5 / 40
4話:開拓神とスキル②
しおりを挟む「にゃ、にゃにゃ!?」
マグヴァルガが可愛らしく悲鳴を上げたが、それは地面が轟音と共に揺れ動いた結果だ。
これで下ごしらえは完了だった。
斧を置いて、切り株を両手で抱える。
この魔術によって、切り株の周囲の土はかなりほぐされたはずなのだ。
根を土から外すこともたやすくなったはずである。
あとは『膂力強化(開拓)』。
スキルの威力を信じ、鍛えぬいた四肢にものを言わせ、
「ふん……っ!」
ひと息に引っこ抜く。
勢いそのままに投げ飛ばす。
ある種怪物のようにも見える根の塊が、巨木の森をズシンと確かに揺らした。
「……うわーお」
再びの歓声は当然彼女のものだ。
マグヴァルガは目をきらきらとさせて見つめてきた。
「ふぉ、ふぉれす! すごい! ちょうすごい!」
フォレスは思わず胸を張ることになる。
確かに、これはなかなかの成果だろう。
だが、もちろんこれは彼女の『開拓神』としての加護があってこそである。
「いやいや。すごいのはマグちゃんだ。すべては君のスキルがあってこそだからな」
「うわー、けんきょ! すごい、ふぉれす! そっか、これがでんせつのきこりさんかぁ……」
何故か、さらなる感心を呼んでしまったのだった。
これはもう、伝説の木こりを名乗りとせねばなるまい。
そう決心することになるが、それはともかくである。
これは非常に大きな成果だった。
当面の最難関かと思われていた大木の処理に、これで一定の目処がついたのだ。
「この分なら、早速畑を作れるな」
フォレスは笑顔で周囲を見渡す。
どうなるかと思っていたが、これで来年以降が見えてきた。
ただ、実際に実りを得られるかについては、非常に怪しいところはあるのだが……
「あれ? ふぉれす、はたけなの?」
憂鬱さに襲われたところでのマグちゃんの疑問の声だった。
首をちょこんとかしげてかわいいが、それは置いておくことになる。
「あー、まずは畑を作るつもりだが、それが?」
さしておかしな発言では無いはずだった。
しかし、マグヴァルガである。
彼女は引き続き首をかしげている。
「いえじゃないの?」
「ふむ?」
「まず、いえじゃないのかな?」
それが彼女の疑問の中身であったらしい。
家を作る方が先ではないか、と。
確かに家も重要かもしれなかったが、そこはフォレスに異論があった。
「俺は野宿でもなんの問題も無いからな。まずは畑で良いと思うが」
魔王討伐に際しては、過酷な環境をいくらでも味わってきたのだ。
まだ暖かい季節でもある。
後回しで十分のように思えたが、どうやら彼女にも異論があるらしい。
「ふっ」
なんて訳知り顔で鼻を鳴らすと、指を「ちっちっち」と振って見せてきた。
「ふぉれす、あまい。でんせつのきこりさんも、そのてんはまだまだ」
「ま、マグちゃん?」
「かいたくはながちょうば。こころとからだをやすめるのだいじ。そのための、いえ。だいじ。ちょうだいじ」
とのことだった。
フォレスは腕組み考えることになる。
確かにそうかもしれなかった。
その通り、長丁場なのだ。
しかも、今回は体調を崩したからといって、戦線を離脱して街に保養にというわけにはいかない。
心身を休めながらに、細く長く開拓を続けていくための拠点。
そもそも、ここは魔物の森だ。
安全面を考えても、野宿は選ぶべきでは無かったか。
「……ふふふ、そうだな。さすがはマグちゃん。俺が間違っていたよ」
「ふふふふ。そうなの、フォレス。いえ、だいじ。つくる?」
「あぁ、作ろうか。俺とマグちゃんの我が家だ」
「おおー! ふたりのわがや! いいね!」
マグヴァルガは目を輝かせているが……そうである。
フォレスは自身の間違いを自覚する。
よく考えれば、彼女を風雨にさらすなどとんでも無い話であった。
もちろん、この森で暮らしていたであろう彼女のことだ。
おそらく風雨などものともしないだろう。
しかし、気持ちの問題だった。
彼女のために素晴らしい家を建てる。
これはもはや自身の義務、宿命と言って過言ではないのだ。
「じゃあ、ふぉれす! がんばってー!」
「ふふふ。がんばるよー。だが……大丈夫か?」
「ん? なにがー?」
「いやな、俺は家を作ったことなんて無いんだ。手順もさっぱりだ」
フォレスは商家の出身なのだ。
家具の修繕ぐらいであれば手慣れていた。
だが、それが家づくりに活かせるとはあまり思えない。
しかし、である。
思わずマグヴァルガを見つめる。
『開拓神』。
そう彼女は名乗ったのだ。
であれば、『武芸神』や『魔術神』がそうであったように、卓越したその道の知識を持ち合わせている可能性は大いにあった。
期待の眼差しを送る。
彼女は笑顔で親指を立ててきた。
「だいじょうぶ! がんばればいける!」
そういうことらしかった。
フォレスは笑顔で頷きを返す。
「そっか。がんばればなー」
「そう! がんばって!」
「わかった。がんばるよー」
「えへへへー」
「ふふふふー」
0
お気に入りに追加
539
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました
mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーー
エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。
そんなところにある老人が助け舟を出す。
そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。
努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。
エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。
婚約破棄されてイラッときたから、目についた男に婚約申し込んだら、幼馴染だった件
ユウキ
恋愛
苦節11年。王家から押し付けられた婚約。我慢に我慢を重ねてきた侯爵令嬢アデレイズは、王宮の人が行き交う大階段で婚約者である第三王子から、婚約破棄を告げられるのだが、いかんせんタイミングが悪すぎた。アデレイズのコンディションは最悪だったのだ。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる