5 / 11
5、提案
しおりを挟む
「ありがとうございます。でも、正直家に戻ろうって気持ちにはなれませんから」
あそこまで邪険にされてしまったのだ。
戻れるようになったとしてだった。
そこに居場所があるとも思えなければ、居場所を求めようという気にもなれない。
ケネスは納得の表情で頷きを見せた。
「まぁ、そうだな。くだらない私情で大功労者を貶めようとするバカに、その口車に容易く引っかかるバカ共の巣となればな。お前が戻ってやる価値など無いだろうさ」
セリアは思わず苦笑を浮かべた。
「本当、この公爵様は。相変わらず口が悪いですねぇ」
「自覚はあるが、今回に限っては俺に非は無い。全てはとんちんかんなお前のバカ家族が悪い」
「あははは、だから口が悪いですって。でも……ありがとうございます」
セリアは思わず頭を下げていた。
全面的に肯定してもらえたことが何よりも嬉しかったのだ。
ケネスは仏頂面で頷きを見せてきた。
「そうか。喜んでもらえて何よりだが、それよりもだぞ? だったらお前、これからどうするんだ?」
「これから? へ?」
「へ? じゃないだろうが。実家に戻るつもりは無いのだろう? であれば、どこで暮らして何をして生きるのかと考えばならないだろうが」
呆れた調子で告げられれば、セリアは今度は「あ」だった。
確かにだ。
考える気力が無ければ横に置いていたし、ケネスとのやり取りが楽しければ忘れていたがそうなのだ。
身分も失えば住む家も無い。
それが自分の現状だった。
「……あー、ですよねー。これからかぁ」
セリアは眉をひそめて腕組みだった。
「……そうですね。一応実績はありますし、どこかの商家で雇っていただけないでしょうかね」
人脈にはかなりのところ自信はある。
手当たり次第に当たれば、住まいと働き先を見つけることはそう難しい話では無いように思えた。
「まぁ、そうだな」
ケネスは納得の頷きを見せてくる。
「お前の実績があれば、どこの商家であっても喜んで迎え入れるだろう。ただ……多少、思案が足らないような気はしないこともないが」
セリアは首をかしげることになる。
「えーと、思案ですか?」
「お前はヤルス家では商才なんてさっぱりの放蕩娘になっているのだろう? そして、お前の妹はお前にそうであってもらわないと困るわけだ」
これでセリアにも分かった。
思わず「あ」と声を上げることになる。
「……裏から手を回されてますかね?」
「お前に実力を示す機会を与えたくは無いだろうな」
「あー」
「まぁ、バカの考えることは分からん。商売なんぞ誰でも出来ると思って無策でいる可能性もあり得るが」
セリアは眉をひそめて腕組みをする。
難しいところだった。
妹であるヨカから、セリアは一度として称賛の言葉を聞いたことは無かった。
商売が……この場合はほとんど投資だが、それがどれだけ大変であるかを彼女は理解していない可能性は大いにある。
ただ、ケネスの話した通りだ。
ヨカは自身に反撃の機会を与えたくはないはずなのだ。
(……止めといた方が良いかなぁ?)
仮に裏から手が回っていなかったとしても、後からということも考えられた。
その時には、自分を拾ってくれた商家に多大な迷惑をかけることになるだろう。
はぁ、だった。
何故自分がこんな目に会わなければいけないのか?
ケネスとの出会いで忘れていた憂鬱さを再び味わうことになる。
「しかし、お前もなかなか水くさいな」
陰鬱な気分を再び忘れることになる。
ケネスの妙な発言にセリアは思わず首をかしげた。
「あの、なんでしょうか? 水くさい?」
「お前な、目の前の男が何者か覚えているのか? 公爵様だぞ? 呆れるほどに広い屋敷を持てば、空き部屋なんぞ数え切れんほどにあるんだぞ?」
ヘルミナは目を丸くすることになった。
どうやらだ。
彼は屋敷で面倒を見てやると言ってくれているようだった。
(……優しいなぁ)
思わず笑みが浮かぶ。
素直に嬉しかったのだ。
家族に裏切られた心に、友人の優しさが暖かく染み込むようだった。
しかし、素直に頷くのは難しかった。
セリアは笑みのままに首を左右にする。
「ありがとうございます。ただ、それはご遠慮させていただきます」
「は? 遠慮だと?」
「はい。ケネス様に変な噂が立っても嫌ですから」
ケネスは傍若無人な振る舞いで敵も多い。
婚約者でも無い女を屋敷に泊まらせたとなれば、それだけで何を言われるか分からなかった。
「……なるほど。俺の評判を気にしているのか?」
察してもらえれば、セリアは頷いて同意する。
「差し出がましいようですが、その通りです」
「確かに、好色公爵など妙なことを言い立てる輩は出てくるかもしれんな。ふむ。だったら、そう言えないようにしてやればいい話ではあるが」
セリアは思わず眉をひそめることになった。
「か、閣下? 何か物騒な響きがあると言いますか、あの、脅迫などされるつもりで? まさか実力行使を?」
「さすがに、俺もそこまで自由人じゃ無い。簡単な話だ。お前が妻として屋敷に来ればいい。これで妙な噂話など立つまい?」
にわかに理解しかねた。
セリアは首をかしげてケネスを見つめることになる。
あそこまで邪険にされてしまったのだ。
戻れるようになったとしてだった。
そこに居場所があるとも思えなければ、居場所を求めようという気にもなれない。
ケネスは納得の表情で頷きを見せた。
「まぁ、そうだな。くだらない私情で大功労者を貶めようとするバカに、その口車に容易く引っかかるバカ共の巣となればな。お前が戻ってやる価値など無いだろうさ」
セリアは思わず苦笑を浮かべた。
「本当、この公爵様は。相変わらず口が悪いですねぇ」
「自覚はあるが、今回に限っては俺に非は無い。全てはとんちんかんなお前のバカ家族が悪い」
「あははは、だから口が悪いですって。でも……ありがとうございます」
セリアは思わず頭を下げていた。
全面的に肯定してもらえたことが何よりも嬉しかったのだ。
ケネスは仏頂面で頷きを見せてきた。
「そうか。喜んでもらえて何よりだが、それよりもだぞ? だったらお前、これからどうするんだ?」
「これから? へ?」
「へ? じゃないだろうが。実家に戻るつもりは無いのだろう? であれば、どこで暮らして何をして生きるのかと考えばならないだろうが」
呆れた調子で告げられれば、セリアは今度は「あ」だった。
確かにだ。
考える気力が無ければ横に置いていたし、ケネスとのやり取りが楽しければ忘れていたがそうなのだ。
身分も失えば住む家も無い。
それが自分の現状だった。
「……あー、ですよねー。これからかぁ」
セリアは眉をひそめて腕組みだった。
「……そうですね。一応実績はありますし、どこかの商家で雇っていただけないでしょうかね」
人脈にはかなりのところ自信はある。
手当たり次第に当たれば、住まいと働き先を見つけることはそう難しい話では無いように思えた。
「まぁ、そうだな」
ケネスは納得の頷きを見せてくる。
「お前の実績があれば、どこの商家であっても喜んで迎え入れるだろう。ただ……多少、思案が足らないような気はしないこともないが」
セリアは首をかしげることになる。
「えーと、思案ですか?」
「お前はヤルス家では商才なんてさっぱりの放蕩娘になっているのだろう? そして、お前の妹はお前にそうであってもらわないと困るわけだ」
これでセリアにも分かった。
思わず「あ」と声を上げることになる。
「……裏から手を回されてますかね?」
「お前に実力を示す機会を与えたくは無いだろうな」
「あー」
「まぁ、バカの考えることは分からん。商売なんぞ誰でも出来ると思って無策でいる可能性もあり得るが」
セリアは眉をひそめて腕組みをする。
難しいところだった。
妹であるヨカから、セリアは一度として称賛の言葉を聞いたことは無かった。
商売が……この場合はほとんど投資だが、それがどれだけ大変であるかを彼女は理解していない可能性は大いにある。
ただ、ケネスの話した通りだ。
ヨカは自身に反撃の機会を与えたくはないはずなのだ。
(……止めといた方が良いかなぁ?)
仮に裏から手が回っていなかったとしても、後からということも考えられた。
その時には、自分を拾ってくれた商家に多大な迷惑をかけることになるだろう。
はぁ、だった。
何故自分がこんな目に会わなければいけないのか?
ケネスとの出会いで忘れていた憂鬱さを再び味わうことになる。
「しかし、お前もなかなか水くさいな」
陰鬱な気分を再び忘れることになる。
ケネスの妙な発言にセリアは思わず首をかしげた。
「あの、なんでしょうか? 水くさい?」
「お前な、目の前の男が何者か覚えているのか? 公爵様だぞ? 呆れるほどに広い屋敷を持てば、空き部屋なんぞ数え切れんほどにあるんだぞ?」
ヘルミナは目を丸くすることになった。
どうやらだ。
彼は屋敷で面倒を見てやると言ってくれているようだった。
(……優しいなぁ)
思わず笑みが浮かぶ。
素直に嬉しかったのだ。
家族に裏切られた心に、友人の優しさが暖かく染み込むようだった。
しかし、素直に頷くのは難しかった。
セリアは笑みのままに首を左右にする。
「ありがとうございます。ただ、それはご遠慮させていただきます」
「は? 遠慮だと?」
「はい。ケネス様に変な噂が立っても嫌ですから」
ケネスは傍若無人な振る舞いで敵も多い。
婚約者でも無い女を屋敷に泊まらせたとなれば、それだけで何を言われるか分からなかった。
「……なるほど。俺の評判を気にしているのか?」
察してもらえれば、セリアは頷いて同意する。
「差し出がましいようですが、その通りです」
「確かに、好色公爵など妙なことを言い立てる輩は出てくるかもしれんな。ふむ。だったら、そう言えないようにしてやればいい話ではあるが」
セリアは思わず眉をひそめることになった。
「か、閣下? 何か物騒な響きがあると言いますか、あの、脅迫などされるつもりで? まさか実力行使を?」
「さすがに、俺もそこまで自由人じゃ無い。簡単な話だ。お前が妻として屋敷に来ればいい。これで妙な噂話など立つまい?」
にわかに理解しかねた。
セリアは首をかしげてケネスを見つめることになる。
401
あなたにおすすめの小説
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。
ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。
〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。
藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。
バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。
五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。
バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。
だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
感想の返信が出来ず、申し訳ありません。
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です
希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」
卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。
「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」
私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。
妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。
夢草 蝶
恋愛
シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。
どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。
すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──
本編とおまけの二話構成の予定です。
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
元夫をはじめ私から色々なものを奪う妹が牢獄に行ってから一年が経ちましたので、私が今幸せになっている手紙でも送ろうかしら
つちのこうや
恋愛
牢獄の妹に向けた手紙を書いてみる話です。
すきま時間でお読みいただける長さです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる