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第三章
05.嵐の襲来 ③
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「そんなことより、話ってなんだ?」
さっさと終わらせて帰ってもらいたかった。心の中がざわざわと蠢いていて気持ち悪い。
「うん、話ね」
眞由美は話をする気がないのか、人の部屋を勝手に見て周り、矢神と向き合おうとしない。
「オレも疲れてるんだ。話がないなら帰ってくれないか」
少しきつい言い方をした。そうしないと彼女に流されてしまいそうだった。
眞由美のことは何とも思っていない。そう自分に言い聞かせるように、わざと辛くあたる。
「なあ、いい加減にしろよ」
「ねえ、あーや、これって」
背を向けていた彼女が不意にこちらを振り返った。手には何かを持っている。小さな黒いケースのようなもの。
自分の部屋になかったものだ。そう記憶していたから、その時は眞由美が持ってきたものだと思った。
随分前のこと。それが何なのか、矢神が思い出すまでに時間がかかったのだ。
「あっ」
気づいた時には遅かった。彼女の手から取り返す前に、ケースを開けられてしまっていた。
「わぁ、やっぱり指輪! ダイヤ大きいよ、ねえ、これ誰に渡すの」
ケースの中を確認した彼女は、顔を真っ赤にして興奮状態だ。
「関係ないだろ、返してくれ」
指輪の入ったケースを取り返そうと手を伸ばすが、彼女は胸に抱くようにしてケースを両手で包んだ。
矢神は自分に腹が立っていた。プロポーズする機会を失い、婚約指輪も必要がなくなってしまった。それなのに指輪を捨てるに捨てられずいたのだ。そのせいで、よりにもよって渡す相手だった彼女に見られ、今、屈辱を味わっている。
「もしかして、私にプロポーズするつもりだった?」
「もう昔の話だ、返せ」
「私、あーやとやり直したい」
突拍子もないことを言うので、思わず声を荒げていた。
「オレをバカにしてるのか!」
だが、彼女は全く動じない。
「あーやと別れてわかったの。私に本当に必要な人はあーやだって。一番大切な人だって」
「嘉村と別れたからだろ」
「違う、嘉村さんには私から別れようって言ったの。あーやのことが大好きだって気づいたから」
「今さら、何言ってんだ」
「答えはすぐ出さないで。私、頑張るから。あーやと釣り合うような女になるから、ね?」
「だから、オレは」
矢神が自分の意見を言おうとしていたのに、彼女はこちらに手のひらを見せて制止させる。
「待って! もうこんな時間じゃない。私、帰らないと」
腕時計を確認した眞由美は、急に慌てだす。
「おい、帰るって……話っていったいなんだったんだよ」
「言ったじゃない。あーやとやり直したいって。それを言いに来たの。これ、時期が来るまで預かってて」
指輪のケースを突き返され、眞由美は部屋を出て急いで玄関に向かう。ちょうど鉢合わせした遠野に、「おじゃましました」と挨拶をして靴を履いた。
「帰るんですか? 夕食、準備してたんですよ」
遠野が余計なことを言うのでひやひやしたが、彼女は本当に急いでいるようだ。
「ありがとうございます。これから予定があるので、ごめんなさい」
帰ってくれることに一安心していたところに、彼女がとびっきりの笑顔を浮かべて矢神の方を向き直ったので不安で押しつぶされそうになる。
「あーや、また来るね」
それに対して答える間もなく、眞由美はドアを開けて去って行った。
これっきりにするつもりだったのに、相手はそうではないようだ。彼女の言動にため息すら出ない。
勝手に決めて事を進めていく。眞由美はそういう女だったと思い出す。
付き合っていた頃はそんなところも頼もしいと感じていたが、今となっては厄介なものでしかなかった。
さっさと終わらせて帰ってもらいたかった。心の中がざわざわと蠢いていて気持ち悪い。
「うん、話ね」
眞由美は話をする気がないのか、人の部屋を勝手に見て周り、矢神と向き合おうとしない。
「オレも疲れてるんだ。話がないなら帰ってくれないか」
少しきつい言い方をした。そうしないと彼女に流されてしまいそうだった。
眞由美のことは何とも思っていない。そう自分に言い聞かせるように、わざと辛くあたる。
「なあ、いい加減にしろよ」
「ねえ、あーや、これって」
背を向けていた彼女が不意にこちらを振り返った。手には何かを持っている。小さな黒いケースのようなもの。
自分の部屋になかったものだ。そう記憶していたから、その時は眞由美が持ってきたものだと思った。
随分前のこと。それが何なのか、矢神が思い出すまでに時間がかかったのだ。
「あっ」
気づいた時には遅かった。彼女の手から取り返す前に、ケースを開けられてしまっていた。
「わぁ、やっぱり指輪! ダイヤ大きいよ、ねえ、これ誰に渡すの」
ケースの中を確認した彼女は、顔を真っ赤にして興奮状態だ。
「関係ないだろ、返してくれ」
指輪の入ったケースを取り返そうと手を伸ばすが、彼女は胸に抱くようにしてケースを両手で包んだ。
矢神は自分に腹が立っていた。プロポーズする機会を失い、婚約指輪も必要がなくなってしまった。それなのに指輪を捨てるに捨てられずいたのだ。そのせいで、よりにもよって渡す相手だった彼女に見られ、今、屈辱を味わっている。
「もしかして、私にプロポーズするつもりだった?」
「もう昔の話だ、返せ」
「私、あーやとやり直したい」
突拍子もないことを言うので、思わず声を荒げていた。
「オレをバカにしてるのか!」
だが、彼女は全く動じない。
「あーやと別れてわかったの。私に本当に必要な人はあーやだって。一番大切な人だって」
「嘉村と別れたからだろ」
「違う、嘉村さんには私から別れようって言ったの。あーやのことが大好きだって気づいたから」
「今さら、何言ってんだ」
「答えはすぐ出さないで。私、頑張るから。あーやと釣り合うような女になるから、ね?」
「だから、オレは」
矢神が自分の意見を言おうとしていたのに、彼女はこちらに手のひらを見せて制止させる。
「待って! もうこんな時間じゃない。私、帰らないと」
腕時計を確認した眞由美は、急に慌てだす。
「おい、帰るって……話っていったいなんだったんだよ」
「言ったじゃない。あーやとやり直したいって。それを言いに来たの。これ、時期が来るまで預かってて」
指輪のケースを突き返され、眞由美は部屋を出て急いで玄関に向かう。ちょうど鉢合わせした遠野に、「おじゃましました」と挨拶をして靴を履いた。
「帰るんですか? 夕食、準備してたんですよ」
遠野が余計なことを言うのでひやひやしたが、彼女は本当に急いでいるようだ。
「ありがとうございます。これから予定があるので、ごめんなさい」
帰ってくれることに一安心していたところに、彼女がとびっきりの笑顔を浮かべて矢神の方を向き直ったので不安で押しつぶされそうになる。
「あーや、また来るね」
それに対して答える間もなく、眞由美はドアを開けて去って行った。
これっきりにするつもりだったのに、相手はそうではないようだ。彼女の言動にため息すら出ない。
勝手に決めて事を進めていく。眞由美はそういう女だったと思い出す。
付き合っていた頃はそんなところも頼もしいと感じていたが、今となっては厄介なものでしかなかった。
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