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1話:出会い

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「……うーむ」

 フォレスは周囲を見渡した。
 見渡す限りの巨木、巨木にさらに巨木だった。
 まったく先の見通せない、鬱蒼とした大森林。
 その合間からは魔獣のものだろうか?
 妙な遠吠えが耳に届いてくる。
 確信するしかなかった。
 ここはヤバい森である。
 絶対に人が足を踏み入れてはいけない森である。

 とりあえずだった。

 フォレスはしゃがみこんで膝を抱えた。

「うわぁ……マジかぁ」

 ドッキリのたぐいの冗談かと思ったが、結果はコレだ。

 どう理解しようと思っても、冗談の成分など一分も無い。
 ガチの追放である。
 ここまで同行してきた兵士は魔獣の森と言っていたか。
 この人跡未踏の北の地に、こうしてガチで追放されたのだ。

「……うわー」

 少し泣いてしまいそうだった。
 何故、自分がこんな目に会わなければならないのか。
 魔王討伐をがんばってきただけであり、そんな嫌われるようなことはした覚えは無かったのだが。
 
(……まぁ、でも、うん)

 フォレスは顔を上げて頷いた。

 まぁ、である。
 きっと何かの間違いだろう。

 そう理解しておくことにした。
 きっと何か不幸な行き違いがあったのだ。
 クーリャもブラムスもまったくかばってはくれなかったが、それも何かやむにやまれぬ事情があったに違いないのだ。

 その内に、2人のどちらかでも迎えに来てくれるだろう。

 結論づけて、フォレスは「よし」と立ち上がった。
 あまりクヨクヨしている余裕は無かった。
 ここで生きていかなければならないのであり、そのための行動に移らなければならない。
 
 幸い、処刑では無く追放だからということなのかどうか。
 物資はそれなりに持たされていた。
 まず一ヶ月保つ程度の食料がある。
 逆に言えば、一ヶ月しか生きられない程度の食料だが、大事なのはここにモミのままの小麦や大麦があることだ。

 物資には斧などの工具もあり、今は秋の始めである。
 何とかして森を切り開き畑をつくり、麦踏みをしながら冬を超え、収穫の夏を迎えることが出来れば……

(い、いけるか?)

 正直、首をかしげる思いだった。
 フォレスは農民ではなく、小さな商家の出身だ。
 農業に関しては、この1年農村で手伝ってきた分だけの知識しかない。
 さらには、冬を超えられるだけの食料のアテもさっぱり無い。

 不安しかなかった。
 しかし、仲間が迎えに来るまで生き延びようと思えばこれしか無い。

(……よし)

 早速、斧を取る。
 目下の課題は周囲の大木どもであった。
 これらを切り倒さなければ、麦畑など夢のまた夢だ。

「よし」

 今度は声に出して気合を入れる。
 両手で斧を横ぶりに引いて構える。
 勇者。
 そう呼ばれてきたのがフォレスであった。
 巨大なトレント種、強大な竜種を数え切れないほどに屠ってきた。
 であれば、この巨木程度である。
 一撃のもとに切り倒すことなど、

(……出来たらなぁ)

 一瞬哀愁あいしゅうが胸中に満ちたが、とにかくである。
 フォレスは願いを込めて斧の刃先を巨木に叩き込む。
 結果はと言えば、非常に常識的だった。
 刃先は固い表皮をえぐり、その下にわずかに食い込んだ。

「……うん」

 フォレスは納得の頷きを見せることになった。
 まぁ、それはそうだろう。
 スキルが無ければ、この程度の結果になってしかるべきだろう。

 『武芸神』に『魔術神』。

 彼らとフォレスは契約を結んでいたのだが、それは追放に際して解消されていた。
 契約していた当時であれば、増強系のスキルが活かせたのだ。
 この巨木程度、一閃で切り倒せていただろうし、魔術で焼き切ることも出来ただろう。

 しかし、今のフォレスはただの人間だ。
 いや、およそすべての人間は何かしらのスキル神と契約しているのであり、ただの人間以下というのがおそらく正しかった。

(なんか悲しい)

 思わず肩を落とすことになるが、メソメソしていてもスキルは湧いてこない。
 独力で切り倒すしかないのだ。
 大丈夫。いけるいける。
 そう信じて、フォレスは斧を振り続ける。
 もともと体力と腕力には自信があったが、その分の成果は無事に上がった。
 努力の結果である。
 巨木はミシミシと音を立て、周囲の樹木を揺らしながらに地面を揺らした。

「……ふふふ。勝った」

 達成感があり笑顔も浮かぶ。
 ただ……フォレスは空を見上げた。
 この作業に取り掛かった時点と比べ、かなり太陽の傾きは変わっていた。
 相当の時間がかかったということだ。
 さらに、作業は切り倒して終わりでは無い。
 太い幹にふさわしい巨大な根の処理もしなければならない。

 もちろんのこと、一本処理を終えたところで十分な空間にはほど遠い。
 では、麦畑などいつになるのか?
 正直なところ考えたくも無かった。
 フォレスは呆然と立ち尽くすことになり、そして、


「おおー、なかなかのうでまえ! すごい!」


 ん? っと首をかしげることになった。

 それはもちろん不意に耳に届いた声に対するものだ。
 あどけない少女の声に聞こえたのだが、こんな場所でそんな声を聞くことがあり得るのか?
 幻聴かと疑いつつ、フォレスは声の出どころを探し……

「は?」

 唖然と声を上げることになった。
 いたのだ。
 ちょうど足元である。
 何かがいた。
 手のひらに包めそうなほどに小さな、人の形をした何か。
 一応、女の子のように見えた。
 はちみつを溶かしたような金の髪を揺らし、明るい森の色をした瞳をキラキラとさせる女の子……っぽい何か。
 そんな彼女はニコニコとしてフォレスを見上げてきている。

「……あのー、どちら様で?」

 当然のこととして尋ねる。
 その小さく可愛らしい何かは、全身を揺らしながらに答えてきた。

「まぐゔぁるが!」

「はい?」

「かいたくしん! れいめいをもたらすまぐゔぁるが!」

 とりあえずのところである。
 どうにも言葉が頭を滑るという感想を抱くことになったが、気にするべきことはもちろん他にある。
 フォレスは大きく首をかしげた。

(かいたくしん? ……開拓神かいたくしん?)

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