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第三章
21 消えたつながり ②
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矢神を避けているだけなら、まだ良かった。
遠野は、学校でも様子がおかしくなっていく。
上の空なんて可愛い方で、ミスが多くて周りにも支障をきたすくらいだ。
適当なところのある遠野だが、今までなら多少のミスをしても、その後のフォローを自分でして解決に導いていた。それを今はしないから、他の教師から文句が増えて最悪な状態になっている。
「遠野先生はいったい何してるんですか! 最近、あの人おかしいですよ!」
「私が代わりにやります。遠野先生には言っておきますので」
遠野の後始末は矢神がなんとかしていた。だが、一緒に働く教師たちの不満は溜まる一方だ。
「大丈夫ですか? 書類が山積みですけど」
遠野の机の前で慌ただしくしていた矢神に、声をかけてきたのは嘉村だった。人のことは気にしない嘉村も、さすがに遠野のことを心配しているようだ。
「研修旅行の資料、明日の会議で使うんだけど、遠野先生、まだまとめてないみたいなんだよ」
「矢神先生がまとめるんですか?」
「遠野先生、忙しそうだから」
「三者面談の日程、組み直さないといけないって言ってましたよね」
「ああ、そうだった。これ終わったらやります」
山積みの資料の中から、目的のものを探すのは一苦労だ。前から整理をしておけと言っていたのに、全く行われていないことにガックリくる。
「本当に大丈夫なんですか?」
「忙しそうにしてるけど、部活の顧問も終われば、遠野先生も落ち着くと思いますよ」
「そうじゃなくて。史人が大丈夫か聞いてるんだよ」
「え? オレ?」
「遠野先生の仕事ばかりやってますよね」
「ああ……うん、遠野先生、仕事追いついてないみたいで」
「矢神先生もですよね。人の仕事受けるから、自分の仕事進んでじゃないですか」
「まあ、そうなんだけど」
「本当、お人好しですよね。研修旅行の資料は私がまとめるので、矢神先生は自分の仕事してください」
苛立つような言い方をしながらも嘉村は、遠野の机で山積みになっている資料に手をつける。
「悪い。助かる」
「遠野先生、ただ仕事が追いついてないってだけには見えないんですけど、何かあったんですか?」
「……何もないよ」
そう言いながらも、そんなわけないよなと心の中でつぶやく。
一番不自然だと感じているのは、遠野の顔から笑顔が消えたことだ。学校一親しみやすいと評判の遠野が、今では何を考えているかわからないと近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
「大ちゃん、どうしちゃったの?」
「体育の授業受けたくない」
「遠野先生のせいで他の教師の負担が増えるので邪魔なんですよね」
「教師のくせにチャラチャラしてると思ってたんですよ」
生徒たちは不安がり、他の教師からは陰口を叩かれる。そういう声が矢神の耳にも複数入ってきていた。
そんな状況に心配した校長は、矢神に様子を訊ねてくる。
「矢神先生は、遠野先生と同居されていますよね。最近、家ではどうですか」
ほとんど顔を合わせていないのだから、わかるわけはないのだ。
「少し疲れているように感じますね」
矢神は当たり障りのない回答をするしかなかった。
「やはり、部活の顧問が堪えているんでしょうか。担当の方のお休みも延長になってしまいましたから、負担が大きいのかもしれません。話を聞きたいと思ってるんですが、遠野先生は時間が取れないと言っていて」
――校長との話し合いを断るってどういうことだよ。
「部活のことは、遠野先生自身がやると言い出したことなので大丈夫だと思います」
「遠野先生、辞めてしまいませんよね。そういうことは口にしてませんか? 自分の中でどうしようもなくなって退職される先生も多いので心配しているんです」
それはないと思いたいが、今の遠野なら、ふっといなくなってもおかしくはなさそうだ。
仕事が限界に達しているのなら、他の教師と連携をとるべきなのだが、それもしない。
ここまで遠野を変えてしまうなんて。何を考えているのか全くわからない状態にお手上げ気味だった。
「私も気をつけて様子をみていきます」
「矢神先生、頼りにしています。お願いしますね」
とにかく今できることをやるしかなかった。
遠野は、学校でも様子がおかしくなっていく。
上の空なんて可愛い方で、ミスが多くて周りにも支障をきたすくらいだ。
適当なところのある遠野だが、今までなら多少のミスをしても、その後のフォローを自分でして解決に導いていた。それを今はしないから、他の教師から文句が増えて最悪な状態になっている。
「遠野先生はいったい何してるんですか! 最近、あの人おかしいですよ!」
「私が代わりにやります。遠野先生には言っておきますので」
遠野の後始末は矢神がなんとかしていた。だが、一緒に働く教師たちの不満は溜まる一方だ。
「大丈夫ですか? 書類が山積みですけど」
遠野の机の前で慌ただしくしていた矢神に、声をかけてきたのは嘉村だった。人のことは気にしない嘉村も、さすがに遠野のことを心配しているようだ。
「研修旅行の資料、明日の会議で使うんだけど、遠野先生、まだまとめてないみたいなんだよ」
「矢神先生がまとめるんですか?」
「遠野先生、忙しそうだから」
「三者面談の日程、組み直さないといけないって言ってましたよね」
「ああ、そうだった。これ終わったらやります」
山積みの資料の中から、目的のものを探すのは一苦労だ。前から整理をしておけと言っていたのに、全く行われていないことにガックリくる。
「本当に大丈夫なんですか?」
「忙しそうにしてるけど、部活の顧問も終われば、遠野先生も落ち着くと思いますよ」
「そうじゃなくて。史人が大丈夫か聞いてるんだよ」
「え? オレ?」
「遠野先生の仕事ばかりやってますよね」
「ああ……うん、遠野先生、仕事追いついてないみたいで」
「矢神先生もですよね。人の仕事受けるから、自分の仕事進んでじゃないですか」
「まあ、そうなんだけど」
「本当、お人好しですよね。研修旅行の資料は私がまとめるので、矢神先生は自分の仕事してください」
苛立つような言い方をしながらも嘉村は、遠野の机で山積みになっている資料に手をつける。
「悪い。助かる」
「遠野先生、ただ仕事が追いついてないってだけには見えないんですけど、何かあったんですか?」
「……何もないよ」
そう言いながらも、そんなわけないよなと心の中でつぶやく。
一番不自然だと感じているのは、遠野の顔から笑顔が消えたことだ。学校一親しみやすいと評判の遠野が、今では何を考えているかわからないと近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
「大ちゃん、どうしちゃったの?」
「体育の授業受けたくない」
「遠野先生のせいで他の教師の負担が増えるので邪魔なんですよね」
「教師のくせにチャラチャラしてると思ってたんですよ」
生徒たちは不安がり、他の教師からは陰口を叩かれる。そういう声が矢神の耳にも複数入ってきていた。
そんな状況に心配した校長は、矢神に様子を訊ねてくる。
「矢神先生は、遠野先生と同居されていますよね。最近、家ではどうですか」
ほとんど顔を合わせていないのだから、わかるわけはないのだ。
「少し疲れているように感じますね」
矢神は当たり障りのない回答をするしかなかった。
「やはり、部活の顧問が堪えているんでしょうか。担当の方のお休みも延長になってしまいましたから、負担が大きいのかもしれません。話を聞きたいと思ってるんですが、遠野先生は時間が取れないと言っていて」
――校長との話し合いを断るってどういうことだよ。
「部活のことは、遠野先生自身がやると言い出したことなので大丈夫だと思います」
「遠野先生、辞めてしまいませんよね。そういうことは口にしてませんか? 自分の中でどうしようもなくなって退職される先生も多いので心配しているんです」
それはないと思いたいが、今の遠野なら、ふっといなくなってもおかしくはなさそうだ。
仕事が限界に達しているのなら、他の教師と連携をとるべきなのだが、それもしない。
ここまで遠野を変えてしまうなんて。何を考えているのか全くわからない状態にお手上げ気味だった。
「私も気をつけて様子をみていきます」
「矢神先生、頼りにしています。お願いしますね」
とにかく今できることをやるしかなかった。
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