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第二章

06.狂気の欲望 ①

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 それから楢崎は、学校に来なくなった。以前と同じ、無断欠席だ。あの日、様子がおかしかったのと関係しているのだろうか。

 心配ではあったが、正直なところ矢神は楢崎が欠席してくれてホッとする。
 いつまた彼に責められるかもしれないその状況に苦痛を感じていた。朝、学校に行くのが困難なほどに。
 だから、彼の姿が目に入らないだけで矢神は救われたのだ。

 しかし、そんな心境もすぐに変わることになる。

「楢崎、また無断欠席してますね。やっぱり、矢神先生でもダメでしたか」
「榊原先生でも手を焼いてましたからね」

 他の先生たちから嘲るように笑われ、それが癇に障った。矢神は仕事に対してプライドが高く、負けず嫌いだ。
 全て完璧にできるとは思ってはいないが、楢崎が学校に来ないのは不本意ではない。受け持ったクラスの生徒を学校に来させて全員卒業させる。それが目標だった。日向のように辛い思いをする生徒がこれ以上増えないように。

 矢神はできるだけのことをやろうと、楢崎の自宅に電話をかけてみることにした。だが何度かけても留守電になるばかり。
 一度、楢崎の両親とも話をした方がいいかもしれない。

 そう思った矢神は、楢崎の自宅を訪ねることを決める。
 早くに仕事を切り上げて、住所を頼りに楢崎の自宅に行ってみた。迷うことなくすぐに辿り着いたが、そこで思わず息を呑む。庭が広い、豪邸とも言える大きな一軒家だったからだ。表札に楢崎と書かれているからここで間違いないのだろう。

 小さく息をついて気合いを入れ直し、震える指でインターホンを押した。
 しばらくしても応答がなかったから、もう一度インターホンを押そうとしたら、ガチャっと音がして「はい」と向こうが返事をする。矢神は慌てて答えた。

「圭太くんのクラス担任をしております、矢神と申します」

 緊張のせいか、高めの声が出てしまった。

「どうぞ」

 相手はそれだけ言って、ぶつりとインターホンが切れた。
 恐る恐る門をくぐり、広い庭を通って玄関まで進んだ。背筋を伸ばし、深呼吸をして身構える。すると、玄関のドアがゆっくりと開いた。そこに立っていたのは楢崎本人だった。

「……先生」

 彼は眼鏡を直しながら困ったような顔して、すぐに俯いた。

「話がしたかったんだけど、ご両親は?」
「仕事で、帰りは遅いです」
「そうか」
「せっかくだから入ってください、先生」

 楢崎の言葉に矢神は頷き、家の中に入った。
 そこでも息を呑むような代物がたくさん置いてあって目を奪われた。

 高級そうな家具や置物、絵画など矢神には縁遠そうなものばかりだ。つい落ち着きなく、辺りをきょろきょろと見回してしまった。

 矢神は、楢崎の部屋に案内された。
 8畳くらいの一室にベッドと机、その上にノートパソコンが置いてあるくらいだ。他の場所と比べて彼の部屋は物が少なく、殺風景で寂しい感じがした。
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