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第三章
13.誤解と関係の継続 ④
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「矢神さん……」
遠野が悲しそうな震える声で名を呼んだ。
「悪かったな、変なところ見せて。眞由美の性格上、第三者が傍にいた方がいいと思ってさ。2人きりだと、うまく話を逸らされそうだったから」
「オレは大丈夫ですけど……」
これで解決したはずなのに、モヤモヤが残って気持ちが晴れなかった。
もっと早く話し合いをしていれば、お互いにこんな思いをしなくて済んだのかもしれない。
後悔ばかりが思い浮かぶ。
「あ、昼飯……なんか、外で食う気分じゃないな」
「チャーハンでよければ、作りますか?」
「悪いな」
「待っていてください」
遠野は「簡単なものですけど」と言い、チャーハンとわかめスープを作ってくれた。
食べる気力はなかった。それでも目の前に出されたら、いい香りにつられて思わずスプーンを手にしていた。
口に運べば、ほっとする味が広がった。遠野の料理はやっぱり美味しいと実感する。
「眞由美とのことは、はっきりさせたから、おまえは出ていかなくていいぞ」
「……オレ、ここにいていいんですか?」
この間から、こんな風にしおらしい態度をする。眞由美が来ていたことにより、居心地が悪かったのだろう。遠野には本当に申し訳ないことをした。
「同居する時に言っただろ。引っ越し資金貯めてからでいいって。それじゃないとおまえ、ろくでもないところに住みそうだからな」
「でも……」
遠野は困ったように口ごもる。もじもじとして、らしくない態度だ。
「なんだよ、まだなんか気になることあるのか?」
「オレ、矢神さんに迫っちゃいますよ」
「はあ!? んなの、我慢しろよ!」
「えー、我慢にも限界があります」
「なに、開き直ってんだよ」
矢神は、はっとする。
――あれ? ちょっと待て。遠野に対しても、はっきりさせないといけないんじゃなかったか?
眞由美のことでごたごたしていたせいで、すっかり忘れていた。
遠野に告白をされて、返事を待つと言われたわけではない。だが、眞由美同様、中途半端な状態は良くないと考えていた。この機会にきちんとするべきだ。
「遠野、話が――」
「そうだ、キムチもらったんですよ。食べます?」
「え? 食べるけど、誰にもらったんだよ」
「スーパーでよく会うみどりさんです。自家製キムチ美味しいんですよ」
遠野はスキップするごとく嬉しそうに冷蔵庫に足を進めた。
『みどりさん』という名は初めて聞くが、こういうことはよくあることだった。
誰とでも簡単に仲良くなれる。矢神とは正反対の性格なのだ。
「おまえってすごいよな」
「何がですか?」
「いや……」
「はい、どうぞ」
ほくほく顔で小皿に入れたキムチを矢神の前に出してきた。
「ありがと……」
切り出すタイミングを失い、途方に暮れる。いつものパターンだ。
ずっと曖昧な状態では悪いと思いつつも、何も答えを出さないでここまで来てしまった。
遠野の気持ちが本気ならなおのこと、はっきりさせるべき。それはわかっているのに、今、この時間を壊したくなくて結局後回しにするのだ。
遠野が悲しそうな震える声で名を呼んだ。
「悪かったな、変なところ見せて。眞由美の性格上、第三者が傍にいた方がいいと思ってさ。2人きりだと、うまく話を逸らされそうだったから」
「オレは大丈夫ですけど……」
これで解決したはずなのに、モヤモヤが残って気持ちが晴れなかった。
もっと早く話し合いをしていれば、お互いにこんな思いをしなくて済んだのかもしれない。
後悔ばかりが思い浮かぶ。
「あ、昼飯……なんか、外で食う気分じゃないな」
「チャーハンでよければ、作りますか?」
「悪いな」
「待っていてください」
遠野は「簡単なものですけど」と言い、チャーハンとわかめスープを作ってくれた。
食べる気力はなかった。それでも目の前に出されたら、いい香りにつられて思わずスプーンを手にしていた。
口に運べば、ほっとする味が広がった。遠野の料理はやっぱり美味しいと実感する。
「眞由美とのことは、はっきりさせたから、おまえは出ていかなくていいぞ」
「……オレ、ここにいていいんですか?」
この間から、こんな風にしおらしい態度をする。眞由美が来ていたことにより、居心地が悪かったのだろう。遠野には本当に申し訳ないことをした。
「同居する時に言っただろ。引っ越し資金貯めてからでいいって。それじゃないとおまえ、ろくでもないところに住みそうだからな」
「でも……」
遠野は困ったように口ごもる。もじもじとして、らしくない態度だ。
「なんだよ、まだなんか気になることあるのか?」
「オレ、矢神さんに迫っちゃいますよ」
「はあ!? んなの、我慢しろよ!」
「えー、我慢にも限界があります」
「なに、開き直ってんだよ」
矢神は、はっとする。
――あれ? ちょっと待て。遠野に対しても、はっきりさせないといけないんじゃなかったか?
眞由美のことでごたごたしていたせいで、すっかり忘れていた。
遠野に告白をされて、返事を待つと言われたわけではない。だが、眞由美同様、中途半端な状態は良くないと考えていた。この機会にきちんとするべきだ。
「遠野、話が――」
「そうだ、キムチもらったんですよ。食べます?」
「え? 食べるけど、誰にもらったんだよ」
「スーパーでよく会うみどりさんです。自家製キムチ美味しいんですよ」
遠野はスキップするごとく嬉しそうに冷蔵庫に足を進めた。
『みどりさん』という名は初めて聞くが、こういうことはよくあることだった。
誰とでも簡単に仲良くなれる。矢神とは正反対の性格なのだ。
「おまえってすごいよな」
「何がですか?」
「いや……」
「はい、どうぞ」
ほくほく顔で小皿に入れたキムチを矢神の前に出してきた。
「ありがと……」
切り出すタイミングを失い、途方に暮れる。いつものパターンだ。
ずっと曖昧な状態では悪いと思いつつも、何も答えを出さないでここまで来てしまった。
遠野の気持ちが本気ならなおのこと、はっきりさせるべき。それはわかっているのに、今、この時間を壊したくなくて結局後回しにするのだ。
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