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第三章
26. 悩みに寄り添うオネエの言葉 ④
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「相当参ってるわね。大ちゃん、そんなにひどい状態なの?」
「あんな遠野は、今まで見たことないです。いつも前向きで明るい性格だから、オレも戸惑ってて。だけど、放ってはおけない」
急に杏は、先ほどとは打って変わって、にこやかな笑顔になる。
「良かったわ。大ちゃんの傍に、こんなに大切に想ってくれる人がいてくれて」
「そんなんじゃ……」
「なによー、照れることないじゃない!」
バシッと音が鳴るほど肩を叩かれ、あまりの痛みに思わず肩をさすった。見た目とは違って、これは男の力だ。
「あくまで、先輩として」
「矢神クンって大ちゃんと一緒に住んでるんでしょ?」
「え? まあ……」
そんなことを言った覚えはなかったが、遠野から聞いたのだろう。
「他人と住むの嫌じゃないの? 煩わしくない?」
「部屋が余ってたから、遠野の引っ越し資金が貯まるまでの間、貸してるだけです。そうじゃないとアイツ、ネットカフェに住み着くとか言うから」
「たかが後輩のために? それ、相手がアタシでも一緒に住んでくれた?」
「杏さんと?」
「そうよ」
しばし考えてみるが、杏との共同生活がうまく想像できなかった。
「杏さんのことは、まだよく知らないし……」
「大ちゃんのことだって、よく知らないでしょ? 悪い奴だったらどうしてたのよ」
「アイツは……悪い奴じゃないですよ」
「そう? だって、矢神クンのこと好きなんだから、一緒に住むのも計画的だったりして」
「遠野はそんなことしないです。っていうか、好きって知ってたんですか?」
「大ちゃん見てたら、バレバレよ。矢神クンを見る目が恋しちゃってるって感じだもの」
そんなにわかりやすいのだろうか。今までも遠野の気持ちに気づいている人がいた。
普段接している分には、矢神は遠野の想いはさほど感じてないのだが。
「矢神クンは、大ちゃんのこと信頼してるのね」
「いい加減な奴だと思ってたんですけど、そうじゃなかった。きちんと周りを見て気配りもできる。明るくて性格もいいし、教師に向いてる気がします。だから、今の状態が悔しいんです」
「やだ、惚気聞いてるみたい。お姉さん暑くなってきたわ」
「……お姉さん?」
思わず突っ込んでしまった。
「やーね。どっからどう見てもお姉さんでしょ」
確かにそうなのだ。可愛らしい声で話している時は女性と認識しそうになるが、たまに素が出るせいか、男性だと知っているということもあり、違和感が半端なかった。
「とにかく、そんな熱い想いがあるなら、そのまま大ちゃんにぶつけたら?」
「そうは言っても……」
何度声をかけても、話を逸らされる。
今の遠野が、自分の話を聞いてくれるのか。
不安で押しつぶされそうだった。
でも、それは遠野も同じなのかもしれない。
何か不安に思うことがあるのなら――。
「あんな遠野は、今まで見たことないです。いつも前向きで明るい性格だから、オレも戸惑ってて。だけど、放ってはおけない」
急に杏は、先ほどとは打って変わって、にこやかな笑顔になる。
「良かったわ。大ちゃんの傍に、こんなに大切に想ってくれる人がいてくれて」
「そんなんじゃ……」
「なによー、照れることないじゃない!」
バシッと音が鳴るほど肩を叩かれ、あまりの痛みに思わず肩をさすった。見た目とは違って、これは男の力だ。
「あくまで、先輩として」
「矢神クンって大ちゃんと一緒に住んでるんでしょ?」
「え? まあ……」
そんなことを言った覚えはなかったが、遠野から聞いたのだろう。
「他人と住むの嫌じゃないの? 煩わしくない?」
「部屋が余ってたから、遠野の引っ越し資金が貯まるまでの間、貸してるだけです。そうじゃないとアイツ、ネットカフェに住み着くとか言うから」
「たかが後輩のために? それ、相手がアタシでも一緒に住んでくれた?」
「杏さんと?」
「そうよ」
しばし考えてみるが、杏との共同生活がうまく想像できなかった。
「杏さんのことは、まだよく知らないし……」
「大ちゃんのことだって、よく知らないでしょ? 悪い奴だったらどうしてたのよ」
「アイツは……悪い奴じゃないですよ」
「そう? だって、矢神クンのこと好きなんだから、一緒に住むのも計画的だったりして」
「遠野はそんなことしないです。っていうか、好きって知ってたんですか?」
「大ちゃん見てたら、バレバレよ。矢神クンを見る目が恋しちゃってるって感じだもの」
そんなにわかりやすいのだろうか。今までも遠野の気持ちに気づいている人がいた。
普段接している分には、矢神は遠野の想いはさほど感じてないのだが。
「矢神クンは、大ちゃんのこと信頼してるのね」
「いい加減な奴だと思ってたんですけど、そうじゃなかった。きちんと周りを見て気配りもできる。明るくて性格もいいし、教師に向いてる気がします。だから、今の状態が悔しいんです」
「やだ、惚気聞いてるみたい。お姉さん暑くなってきたわ」
「……お姉さん?」
思わず突っ込んでしまった。
「やーね。どっからどう見てもお姉さんでしょ」
確かにそうなのだ。可愛らしい声で話している時は女性と認識しそうになるが、たまに素が出るせいか、男性だと知っているということもあり、違和感が半端なかった。
「とにかく、そんな熱い想いがあるなら、そのまま大ちゃんにぶつけたら?」
「そうは言っても……」
何度声をかけても、話を逸らされる。
今の遠野が、自分の話を聞いてくれるのか。
不安で押しつぶされそうだった。
でも、それは遠野も同じなのかもしれない。
何か不安に思うことがあるのなら――。
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