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第一章
12.忘れえぬ出来事と意外な告白 ①
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「久しぶりですよね」
学校を出て街の方に向かって歩いていれば、遠野が弾む様な声を出した。
「何が?」
「こうやってご飯食べに行くことですよ。前は嘉村先生と三人でよく行ってたのに」
嘉村の名前が出た途端、胸の奥がちくりと痛むのを感じた。
校内では気にしなくなったのだが、プライベートの時間になると気持ちが変わるようだ。
その話を続けたくなかった矢神は、さり気なく違う話題に持っていくことにする。
「で、何が食べたいんだ?」
「え? オレの好みでいいんですか?」
「オレは何でもいいから、遠野が行きたいところでいいよ」
遠野はひどく喜んでいるようだったが、たいして店を知っているわけではなかったから、考えるのが面倒でそう言ったのだ。
いつも三人で行く時は、ほとんど嘉村が決めていたのである。
「じゃあ、ずっと行きたかったところがあるんです。いいですか?」
「どこ?」
「ちょっと場所は離れてるんですが、屋台のラーメン屋があるんです」
想像していなかった単語が出てきて、思わず聞き返してしまう。
「屋台? ラーメン屋?」
「嫌いですか? ラーメン」
「好きだけど……」
「穴場で人気の店らしいんですよ。なかなか行く機会がなくて」
矢神は、遠野の顔を見据えた。
この日本人離れした整った顔で、まさか『屋台のラーメン屋』という言葉が出てくるとは誰も思わないだろう。
「どうしました?」
「いや……遠野と屋台がどうにも結びつかなくて……」
「え!? どうしてですか?」
まるで意味がわからないというように、遠野はオーバーアクションで驚く。
鏡を渡して、自分の顔を見ろよと矢神は言いたくなった。
遠野は更に続けた。
「嘉村先生は、いつもおしゃれなお店に連れてってくれますよね。ああいう落ち着いた場所って嫌いじゃないんですけど、オレには合わなくて」
一番似合っている人物がそんなことを言うので、さすがに溜め息が漏れた。
「おまえ……変わってるって言われないか?」
「はい、よく言われます」
けろっとして言う遠野に呆れるしかなかった。
「遠野って、自分のことあんまりわかってないだろ」
「そうですかね」
「充分おしゃれな店が似合うと思うけど。女性とか連れて行ってもしっくりくるだろ?」
矢神の発言に首を傾げて考えている様子だったが、その後すぐに何かを思い出したかのように笑う。
「こういう性格だから、静かなお店に行ってもオレ自身がうるさいと思うんですよね」
「ああ、確かに」
もっともらしいことを言うものだから、矢神の口から思わず本音が零れ出た。
「うわあ、ひどいですね、矢神先生」
「自分で言ったんだろうが!」
「そうですね」
口で言うほど堪えてないらしく、顔は笑ったままだ。
遠野は矢神の半歩後ろをずっと歩いている。足の長さは確実に遠野の方が長いはずなのに、歩くのが早いだろうかと矢神は心配になった。
更に、場所もわからないのに何気なく歩いていたから、街から少し外れた裏通りに来ていたことに気づく。
遠野が行きたい場所なのだから、先を歩けばいいのにと思いつつ、遠野の方を振り返った。
「なあ、その屋台ってこっちの方角でいいのか?」
ちょうどその時、見たことのある姿が視界に入ってきた。
一瞬身体が固まり、呼吸の仕方を忘れたかのように息ができなくなった。
学校を出て街の方に向かって歩いていれば、遠野が弾む様な声を出した。
「何が?」
「こうやってご飯食べに行くことですよ。前は嘉村先生と三人でよく行ってたのに」
嘉村の名前が出た途端、胸の奥がちくりと痛むのを感じた。
校内では気にしなくなったのだが、プライベートの時間になると気持ちが変わるようだ。
その話を続けたくなかった矢神は、さり気なく違う話題に持っていくことにする。
「で、何が食べたいんだ?」
「え? オレの好みでいいんですか?」
「オレは何でもいいから、遠野が行きたいところでいいよ」
遠野はひどく喜んでいるようだったが、たいして店を知っているわけではなかったから、考えるのが面倒でそう言ったのだ。
いつも三人で行く時は、ほとんど嘉村が決めていたのである。
「じゃあ、ずっと行きたかったところがあるんです。いいですか?」
「どこ?」
「ちょっと場所は離れてるんですが、屋台のラーメン屋があるんです」
想像していなかった単語が出てきて、思わず聞き返してしまう。
「屋台? ラーメン屋?」
「嫌いですか? ラーメン」
「好きだけど……」
「穴場で人気の店らしいんですよ。なかなか行く機会がなくて」
矢神は、遠野の顔を見据えた。
この日本人離れした整った顔で、まさか『屋台のラーメン屋』という言葉が出てくるとは誰も思わないだろう。
「どうしました?」
「いや……遠野と屋台がどうにも結びつかなくて……」
「え!? どうしてですか?」
まるで意味がわからないというように、遠野はオーバーアクションで驚く。
鏡を渡して、自分の顔を見ろよと矢神は言いたくなった。
遠野は更に続けた。
「嘉村先生は、いつもおしゃれなお店に連れてってくれますよね。ああいう落ち着いた場所って嫌いじゃないんですけど、オレには合わなくて」
一番似合っている人物がそんなことを言うので、さすがに溜め息が漏れた。
「おまえ……変わってるって言われないか?」
「はい、よく言われます」
けろっとして言う遠野に呆れるしかなかった。
「遠野って、自分のことあんまりわかってないだろ」
「そうですかね」
「充分おしゃれな店が似合うと思うけど。女性とか連れて行ってもしっくりくるだろ?」
矢神の発言に首を傾げて考えている様子だったが、その後すぐに何かを思い出したかのように笑う。
「こういう性格だから、静かなお店に行ってもオレ自身がうるさいと思うんですよね」
「ああ、確かに」
もっともらしいことを言うものだから、矢神の口から思わず本音が零れ出た。
「うわあ、ひどいですね、矢神先生」
「自分で言ったんだろうが!」
「そうですね」
口で言うほど堪えてないらしく、顔は笑ったままだ。
遠野は矢神の半歩後ろをずっと歩いている。足の長さは確実に遠野の方が長いはずなのに、歩くのが早いだろうかと矢神は心配になった。
更に、場所もわからないのに何気なく歩いていたから、街から少し外れた裏通りに来ていたことに気づく。
遠野が行きたい場所なのだから、先を歩けばいいのにと思いつつ、遠野の方を振り返った。
「なあ、その屋台ってこっちの方角でいいのか?」
ちょうどその時、見たことのある姿が視界に入ってきた。
一瞬身体が固まり、呼吸の仕方を忘れたかのように息ができなくなった。
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