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第三章
06.驚くべき接触 ①
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「矢神先生、先に帰りますね。今夜は五目ちらしなので、楽しみにしててください」
残業している矢神に手を振り、帰って行った遠野。
帰路の途中でそんなことを思い出した矢神は、つい頬を綻ばせそうになって、慌てて口元に手を当てた。
今朝、たまたま目にした五目ちらしのCMに、「すげえ、美味そう」と反応した矢神のことを遠野は覚えていたのだろう。矢神に対する彼の観察力は、相当なものだ。矢神が喜ぶようなことを全て叶えてあげたいという気持ちが重々に伝わってくる。
特に食事に関しては、矢神の好みに合わせているのか、満足しすぎて、外食しようとさえ思わないくらいだ。だから、仕事が終われば、遠野の作る夕食を楽しみに真っ直ぐ帰宅する。こんな風に、毎日、真面目なプライベートを過ごしていた。
「ただいま」
家に着いて玄関の扉を開けると、飼い主の帰りを今か今かと待っていた尻尾を振る犬のように、遠野が駆け足で迎えてくれる。騒がしい奴だが、最近では、それがあたりまえになっていて、遠野よりも先に帰宅する時には、物足りないと感じてしまう。
だけど、この日はいつもと違った。
玄関には、なぜか女物の靴、黒いハイヒールが置いてあって、胸騒ぎを覚えた。
「おかえり、あーや」
靴を脱いでいれば、頭上から女性の声がした。案の定、矢神を迎えてくれたのは遠野ではなく、眞由美だった。
「……なんで」
彼女の顔を確認して呆然としていれば、眞由美の後ろから遠野も声をかけてきた。
「おかえりなさい、矢神さん」
「あーや、帰ってくるの遅いよ。ピザ買ってきたのに、冷めちゃうじゃない」
眞由美は早く部屋に上がれと言わんばかりに、矢神の腕を引っ張った。
「え、なに? ピザ?」
状況がいまいち把握できず、混乱しているうちに、ダイニングルームに連れて行かれる。
テーブルの上には、何本かの缶ビールと一緒に、大きなピザが二枚、それと一緒に、グリーンサラダ、フライドポテトが皿いっぱい山盛りになっていた。
「お腹空いちゃった。早く食べよう」
急かす眞由美に矢神は、ただただ放心状態だ。
「どうしたの、あーや?」
「……ああ、今、着替えてくる」
何がどうなっているのか、首を傾げながら部屋で着替えていれば、遠野がひょっこり顔を出した。
「矢神さん」
「おい、遠野、どうなってんだ。どうしてあいつが家にいるんだよ」
向こうにいる彼女に聞かれないように、なるべく声のトーンを押さえたつもりだった。だが、このわけのわからない状況に困惑して、思わず遠野に詰め寄っていた。
残業している矢神に手を振り、帰って行った遠野。
帰路の途中でそんなことを思い出した矢神は、つい頬を綻ばせそうになって、慌てて口元に手を当てた。
今朝、たまたま目にした五目ちらしのCMに、「すげえ、美味そう」と反応した矢神のことを遠野は覚えていたのだろう。矢神に対する彼の観察力は、相当なものだ。矢神が喜ぶようなことを全て叶えてあげたいという気持ちが重々に伝わってくる。
特に食事に関しては、矢神の好みに合わせているのか、満足しすぎて、外食しようとさえ思わないくらいだ。だから、仕事が終われば、遠野の作る夕食を楽しみに真っ直ぐ帰宅する。こんな風に、毎日、真面目なプライベートを過ごしていた。
「ただいま」
家に着いて玄関の扉を開けると、飼い主の帰りを今か今かと待っていた尻尾を振る犬のように、遠野が駆け足で迎えてくれる。騒がしい奴だが、最近では、それがあたりまえになっていて、遠野よりも先に帰宅する時には、物足りないと感じてしまう。
だけど、この日はいつもと違った。
玄関には、なぜか女物の靴、黒いハイヒールが置いてあって、胸騒ぎを覚えた。
「おかえり、あーや」
靴を脱いでいれば、頭上から女性の声がした。案の定、矢神を迎えてくれたのは遠野ではなく、眞由美だった。
「……なんで」
彼女の顔を確認して呆然としていれば、眞由美の後ろから遠野も声をかけてきた。
「おかえりなさい、矢神さん」
「あーや、帰ってくるの遅いよ。ピザ買ってきたのに、冷めちゃうじゃない」
眞由美は早く部屋に上がれと言わんばかりに、矢神の腕を引っ張った。
「え、なに? ピザ?」
状況がいまいち把握できず、混乱しているうちに、ダイニングルームに連れて行かれる。
テーブルの上には、何本かの缶ビールと一緒に、大きなピザが二枚、それと一緒に、グリーンサラダ、フライドポテトが皿いっぱい山盛りになっていた。
「お腹空いちゃった。早く食べよう」
急かす眞由美に矢神は、ただただ放心状態だ。
「どうしたの、あーや?」
「……ああ、今、着替えてくる」
何がどうなっているのか、首を傾げながら部屋で着替えていれば、遠野がひょっこり顔を出した。
「矢神さん」
「おい、遠野、どうなってんだ。どうしてあいつが家にいるんだよ」
向こうにいる彼女に聞かれないように、なるべく声のトーンを押さえたつもりだった。だが、このわけのわからない状況に困惑して、思わず遠野に詰め寄っていた。
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