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第三章
28.深淵の闇 ①
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矢神は、遠野の帰りを待っていた。
夜中の1時を過ぎている。あまりにも眠過ぎて一瞬意識を失うこともあった。
今夜は帰ってこないかもしれない。それともここにはもう戻ってこないのか。
嫌な思考が頭を支配していた。
遠野が帰ってきている形跡はあったが、ここ最近は家で姿を見たことはない。
矢神に会いたくないという意思表示だろう。愛想を尽かされてしまったか。
そうだとしても、会える可能性があるのなら根気よく待っていようと思った。
今日がダメでも明日がある。家で会えないなら、学校で話すしかない。
どうにかして今の状況を打開したかった。
ブラックコーヒーを飲みつつ、睡魔と闘っていれば、時刻が2時になる頃、玄関の鍵がガチャっと開く音がした。
すぐさま玄関に向かう。自宅で見る遠野の姿は久しぶりだった。この家に帰ってきてくれたことに気持ちが安らいだ。
彼の方は矢神が起きていることに驚いたのか、一瞬、玄関で動きを止めた。そして、こちらの方を見向きもせず、ぼそっと呟く。
「すみません。遅くなりました……」
遠野からアルコールの匂いがした。
「そんなこといいんだよ。けっこう飲んでるのか?」
「ダメですか?」
「いや、飲みたい時だってあるだろ」
「オレ、シャワー浴びて寝ますんで」
バスルームに向かう遠野の腕を矢神は掴んだ。
「話がある」
「オレにはありません」
「いいから、こっち来い」
半ば強引に、遠野の腕を引っ張りリビングに連れて行った。ソファに座らせるが、こちらを向こうとしない。それでも話をすることにした。
「遠野と依田さんのことを聞かせてくれ」
「なんで矢神さんに話さないといけないんですか。関係ないでしょ」
「関係あるよ! おまえ、ずっと様子がおかしいだろ。生徒は怯えてるし、校長も心配してる。そんなんで教師なんて続けていけないだろ」
悔しそうに遠野は唇を噛む。
「オレに対してどんな態度でもいいよ。だけど、生徒のためにも学校では普通にしてろ」
何も答えてはくれない。沈黙が続くだけ。矢神の思いは、遠野に届かないのか。
「ずっと様子がおかしいのは、依田さんのせいなんだろ? 悩んでるなら話聞くから。今までオレにもそうしてくれたじゃないか」
矢神がピンチの時、必ずと言っていいほど支えてくれていた。それが痛いほど身に染みている。
だからこそ遠野のために何かしてあげたかった。
「……矢神さんに嫌われたくありません」
「余程のことがない限り、嫌いになんかなんねーよ」
「余程のことですよ……」
掠れるような声で言って再び黙ってしまう。
夜中の1時を過ぎている。あまりにも眠過ぎて一瞬意識を失うこともあった。
今夜は帰ってこないかもしれない。それともここにはもう戻ってこないのか。
嫌な思考が頭を支配していた。
遠野が帰ってきている形跡はあったが、ここ最近は家で姿を見たことはない。
矢神に会いたくないという意思表示だろう。愛想を尽かされてしまったか。
そうだとしても、会える可能性があるのなら根気よく待っていようと思った。
今日がダメでも明日がある。家で会えないなら、学校で話すしかない。
どうにかして今の状況を打開したかった。
ブラックコーヒーを飲みつつ、睡魔と闘っていれば、時刻が2時になる頃、玄関の鍵がガチャっと開く音がした。
すぐさま玄関に向かう。自宅で見る遠野の姿は久しぶりだった。この家に帰ってきてくれたことに気持ちが安らいだ。
彼の方は矢神が起きていることに驚いたのか、一瞬、玄関で動きを止めた。そして、こちらの方を見向きもせず、ぼそっと呟く。
「すみません。遅くなりました……」
遠野からアルコールの匂いがした。
「そんなこといいんだよ。けっこう飲んでるのか?」
「ダメですか?」
「いや、飲みたい時だってあるだろ」
「オレ、シャワー浴びて寝ますんで」
バスルームに向かう遠野の腕を矢神は掴んだ。
「話がある」
「オレにはありません」
「いいから、こっち来い」
半ば強引に、遠野の腕を引っ張りリビングに連れて行った。ソファに座らせるが、こちらを向こうとしない。それでも話をすることにした。
「遠野と依田さんのことを聞かせてくれ」
「なんで矢神さんに話さないといけないんですか。関係ないでしょ」
「関係あるよ! おまえ、ずっと様子がおかしいだろ。生徒は怯えてるし、校長も心配してる。そんなんで教師なんて続けていけないだろ」
悔しそうに遠野は唇を噛む。
「オレに対してどんな態度でもいいよ。だけど、生徒のためにも学校では普通にしてろ」
何も答えてはくれない。沈黙が続くだけ。矢神の思いは、遠野に届かないのか。
「ずっと様子がおかしいのは、依田さんのせいなんだろ? 悩んでるなら話聞くから。今までオレにもそうしてくれたじゃないか」
矢神がピンチの時、必ずと言っていいほど支えてくれていた。それが痛いほど身に染みている。
だからこそ遠野のために何かしてあげたかった。
「……矢神さんに嫌われたくありません」
「余程のことがない限り、嫌いになんかなんねーよ」
「余程のことですよ……」
掠れるような声で言って再び黙ってしまう。
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