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9、望まぬ再会

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 久しぶりというほどに期間は空いていない。

 だが、応接間に招いて再会した2人には大きな変化があった。

(ど、どうしたの、これ?)

 セリアは目を丸くすることになった。

 2人共、見るからにに顔色は良くなかった。 
 あまり寝られてはいないのかもしれない。
 クワイフにしてもヨカにしても、顔が青白ければ目元にはクマが浮かんでいる。

 やはり、だった。
 両親に何かあったのかもしれない。
 セリアは思わず前のめりになる。

「お、お父様やお母様に何か……っ!?」

「セリア! 全ては自業自得であるのに、今回の蛮行は何だ!? お前には恥というものは無いのか!!」

 セリアは目を丸くすることになる。
 荒々しく立ち上がりながらにクワイフだったが、彼は一体何を言っているのか。

「なんだ? 俺が知らない内に復讐にでも打って出たか? ほお、意外とやるな」

 この場には、何があればとケネスも同席してくれていたのだが、妙な感心を向けられることになった。
 もちろんのこと、慌てて首を横に振ることになる。

「ち、違います違います! 職務に専念していれば、まさかそんな……っ!」

 釈明には、クワイフが怒声を返してきた。

「しらばっくれるな!! 気がつけば、金庫は空だった!! ヨカがこれだけがんばっていたのにこれだ!! お前の所業以外に考えられるか!!」

 どうやら窃盗の疑いをかけられているらしい。
 身に覚えなどもちろん無かった。

「な、なんですかその疑いは!? ひどいですよ!! そんなことするわけが無いじゃないですか!!」

 怒りさえ覚えれば、叫び返すことになる。
 だが、クワイフはそれを信じ切っているらしい。
 歯ぎしりしてにらみつけてくる。

「ざ、戯れ言を……っ! どれだけお前の性根は醜いんだっ!! 投資先からの配当も無くなったっ!! これもお前の所業だろっ!! 分かっているんだぞっ!!」

 セリアは怒りを忘れて「へ?」と声を上げる。

「投資先からの配当が? え、なんで? なんでそんなことに?」

「し、白々しいことを……っ!!」

「い、いや、本当に分からないから。何かあったの? 投資先とか、関係する商家と何か問題でも起こした?」

 クワイフは変わらず歯ぎしりを続けていたが、しかし隣のヨカだ。
 彼とはまったく違う反応だった。
 セリアが視線を向ければ、バツが悪そうな表情で顔を反らしてきた。

「……ふーむ。なんとも分かりやすいな」

 ケネスが呟いたが、おそらくそういうことだった。
 ただ、クワイフばかりは、それを理解していないようだ。

「とにかく来てもらうぞっ!! お前の蛮行の償い、必ずしてもらうからなっ!!」

 クワイフが憤怒の表情で迫ってくる。
 セリアは思わずびくりと体をすくませることになった。
 不条理への怒りはあったが、暴力に訴えられるのではと思えば恐怖はどうしようもなかった。

 しかし、セリアの胸中に安堵が広がることになる。
 いつの間にか立ち上がっていたケネスが、クワイフの前に立ちふさがってくれていた。

「まぁ、待て。全てはお前たちの憶測だろうが。いや、分かってて黙っている小娘もいるようだが、とにかくコイツは俺の部下だ。勝手な真似はひかえてもらおうか」

 素直に嬉しかった。
 自分に味方がいると分かれば、安堵の笑みも浮かぶ。
 ただ、クワイフにはこれで引き下がるつもりはないらしい。

「なるほど、アレが閣下の元で働いているということは聞き及んでおります。ただ、これは家族の問題ですっ! 腹立たしい話ですが、アレはこのヨカの姉なのですからっ!」

 すると、だった。
 今まで黙っていたヨカが立ち上がり、必死の形相をケネスへと向けた。

「そ、そうですっ! これは家族の問題ですっ! 家族の恥は家族ですすがなければいけないんですっ! 罪を償わせるためにも、そ、その分働かせないとっ!」

 唖然とせざるを得ない物言いだった。
 ケネスも同感のようで、「はぁ」とため息を響かせる。

「コイツのおかげで儲けていられたことが分かって、頭を下げるでも無くこき使う道を選んだわけか。なかなか出会うことの出来ない醜悪さだな」

「と、とにかくどいて下さいっ!! 家族の問題とあれば、公爵閣下と言えど不可侵の領域のはずですっ!! さぁ、早くっ!!」

 ヨカは次いで行動にも出た。
 ケネスの脇を抜けるようにして、セリアに手を伸ばしてくる。

 そこにあった鬼気迫る表情は……もはや、愛した妹とは思えなかった。
 醜悪としか思えなかった。

「や、やだっ! 止めてよっ!」

 拒絶を叫ぶことになる。
 それでもヨカはセリアにつかみかかってきて、そして、

「っ!?」

 声にならない悲鳴を上げた。

 その理由はと言えば、ケネスに片手を掴まれたからに他ならない。
 彼女は憎悪の視線をケネスに向ける。

「か、閣下っ!! 止めて下さいっ!! これはですから、家族の問題で……っ!!」

「そうか。だったら、俺にも一言する権利があるわけだな」

 目を丸くしたのはヨカだけではなかった。
 セリアは呆然とケネスの横顔を見つめる。

「え、えーと……閣下?」

 一体どういう意味なのかということだった。
 彼は視線を返してはこなかった。
 代わりに、ヨカ、クワイフと2人を淡々と見渡す。

「分からんか? まさか、夫は家族の範疇はんちゅうに入らんとでも言うつもりか?」

 セリアが胸中で「え?」と呟けば、ヨカはもっと劇的だった。

「お、夫……? え、夫っ!? それはあの、は? この女の夫ということですか!?」

 まさかそんな。

 心中で唖然と否定することになるのだが、ケネスは平然と頷く。

「まぁ、つまりそういうことだな」

 そういうことじゃないでしょうが。
 口にしようとして、それは果たせなかった。
 その前に、ヨカがひきつった表情で叫びを上げる。

「あ、ありえないっ!! なんでその女が? え、公爵夫人? 内務卿閣下の妻? お金儲けしか出来ない女が、なんでそんな……っ!!」

 ケネスは呆れたように首をひねった。

「ふーむ。お金に困っているだろう小娘がなかなか面白いことを言う。とにかく、コイツは俺の妻だ。お前の言う通り、ユーガルド公爵家の奥方様だ。どうする? あらぬ疑いをかけて連れ去りたいというのであれば、当然それなりの覚悟をしてもらう必要があるが」

 半狂乱のヨカはともかく、クワイフはある程度冷静だったらしい。
 青ざめた表情をすれば、暴れるヨカの腕をつかんで逃げるようにこの場を立ち去っていった。
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