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第三章

37. 話し合いの果てに ④

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「矢神さん!」
 
 玄関から大きな声が聞こえてくる。遠野だった。
 
「やっと来たよ。遅かったね。私からのメッセージを見たんだろ?」
 
 走ってきたのだろう。息を切らしながら、怒りをあらわにした。
 
「矢神さんには関わらないでって言ったのに!」
「呼び出されたのは私の方だよ」
 
 依田に抱えられている矢神の様子を見て、遠野は困惑する。
 
「矢神さんに……何したんですか……」
「ちょっとイタズラ心で催淫剤を飲ませたらこんなになっちゃって。うちの店のキャストには、全然効かなかったんだけど。もしかして矢神先生、溜まってる? 忙しくても適度に抜かないと身体に悪いよ」
 
 ふふっと笑った依田は、静かに矢神を床に寝かせた。その間も身体が火照ってどうにかなりそうだった。
 
「どうしたら……」
 
 遠野は矢神のそばでオロオロするばかり。
 
「大丈夫、一発抜けばすっきりだよ。力が入らないみたいだから大稀が手伝ってあげな。得意だろ? 私はお邪魔のようだから帰るよ。またね」

 手を降って退散する依田を遠野は睨みつけたあと、矢神の肩に触れようとした。

「矢神さん……」
「さ、さわ、るな……」
 
 触れられるだけで、快感に眩暈がしそうになる。

「でも……」
「じ、ぶんで、やる……から、あっち、いって……ろ」
 
 何とか呼吸を整えて、身体を動かそうとするが、やっぱり思うように動かすことができない。
 コロンとうつ伏せになれば、股間が床に触れた刺激が気持ちいい。
 
「あぁ……っ、はぁ……」
 
 腰を動かして、床に擦りつけるが、これくらいでは物足りない。身体中は熱くて、上手く触れない状態がもどかしかった。もっと、もっと刺激が欲しい。
 不意に身体が浮いた。遠野が抱き上げたからだ。

「や……さわ、るなって……」

 その言葉は無視され、遠野は矢神を抱えたまま、歩き出す。
 行き先は、矢神の部屋だ。
 ドアを開けて、ベッドにそっと下ろしてくれる。

「……あり、がと。あとは、じぶん、で……」

 そう言ったのに、遠野はベッドに乗ってくる。
 
 ――まさかここで襲われるとかないよな。

 矢神のことを好きだという遠野だが、無理矢理するような男ではないと信じている。
 
 だが、万が一手を出してきたら――。


 力が入らないだけじゃなく、薬のせいで頭が朦朧としている矢神にとって、もはや抵抗できる気力はなかった。
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