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11、これから

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 セリアは頭を抱えていた。
 
 場所はと言えば、ケネスの屋敷の居間だ。
 その長椅子に腰をかければ、これからの試練に対しうめき声を上げることになっていた。

「……うわー、緊張するー」

 隣にはケネスが立っている。
 彼は腕組みでセリアを見下ろしてきた。

「ふーむ。意外と言うか、お前でもこういうのは緊張するんだな」

 その呑気な感想に、セリアは思わず声を上げる。

「す、するに決まってますよ! 夜会ですよ、夜会! しかも……っ!」

「俺との婚約を披露する場でもある……か?」

 その通りだった。

 セリアは青い顔で頷くことになる。

 今日はその日だったのだ。
 貴族社会に対して、セリアとケネスの婚約を公にする機会だった。

 ケネスは「そうだな」と納得を見せてきた。

「まぁ、緊張もするか。なにせ俺との婚約を発表するわけだ。俺は何分、敵が多い。お前への風当たりは、心地よいとは間違っても言えないものになるだろう」

 ケネスの評判はセリアも知るところだ。
 おそらくは彼の推測する通りになることだろうが……セリアは「へ?」と目を首をかしげることになった。

「あの、別にそこは……ですよ?」

「は? そこは……なのか?」

「はい。別に、敵意なんて慣れっこですし。私も、投資関係で色々ありましたから」

 実利の世界で戦っていれば色々とあったのだ。
 妬み嫉みは当たり前。
 競合相手からの敵対行為なども、また当然のことだった。

 ケネスは「ほお」と感心を呟いてくる。

「さすがは俺の奥方殿だ。しかし、なんだ? だったら何を緊張する必要がある?」

「だ、だから、夜会なんですよ! その辺りが苦手なことはケネス様もご存知ですよね?」

「そう言えば、学院時代からそういう場には出てこなかったな」

 セリアは頷いて、再び頭を抱えることになる。

「ああいう場は苦手ですし、ケネス様に恥をかかせるわけにもいかないし……あの、何回までは良かったのでしたっけ?」

 質問の意図は伝わっていないらしい。
 ケネスは首をかしげてくる。

「何回? お前は一体何の話をしているんだ?」

「夜会ですから。舞踏をしなければならない場面もありますよね?」

「それはあるだろうが、ん?」

「いえ、ですから舞踏ですよ? 足を踏みますよね? それは何回までなら許されるものなのかと」

 まだ質問の意図が伝わっていないのかどうなのか。
 ケネスの首の傾きはさらにキツくなる。

「……すまん。お前が何を言っているのかさっぱり理解出来んが、あー、そういうものなのか? 寡聞かぶんにして知らなかったが、何回までならとかそういう話があるのか?」

「え、ないんですか? そういうものだと思っていたのですが。みなさん、踏みますよね? 普通は踏んでますよね?」

「……ふーむ」

 ケネスは不思議な反応を見せてきた。
 何度も頷きをした上で、ポンとセリアの肩に手を置いてきた。

「え、えーと、いきなりなんでしょうか?」

「理解した。諦めろ。お前には無理だ」

「な、なんですかそれは!? 一体何が無理だって言うんですか!?」

「恥をかかずにすむのは無理だ。甘んじて受け入れろ」

「い、嫌ですよっ! 私はユーガルド公爵夫人になるのですからっ! これぐらいは、はい。やってみせますとも!」

 これから何度夜会に出るのか分からないのだ。
 ケネスとユーガルド家の名誉のためにも、気張らないわけにはいかなかった。

 ただ、ケネスだ。
 変わらずの呆れの表情で見下ろしてくる。

「気負われるほどに俺の足の無事が心配になるな。とにかく、まぁ、気にするな。俺はまったく気にしてないからな」

「そ、そうですか? いえ、でも……」

「だから、気にするな。お前の魅力は、社交界での上っつらなんぞには無い。俺は分かっている。周囲もすぐに分かる。俺の惚れた女というのはそういうヤツだからな」

 不意に湧き上がってくるものがあった。
 それはもちろん喜びの感情だ。
 セリアは笑みでケネスを見上げる。

「なんと言いますか……私の惚れた旦那様らしい物言いですね」

「惚れ直したか?」

「ふふふ、はい。ですから任せて下さい! なんとかこう、足を踏むのはえーと、二桁です! 二桁で収めてみせますから!」

「せめて両手の指で足りるぐらいに収めてもらいたいものだが……まぁ」

 時間だということらしい。
 ケネスが手を差し伸べてくる。
 
 いよいよ、この人との一生が始まるのだろう。
 そんな予感がすれば、自然と笑みは深まる。
 きっと困難も多いに違いなかった。
 ただ、それに挑むことも、彼と一緒であれば喜びでしかない。

 セリアは指を絡めるようにしてケネスの手を取った。
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みんなの感想(20件)

セリ
2021.09.25 セリ

両親、同居なのに何故、借金返済に奔走してたのが姉か、妹かが分からない?
ま、子供に借金の返済任せてる時点で馬鹿だろうけど、 姉の婚約者取った妹の意見しか聞かないなんて親辞めろ!追い出したから辞めたんだよねw

甘海そら
2021.09.25 甘海そら

感想ありがとうございます!

知っていたはずなのですが、貴族としてのプライドを満たしてくれていたのはセリアよりも妹だったからという酷い感じです。妹の方が好感度は高かったということで。
もちろん両親失格ですし、セリアも心配以上のことはもはや出来ない感じです。

解除
かなみん
2021.09.20 かなみん

借金があったこと、それを返済し終えたばかりであることは愚かな妹は理解出来ていますか?
もしそうなら豪遊する金がないことくらいわかっていると思うのですが…
あとからあとからお金なんてくるだろって思っていたってこと?笑笑
じゃあなんで借金してたねん
めちゃくちゃ妹の愚かさが面白いです

甘海そら
2021.09.21 甘海そら

感想ありがとうございます!
セリアも両親も甘やかしていたとか、そんな感じでしょうか。
それでも気づけたのに気づけなかったのは当人の素養によるものですが。

解除
少女ハイジ
2021.09.19 少女ハイジ

セリア、家を追い出されたのに、金庫の金が無くなったと親が来たらどうしてついて行こうとしたのか、全く理解できなかったよ。

甘海そら
2021.09.21 甘海そら

感想ありがとうございます!
えーと、セリアは両親のことを憎しみきれず、やはり両親として心配するところがあったから……と、返答としては合っているでしょうか。
多分、私の描写不足が原因かと思います。
申し訳ないです。

解除

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