37 / 150
第一章
36.隣で食べる手作り弁当 ①
しおりを挟む
「矢神先生、彼女の手作り弁当ですか? 羨ましいですね」
昼休み、矢神の席を横切る先生たちが、机の上の弁当箱を見てはニヤニヤと口を揃えて同じことを言う。
その度に矢神は愛想笑いを浮かべた。
本当に彼女の手作り弁当なら、まだ堂々としていられるのだが、そうではないから困ってしまう。だからと言って、わざわざ正直に遠野が作ったとも言いにくい。
未だ開けてはいない弁当箱を見つめ、矢神は重い息を吐いた。
付き合っていた彼女にでさえ作ってもらったことのない手作り弁当が今、目の前にある。有難いことだが、遠野の気持ちを考えると手をつけられずにいた。手をつけてしまえば、気持ちを受け入れたことになるような気がして躊躇する。
受け取ってしまった以上食べないわけにもいかない。その方が遠野を傷つけてしまう。
ぐるぐると頭を巡らせるが、答えは出ない。あまり深く考えない方がいいのかもしれない。
そう思いなおした矢神は、弁当箱を包んでいる布を解いた。予想はしていたが、弁当箱もマカロン柄だった。
ちょうどその時、授業を終えた遠野が職員室に入ってくる。ばっちり目が合ってしまった。
「お疲れ様です。ああ、お腹空いたー、お弁当、お弁当」
かなりご機嫌な様子で自分の席に着いたと思ったら、なぜか弁当箱と椅子を持って矢神の席にやってくる。
「遠野先生……なにしてるんですか……?」
思わぬ行動に呆気に取られ、ぼうっと遠野の様子を見つめた。詰めてくださいと言わんばかりに、矢神の隣に椅子を並べる。
「お弁当食べるんですよ」
「それはわかるんですけど、何でオレのところに……」
「だって、オレの席を見てください」
指差した遠野の机の上は、見事に書類が山になっていてスペースがない。
「……だから?」
「だから、矢神先生のところで食べるんです」
理由になっていない答えに怒りが沸く。
「片付けて、自分のところで食べろ!」
「オレ、片付けとか掃除は苦手なんですよね。だから整理しているうちにお昼終わっちゃいそうで。それに一緒に食べた方が楽しいですよ」
「楽しくねーよ!」
苛々している矢神とは正反対に、遠野は楽しそうにしながら矢神の机の上で弁当を広げる。まるで聞いてない様子だ。こんなことで言い合いをしていても、遠野の言うように本当に昼休みが終わってしまう。
納得がいかなかったが、諦めて弁当を食べることにした。
昼休み、矢神の席を横切る先生たちが、机の上の弁当箱を見てはニヤニヤと口を揃えて同じことを言う。
その度に矢神は愛想笑いを浮かべた。
本当に彼女の手作り弁当なら、まだ堂々としていられるのだが、そうではないから困ってしまう。だからと言って、わざわざ正直に遠野が作ったとも言いにくい。
未だ開けてはいない弁当箱を見つめ、矢神は重い息を吐いた。
付き合っていた彼女にでさえ作ってもらったことのない手作り弁当が今、目の前にある。有難いことだが、遠野の気持ちを考えると手をつけられずにいた。手をつけてしまえば、気持ちを受け入れたことになるような気がして躊躇する。
受け取ってしまった以上食べないわけにもいかない。その方が遠野を傷つけてしまう。
ぐるぐると頭を巡らせるが、答えは出ない。あまり深く考えない方がいいのかもしれない。
そう思いなおした矢神は、弁当箱を包んでいる布を解いた。予想はしていたが、弁当箱もマカロン柄だった。
ちょうどその時、授業を終えた遠野が職員室に入ってくる。ばっちり目が合ってしまった。
「お疲れ様です。ああ、お腹空いたー、お弁当、お弁当」
かなりご機嫌な様子で自分の席に着いたと思ったら、なぜか弁当箱と椅子を持って矢神の席にやってくる。
「遠野先生……なにしてるんですか……?」
思わぬ行動に呆気に取られ、ぼうっと遠野の様子を見つめた。詰めてくださいと言わんばかりに、矢神の隣に椅子を並べる。
「お弁当食べるんですよ」
「それはわかるんですけど、何でオレのところに……」
「だって、オレの席を見てください」
指差した遠野の机の上は、見事に書類が山になっていてスペースがない。
「……だから?」
「だから、矢神先生のところで食べるんです」
理由になっていない答えに怒りが沸く。
「片付けて、自分のところで食べろ!」
「オレ、片付けとか掃除は苦手なんですよね。だから整理しているうちにお昼終わっちゃいそうで。それに一緒に食べた方が楽しいですよ」
「楽しくねーよ!」
苛々している矢神とは正反対に、遠野は楽しそうにしながら矢神の机の上で弁当を広げる。まるで聞いてない様子だ。こんなことで言い合いをしていても、遠野の言うように本当に昼休みが終わってしまう。
納得がいかなかったが、諦めて弁当を食べることにした。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる