上 下
103 / 150
第三章

21 消えたつながり ②

しおりを挟む
 矢神を避けているだけなら、まだ良かった。
 遠野は、学校でも様子がおかしくなっていく。

 上の空なんて可愛い方で、ミスが多くて周りにも支障をきたすくらいだ。
 適当なところのある遠野だが、今までなら多少のミスをしても、その後のフォローを自分でして解決に導いていた。それを今はしないから、他の教師から文句が増えて最悪な状態になっている。

「遠野先生はいったい何してるんですか! 最近、あの人おかしいですよ!」
「私が代わりにやります。遠野先生には言っておきますので」

 遠野の後始末は矢神がなんとかしていた。だが、一緒に働く教師たちの不満は溜まる一方だ。

「大丈夫ですか? 書類が山積みですけど」

 遠野の机の前で慌ただしくしていた矢神に、声をかけてきたのは嘉村だった。人のことは気にしない嘉村も、さすがに遠野のことを心配しているようだ。

「研修旅行の資料、明日の会議で使うんだけど、遠野先生、まだまとめてないみたいなんだよ」
「矢神先生がまとめるんですか?」
「遠野先生、忙しそうだから」
「三者面談の日程、組み直さないといけないって言ってましたよね」
「ああ、そうだった。これ終わったらやります」

 山積みの資料の中から、目的のものを探すのは一苦労だ。前から整理をしておけと言っていたのに、全く行われていないことにガックリくる。

「本当に大丈夫なんですか?」
「忙しそうにしてるけど、部活の顧問も終われば、遠野先生も落ち着くと思いますよ」
「そうじゃなくて。史人あやとが大丈夫か聞いてるんだよ」
「え? オレ?」
「遠野先生の仕事ばかりやってますよね」
「ああ……うん、遠野先生、仕事追いついてないみたいで」
「矢神先生もですよね。人の仕事受けるから、自分の仕事進んでじゃないですか」
「まあ、そうなんだけど」
「本当、お人好しですよね。研修旅行の資料は私がまとめるので、矢神先生は自分の仕事してください」

 苛立つような言い方をしながらも嘉村は、遠野の机で山積みになっている資料に手をつける。

「悪い。助かる」
「遠野先生、ただ仕事が追いついてないってだけには見えないんですけど、何かあったんですか?」
「……何もないよ」

 そう言いながらも、そんなわけないよなと心の中でつぶやく。

 一番不自然だと感じているのは、遠野の顔から笑顔が消えたことだ。学校一親しみやすいと評判の遠野が、今では何を考えているかわからないと近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。



「大ちゃん、どうしちゃったの?」
「体育の授業受けたくない」
「遠野先生のせいで他の教師の負担が増えるので邪魔なんですよね」
「教師のくせにチャラチャラしてると思ってたんですよ」


 生徒たちは不安がり、他の教師からは陰口を叩かれる。そういう声が矢神の耳にも複数入ってきていた。

 そんな状況に心配した校長は、矢神に様子を訊ねてくる。

「矢神先生は、遠野先生と同居されていますよね。最近、家ではどうですか」

 ほとんど顔を合わせていないのだから、わかるわけはないのだ。

「少し疲れているように感じますね」

 矢神は当たり障りのない回答をするしかなかった。

「やはり、部活の顧問が堪えているんでしょうか。担当の方のお休みも延長になってしまいましたから、負担が大きいのかもしれません。話を聞きたいと思ってるんですが、遠野先生は時間が取れないと言っていて」

 ――校長との話し合いを断るってどういうことだよ。

「部活のことは、遠野先生自身がやると言い出したことなので大丈夫だと思います」
「遠野先生、辞めてしまいませんよね。そういうことは口にしてませんか? 自分の中でどうしようもなくなって退職される先生も多いので心配しているんです」

 それはないと思いたいが、今の遠野なら、ふっといなくなってもおかしくはなさそうだ。
 仕事が限界に達しているのなら、他の教師と連携をとるべきなのだが、それもしない。

 ここまで遠野を変えてしまうなんて。何を考えているのか全くわからない状態にお手上げ気味だった。

「私も気をつけて様子をみていきます」
「矢神先生、頼りにしています。お願いしますね」

 とにかく今できることをやるしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺

高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

処理中です...