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4話:開拓神とスキル②

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「にゃ、にゃにゃ!?」

 マグヴァルガが可愛らしく悲鳴を上げたが、それは地面が轟音と共に揺れ動いた結果だ。
 これで下ごしらえは完了だった。
 斧を置いて、切り株を両手で抱える。 

 この魔術によって、切り株の周囲の土はかなりほぐされたはずなのだ。
 根を土から外すこともたやすくなったはずである。
 あとは『膂力強化(開拓)』。
 スキルの威力を信じ、鍛えぬいた四肢にものを言わせ、

「ふん……っ!」

 ひと息に引っこ抜く。
 勢いそのままに投げ飛ばす。
 ある種怪物のようにも見える根の塊が、巨木の森をズシンと確かに揺らした。

「……うわーお」

 再びの歓声は当然彼女のものだ。
 マグヴァルガは目をきらきらとさせて見つめてきた。

「ふぉ、ふぉれす! すごい! ちょうすごい!」

 フォレスは思わず胸を張ることになる。
 確かに、これはなかなかの成果だろう。
 だが、もちろんこれは彼女の『開拓神』としての加護があってこそである。

「いやいや。すごいのはマグちゃんだ。すべては君のスキルがあってこそだからな」

「うわー、けんきょ! すごい、ふぉれす! そっか、これがでんせつのきこりさんかぁ……」

 何故か、さらなる感心を呼んでしまったのだった。
 これはもう、伝説の木こりを名乗りとせねばなるまい。
 そう決心することになるが、それはともかくである。

 これは非常に大きな成果だった。
 当面の最難関かと思われていた大木の処理に、これで一定の目処めどがついたのだ。

「この分なら、早速畑を作れるな」
 
 フォレスは笑顔で周囲を見渡す。
 どうなるかと思っていたが、これで来年以降が見えてきた。
 ただ、実際に実りを得られるかについては、非常に怪しいところはあるのだが……

「あれ? ふぉれす、はたけなの?」

 憂鬱さに襲われたところでのマグちゃんの疑問の声だった。
 首をちょこんとかしげてかわいいが、それは置いておくことになる。

「あー、まずは畑を作るつもりだが、それが?」

 さしておかしな発言では無いはずだった。
 しかし、マグヴァルガである。
 彼女は引き続き首をかしげている。

「いえじゃないの?」

「ふむ?」

「まず、いえじゃないのかな?」

 それが彼女の疑問の中身であったらしい。
 家を作る方が先ではないか、と。
 確かに家も重要かもしれなかったが、そこはフォレスに異論があった。

「俺は野宿でもなんの問題も無いからな。まずは畑で良いと思うが」

 魔王討伐に際しては、過酷な環境をいくらでも味わってきたのだ。
 まだ暖かい季節でもある。
 後回しで十分のように思えたが、どうやら彼女にも異論があるらしい。

「ふっ」

 なんて訳知り顔で鼻を鳴らすと、指を「ちっちっち」と振って見せてきた。

「ふぉれす、あまい。でんせつのきこりさんも、そのてんはまだまだ」

「ま、マグちゃん?」

「かいたくはながちょうば。こころとからだをやすめるのだいじ。そのための、いえ。だいじ。ちょうだいじ」

 とのことだった。
 
 フォレスは腕組み考えることになる。
 確かにそうかもしれなかった。
 その通り、長丁場なのだ。
 しかも、今回は体調を崩したからといって、戦線を離脱して街に保養にというわけにはいかない。

 心身を休めながらに、細く長く開拓を続けていくための拠点。
 そもそも、ここは魔物の森だ。
 安全面を考えても、野宿は選ぶべきでは無かったか。

「……ふふふ、そうだな。さすがはマグちゃん。俺が間違っていたよ」

「ふふふふ。そうなの、フォレス。いえ、だいじ。つくる?」

「あぁ、作ろうか。俺とマグちゃんの我が家だ」

「おおー! ふたりのわがや! いいね!」

 マグヴァルガは目を輝かせているが……そうである。
 フォレスは自身の間違いを自覚する。
 よく考えれば、彼女を風雨にさらすなどとんでも無い話であった。
 もちろん、この森で暮らしていたであろう彼女のことだ。
 おそらく風雨などものともしないだろう。
 しかし、気持ちの問題だった。
 彼女のために素晴らしい家を建てる。
 これはもはや自身の義務、宿命と言って過言ではないのだ。

「じゃあ、ふぉれす! がんばってー!」

「ふふふ。がんばるよー。だが……大丈夫か?」

「ん? なにがー?」

「いやな、俺は家を作ったことなんて無いんだ。手順もさっぱりだ」

 フォレスは商家の出身なのだ。
 家具の修繕ぐらいであれば手慣れていた。
 だが、それが家づくりに活かせるとはあまり思えない。

 しかし、である。
 思わずマグヴァルガを見つめる。
 『開拓神』。
 そう彼女は名乗ったのだ。
 であれば、『武芸神』や『魔術神』がそうであったように、卓越したその道の知識を持ち合わせている可能性は大いにあった。

 期待の眼差しを送る。
 彼女は笑顔で親指を立ててきた。

「だいじょうぶ! がんばればいける!」

 そういうことらしかった。

 フォレスは笑顔で頷きを返す。

「そっか。がんばればなー」

「そう! がんばって!」

「わかった。がんばるよー」

「えへへへー」

「ふふふふー」
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