上 下
10 / 11

10、告白

しおりを挟む
「……なんと言うか、小物を絵に書いたよう2人だったな。いっそお似合いか?」

 そんなとぼけた呟きに反応している余裕は無かった。

「か、閣下っ!!」

 立ち上がって叫ぶことになる。
 ケネスは「ん?」と首をかしげてきた。

「なんだその叫びは? どうにも俺を責める意図のようなものを感じるが」

「そりゃそうですっ!! あ、あのですね、冗談は冗談だと通じる状況でしていただかなければ困りますっ!! あの2人が広めてしまったらどうするのですかっ!!」

「なにか問題でもあるか?」

 「無いはずがありませんっ!! 妙な女を連れ込んでいるとして、閣下の名声に傷がつくことがあれば……っ!!」

 だからこそ、必死の表情にならざるを得なかった。

 嬉しかったのだ。
 自分を使い潰そうとしたあの2人から、ケネスは自分を守ってくれた。
 そんな彼が、自分のせいでその名誉を傷つけられるかもしれない。
 そう思うと、叫ばざるを得なかった。

 だが、自身の懸念を理解してもらっているのかどうか。
 ケネスは何故か、嬉しそうに笑みを浮かべた。

「ふむ、そうか。別に、俺の妻だと公言されて怒っているわけじゃないわけだな?」

「か、閣下っ!!」

 ふざけている場合じゃなければ、再び叫ぶことになる。
 ケネスの名誉のためにも、何かしらの対策を考える必要があるのだ。
 セリアは親指の爪をかみつつ思案に入る。
 
「ど、どうしましょう。今すぐに私がどこかに去れば……あ、でも、悪意をもって広める輩がいればその程度じゃ……」

「ふーむ。またお前は真面目だな?」

「あ、当たり前です! 閣下のことなんですから!」

「そうか。嬉しい気づかいだな。では、そういう理解では良いのか?」

「は、はい?」

「お前は俺のことが嫌いではないと、そういうことだ」

 だから、ふざけないで下さい。
 そう怒鳴ろうと思った。
 だが、口を開きかけてセリアは声にすることは出来なかった。

 ケネスの目だ。
 そこにはいつもの飄々とした光は無かった。
 あるいは緊張しているのかも知れない。
 茶色の瞳には、静謐な光が揺れている。

「……閣下?」

 ケネスは不思議な苦笑を浮かべてきた。

「俺は、あまり緊張出来ないタチであるはずだったんだがな。やれやれだ。喉は乾くし、胃が痛む。セリア」

「は、はい」

「結婚してくれ。俺にはお前が必要だ」

 冗談でも何でも無い。

 それが理解出来た。
 そして、出来てしまったからこそ、セリアは思わず後ずさった。

「な、なな、何をおっしゃっているんですか!?」

 叫び声を上げることにもなる。
 混乱の結果だった。
 何故、ユーガルド公爵が自分などに結婚を申し出てきているのか?
 それも何故、掛け値なしの本気の態度なのか?
 
 まるで理解出来なかったのだ。
 あるいは、本気など自分の勘違いに過ぎないのではないか?
 そう思ってケネスの顔を見つめるが、そこには相変わらず冗談の雰囲気は無い。

「何をも何も無い。お前を妻に迎えたい。返事をしてくれ」

「え、えぇ? つ、妻? 私? お、おかしいですよ! そんな私が……み、身分だって、容姿だって、性格だって! 私より閣下にふさわしい女性はいくらでも……っ!!」

 いるはずだった。
 だが、ケネスは静かに首を左右にしてくる。

「いない。お前に婚約者がいるなら仕方ないと、期待して探してはみたがな。少なくとも俺にとってはだ。お前より優れた女など1人もいなかった」

「……そ、そんな、えーと」

「もう一度言うぞ。結婚してくれ。返事は待った方がいいか?」

 問われても困るセリアだった。
 頭が真っ白に近ければ、五感の感覚も頼りない。

(な、なにこれ?)

 現実とはとても思えなかった。
 ただ、1つ理解出来ていることはあった。
 自身についてだ。
 嬉しい、と。
 そう素直に思えてしまっていることだ。

 分不相応ではあった。
 これが原因で、ケネスに迷惑をかけてしまう恐れはあった。

 だが、気がつけばだ。
 セリアは頷きを見せていた。

「わ……私でよろしければ」

 そして、これが返答となった。

 ケネスは軽く目を閉じて、大きく息をついた。
 
「……そうか。では、セリア? 俺はお前を抱きしめてもいいんだな?」

 へ? とはなったが、今さら首を横に振ることなどありえない。
 戸惑いながらに頷く。
 すると、ケネスは静かに近づいてくれば、慎重にセリアの背中に腕を回してきた。
 まるで大切な宝物でも扱うようなふるまいだった。
 ぎこちなく体を預けつつ、セリアは気がつけば笑みを浮かべていた。

 大切に思ってもらえている。
 それを実感すれば、体から力は自然に抜けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

婚約者の妹が結婚式に乗り込んで来たのですが〜どうやら、私の婚約者は妹と浮気していたようです〜

あーもんど
恋愛
結婚式の途中……誓いのキスをする直前で、見知らぬ女性が会場に乗り込んできた。 そして、その女性は『そこの芋女!さっさと“お兄様”から、離れなさい!ブスのくせにお兄様と結婚しようだなんて、図々しいにも程があるわ!』と私を罵り、 『それに私達は体の相性も抜群なんだから!』とまさかの浮気を暴露! そして、結婚式は中止。婚約ももちろん破談。 ────婚約者様、お覚悟よろしいですね? ※本作はメモの中に眠っていた作品をリメイクしたものです。クオリティは高くありません。 ※第二章から人が死ぬ描写がありますので閲覧注意です。

甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。 そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。 しかしその婚約は、すぐに破談となる。 ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。 メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。 ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。 その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。

「期待外れ」という事で婚約破棄した私に何の用ですか? 「理想の妻(私の妹)」を愛でてくださいな。

百谷シカ
恋愛
「君ならもっとできると思っていたけどな。期待外れだよ」 私はトイファー伯爵令嬢エルミーラ・ヴェールマン。 上記の理由により、婚約者に棄てられた。 「ベリエス様ぁ、もうお会いできないんですかぁ…? ぐすん…」 「ああ、ユリアーナ。君とは離れられない。僕は君と結婚するのさ!」 「本当ですかぁ? 嬉しいです! キャハッ☆彡」 そして双子の妹ユリアーナが、私を蹴落とし、その方の妻になった。 プライドはズタズタ……(笑) ところが、1年後。 未だ跡継ぎの生まれない事に焦った元婚約者で現在義弟が泣きついて来た。 「君の妹はちょっと頭がおかしいんじゃないか? コウノトリを信じてるぞ!」 いえいえ、そういうのが純真無垢な理想の可愛い妻でしたよね? あなたが選んだ相手なので、どうぞ一生、愛でて魂すり減らしてくださいませ。

妹が約束を破ったので、もう借金の肩代わりはやめます

なかの豹吏
恋愛
  「わたしも好きだけど……いいよ、姉さんに譲ってあげる」  双子の妹のステラリアはそう言った。  幼なじみのリオネル、わたしはずっと好きだった。 妹もそうだと思ってたから、この時は本当に嬉しかった。  なのに、王子と婚約したステラリアは、王子妃教育に耐えきれずに家に帰ってきた。 そして、 「やっぱり女は初恋を追うものよね、姉さんはこんな身体だし、わたし、リオネルの妻になるわっ!」  なんて、身勝手な事を言ってきたのだった。 ※この作品は他サイトにも掲載されています。

愚鈍な妹が氷の貴公子を激怒させた結果、破滅しました〜私の浮気をでっち上げて離婚させようとしたみたいですが、失敗に終わったようです〜

あーもんど
恋愛
ジュリア・ロバーツ公爵夫人には王国一の美女と囁かれる美しい妹が居た。 優れた容姿を持つ妹は周りに持て囃されて育った影響か、ワガママな女性に成長した。 おまけに『男好き』とまで来た。 そんな妹と離れ、結婚生活を楽しんでいたジュリアだったが、妹が突然屋敷を訪ねてきて……? 何しに来たのかと思えば、突然ジュリアの浮気をでっち上げきた! 焦るジュリアだったが、夫のニコラスが妹の嘘をあっさり見破り、一件落着! と、思いきや……夫婦の間に溝を作ろうとした妹にニコラスが大激怒! ────「僕とジュリアの仲を引き裂こうとする者は何人たりとも許しはしない」 “氷の貴公子”と呼ばれる夫が激怒した結果、妹は破滅の道を辿ることになりました! ※Hot&人気&恋愛ランキング一位ありがとうございます(2021/05/16 20:29) ※本作のざまぁに主人公は直接関わっていません(?) ※夫のニコラスはヤンデレ気味(?)です

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

処理中です...