上 下
110 / 149
第三章

28.深淵の闇 ①

しおりを挟む
 矢神は、遠野の帰りを待っていた。
 夜中の1時を過ぎている。あまりにも眠過ぎて一瞬意識を失うこともあった。
 今夜は帰ってこないかもしれない。それともここにはもう戻ってこないのか。
 嫌な思考が頭を支配していた。

 遠野が帰ってきている形跡はあったが、ここ最近は家で姿を見たことはない。
 矢神に会いたくないという意思表示だろう。愛想を尽かされてしまったか。
 そうだとしても、会える可能性があるのなら根気よく待っていようと思った。
 今日がダメでも明日がある。家で会えないなら、学校で話すしかない。
 どうにかして今の状況を打開したかった。

 ブラックコーヒーを飲みつつ、睡魔と闘っていれば、時刻が2時になる頃、玄関の鍵がガチャっと開く音がした。
 すぐさま玄関に向かう。自宅で見る遠野の姿は久しぶりだった。この家に帰ってきてくれたことに気持ちが安らいだ。

 彼の方は矢神が起きていることに驚いたのか、一瞬、玄関で動きを止めた。そして、こちらの方を見向きもせず、ぼそっと呟く。

「すみません。遅くなりました……」

 遠野からアルコールの匂いがした。

「そんなこといいんだよ。けっこう飲んでるのか?」
「ダメですか?」
「いや、飲みたい時だってあるだろ」
「オレ、シャワー浴びて寝ますんで」

 バスルームに向かう遠野の腕を矢神は掴んだ。

「話がある」
「オレにはありません」
「いいから、こっち来い」

 半ば強引に、遠野の腕を引っ張りリビングに連れて行った。ソファに座らせるが、こちらを向こうとしない。それでも話をすることにした。

「遠野と依田さんのことを聞かせてくれ」
「なんで矢神さんに話さないといけないんですか。関係ないでしょ」
「関係あるよ! おまえ、ずっと様子がおかしいだろ。生徒は怯えてるし、校長も心配してる。そんなんで教師なんて続けていけないだろ」

 悔しそうに遠野は唇を噛む。

「オレに対してどんな態度でもいいよ。だけど、生徒のためにも学校では普通にしてろ」

 何も答えてはくれない。沈黙が続くだけ。矢神の思いは、遠野に届かないのか。

「ずっと様子がおかしいのは、依田さんのせいなんだろ? 悩んでるなら話聞くから。今までオレにもそうしてくれたじゃないか」

 矢神がピンチの時、必ずと言っていいほど支えてくれていた。それが痛いほど身に染みている。
 だからこそ遠野のために何かしてあげたかった。

「……矢神さんに嫌われたくありません」
「余程のことがない限り、嫌いになんかなんねーよ」
「余程のことですよ……」

 掠れるような声で言って再び黙ってしまう。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

monochrome dawn

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

COLLAR(s)

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:10

その嘘はかなり許せない

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:24

オトナの恋の証明

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:6

闇夜 -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る3-

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:11

校外活動

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:31

路傍の石

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:9

君と僕の秘密の日々

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

ブラックマンバ~毒蛇の名で呼ばれる男妾

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:78

【完結】追ってきた男

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:39

処理中です...