですか?」
「……悪くない」

 矢神は何となく、素直に美味しいと口にすることができなかった。それでも遠野は、嬉しそうに笑うのだ。

「良かったです」

 どこまでも、人がいい奴なのだろうか。


 食事を終えると、遠野は額に貼る冷却シートや氷枕などを目の前に広げた。

「そんなの、うちにあったか?」
「さっき、コンビニで買ってきたんです。使いますよね?」
「……なんか、大げさだな。だいぶ楽になってきたけど」

 矢神は、自分の額に手を当ててみると、そんなに熱くないように感じた。しかし、遠野は見たことない怖い表情をする。

「何言っているんですか! 熱は夜に出るんです。これからが危険なんですよ!」
「……そ、そうなんだ」

 あまりの剣幕に、矢神は若干引いてしまう。だけど、遠野が心配してくれているのはわかっていた。

「じゃあ、この冷却シートだけ貼って寝るよ」

 冷却シートを額に貼り、矢神はベッドに横になった。でも遠野は、なぜか椅子に座ったまま動かない。

「何してんの? もういいよ。おまえ、飯食ってないだろ」
「矢神さんが寝るまで傍にいます」
「……だから、オレは子どもじゃないって」
「オレが、矢神さんの傍にいたいんです」

 静かに微笑む遠野に、矢神はそれ以上何も言えなかった。とにかく眠ろうと目を瞑ってみるが、遠野のことが気になってしまう。
 何か喋ってくれればいいものの、これから寝ようとする相手に話しかけてくるわけがなかった。

 どうにも居心地が悪くて、遠野に背を向けた。そして頭まで布団をかぶり、顔を隠したのだ。

 一人暮らしをしていて、こんな風に調子が悪くなると、普段はあまり感じないのに、無性に寂しくなることがあった。動くのも辛いから病院にも行かず、ベッドに寝転がったままで、食べ物もほとんど口にしない。苦しくて辛くて、このまま孤独に死んでしまうのだろうかと、そんな悪い方向に考えたりもした。

 だから今、一人じゃないことにほっとしている。他人と住む、遠野と一緒に住むということは、自分のリズムが崩れるから鬱陶しいと思っていたのに。世話になるつもりはなくても、傍にいてくれるだけで不安がなくなるのだ。

 ――ありがとう、遠野。

 矢神は心の中で、そう小さく呟くのだった。
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