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第一章
02.悪いことは続くもの? ②
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何となく胸騒ぎを覚えながら、ソファからゆっくりと立ち上がり、奥の部屋の前まで静かに足を進めた。
彼女の名前を呼ぶか、扉をノックするか一瞬迷ったが、矢神はそのまま勢いよく扉を開けたのだ。
すると、胸騒ぎが現実となる光景がその場に広がっていた。
薄暗がりの中、ベッドの上で彼女が他の男と裸で抱き合っている。それはまるで、ドラマのワンシーンのようだった。
彼女が男に触れ、男が彼女に触れる。そんな場面を見たくないはずなのに、人は本当に驚くと身体が動かなくなるということを実感していた。
しばらく呆然とその光景を眺めていれば、扉の前で立ち尽くしている矢神の存在に彼女が気づく。
まさかここに矢神が現れるとは思っていなかったらしく、目を見開き、タオルケットで肌を隠しながら身体を起こした。
「あーや……」
今にも泣き出しそうな声を出し、いつもの呼び方で矢神を呼んだ。
怒って問い質せばいいのか、泣いて叫べばいいのか、矢神はどうすればいいのかわからなかった。
ただ声を出そうにも、息が詰まっているかのように苦しく、言葉を発することも困難な状態だった。
そんな矢神に、更なる衝撃が待ち受けていた。
彼女の横にいる男がゆっくりと身体を起こした。
ベッドサイドの灯りが男を微かに照らす。短髪だったから、表情を確認することができた。
矢神は自分の目を疑った。その顔は矢神のよく知っている人物だったからだ。
「……嘉村?」
普段は眼鏡をしているから一瞬わからなかったが、同じ学校で働く同僚の教師だ。
嘉村は堂々としたもので、矢神の姿を見ても全く動じず、ベッドの上で彼女の腰に腕を回したままでいる。
まるで自分のものだと言わんばかりの態度だ。
学校でも冷静沈着のマイペースな男だったから、普段通りではあった。
動揺しているのは、むしろ何も悪いことをしていない矢神の方だ。
矢神の二つ年下の嘉村義弥は、日本史の教師をしている。
口数は少なく、周囲からは何を考えているかわからないと思われることが多かったが、なぜか矢神とは気が合った。
年齢が近いということもあり、人付き合いが上手い方ではない矢神が、珍しく相談に乗ったり乗ってもらったりと心から打ち解けることのできる間柄だった。
当然、彼女のことも話していた。将来一緒になりたいということも嘉村は知っているはずだ。
それなのに、どうして――。
今までそんな素振りを見せたことは一度もなかった。
彼女が浮気していたということよりも、相手が嘉村だということの方がショックだった。
二人に問い質す勇気は、矢神にはなかった。
ただ負け犬のように、その場を足早に去ることしかできなかったのだ。
彼女の名前を呼ぶか、扉をノックするか一瞬迷ったが、矢神はそのまま勢いよく扉を開けたのだ。
すると、胸騒ぎが現実となる光景がその場に広がっていた。
薄暗がりの中、ベッドの上で彼女が他の男と裸で抱き合っている。それはまるで、ドラマのワンシーンのようだった。
彼女が男に触れ、男が彼女に触れる。そんな場面を見たくないはずなのに、人は本当に驚くと身体が動かなくなるということを実感していた。
しばらく呆然とその光景を眺めていれば、扉の前で立ち尽くしている矢神の存在に彼女が気づく。
まさかここに矢神が現れるとは思っていなかったらしく、目を見開き、タオルケットで肌を隠しながら身体を起こした。
「あーや……」
今にも泣き出しそうな声を出し、いつもの呼び方で矢神を呼んだ。
怒って問い質せばいいのか、泣いて叫べばいいのか、矢神はどうすればいいのかわからなかった。
ただ声を出そうにも、息が詰まっているかのように苦しく、言葉を発することも困難な状態だった。
そんな矢神に、更なる衝撃が待ち受けていた。
彼女の横にいる男がゆっくりと身体を起こした。
ベッドサイドの灯りが男を微かに照らす。短髪だったから、表情を確認することができた。
矢神は自分の目を疑った。その顔は矢神のよく知っている人物だったからだ。
「……嘉村?」
普段は眼鏡をしているから一瞬わからなかったが、同じ学校で働く同僚の教師だ。
嘉村は堂々としたもので、矢神の姿を見ても全く動じず、ベッドの上で彼女の腰に腕を回したままでいる。
まるで自分のものだと言わんばかりの態度だ。
学校でも冷静沈着のマイペースな男だったから、普段通りではあった。
動揺しているのは、むしろ何も悪いことをしていない矢神の方だ。
矢神の二つ年下の嘉村義弥は、日本史の教師をしている。
口数は少なく、周囲からは何を考えているかわからないと思われることが多かったが、なぜか矢神とは気が合った。
年齢が近いということもあり、人付き合いが上手い方ではない矢神が、珍しく相談に乗ったり乗ってもらったりと心から打ち解けることのできる間柄だった。
当然、彼女のことも話していた。将来一緒になりたいということも嘉村は知っているはずだ。
それなのに、どうして――。
今までそんな素振りを見せたことは一度もなかった。
彼女が浮気していたということよりも、相手が嘉村だということの方がショックだった。
二人に問い質す勇気は、矢神にはなかった。
ただ負け犬のように、その場を足早に去ることしかできなかったのだ。
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