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第二章

12.後輩の温かさに癒される ②

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 しばらくの間、矢神は布団をかけても寒くて寝られずにいた。だが、どのくらい時間が過ぎたのだろうのか。いつの間にか眠りに落ちていたようだった。遠野の呼ぶ声で目が覚める。

「矢神さん、できましたよ」

 器を乗せたお盆を持っていた遠野は、優しい眼差しでこちらを見つめていた。

「……うん」

 身体を起こすと、熱のせいなのか身体の節々が痛かった。思わず顔をしかめれば、すぐに遠野が反応する。

「どこか痛いんですか?」
「大丈夫だって……」
「何かあったら言ってくださいね。オレ、すぐ病院に連れて行きますから」
「大げさだな、子どもじゃないんだから」

 呆れるように言えば、遠野が口元を緩めて笑う。

「子どもですよ。熱測りたくないとか、わがまま言って」
「……おまえ、今日は生意気だな」
「矢神さんが熱を軽く見てるから、ちょっと腹が立ったんです。もっと自分の身体を大切にしてください」
「わかったよ……」

 いつもとは反対で、矢神が遠野に説教されるという状態だ。正当な意見だから、矢神も言い返せない。あまり深く考えていないような遠野が、そんなことを言い出すとは思わなかったから、半ば驚いていた。

「ご飯食べて、早く元気になってください」

 遠野はお盆をサイドテーブルに置いた後、椅子をベッドに近づけてきた。そして、お粥を盛った器を矢神に渡すかと思いきや、そのまま椅子に座ったのだ。スプーンでお粥をすくい、ふうふうと冷ますように息を吹きかけている。矢神は嫌な予感がした。

「遠野……」

 言葉を続ける前に、遠野がそのスプーンを矢神の口元に持って行く。

「はい、あーん」
「おまえ、これがやりたかっただけだろ」
「ダメですか?」
「ダメだよ、バカ」
「えー、いいじゃないですか、一口くらい。憧れてたのに」

 予想通りの馬鹿げた行動。普段なら軽く受け流していたかもしれない。だが、体調が悪いせいか、すぐに頭に血が上ってしまった。

「だから、浮かれてたんだな。もういい、あっち行け! オレに構うな!」

 またベッドに潜り込もうとすれば、遠野が慌てふためく。

「わわっ、ごめんなさい。お粥だけは食べてください、矢神さーん」
「おまえの趣味に付き合ってられるか!」
「許してください。『あーん』は、もうしませんから、食べてください。矢神さん、ごめんなさい」

 遠野は、本当に悪かったというように何度も謝ってきた。
 面倒だから、そのまま無視を決め込んでいたかった。しかし、理由がどうであれ、具合いの悪い矢神のために遠野はお粥を作ってくれたのだ。落ち込んだような声を聞いているうちに、食べない自分の方が悪者だと感じた。矢神はゆっくりと起き上がる。

「もったいないから、お粥は食べてやる。食ったら寝るぞ」
「はい」

 はしゃぐような声で返事をした遠野から、お粥が入った器を受け取った。

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