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3話
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「一体何があったのかしら? 先ほどお父様から伝達の使いが来て、問題が発生して今日は帰れそうにないって」
「そうですか……」
家に戻り、侍女たちに身支度を整えてもらっていると、部屋に母が入ってきてそう言った。心当たりがないわけでもない、というか、間違いなくベルナールが婚約破棄を陛下に話したせいに違いない。
さすがにそんな重要な内容を使いに知らせるわけにもいかないだろう。ただ、父が帰って来れば母にも詳細を話すだろうから、その時のことを考えると今から胃が痛い。
お腹の辺りをさする私を、母も侍女も不思議そうな顔で見つめていた。
「とりあえず。明日は休みの日でしょう? 新しいお茶の葉が入ったのよ。お父様が戻られたら、三人で一緒にいただきましょう」
「はい……お母様」
明日のティータイムが楽しみなのか、嬉しそうに部屋を去っていく母の後姿を見て、私はため息をついた。
☆
「だからあんな王子の元にカトリーヌをやるのは反対だったのよ‼︎」
私の屋敷の中庭に、母の悲鳴にも似た声が鳴り響いた。理由は、いうまでもなく、ベルナールのせいだった。
昼を過ぎて屋敷に戻ってきた父を、母は昨日宣言した通り、ティータイムに誘った。かなり疲れた顔をした父だったが、そこで伝えることを決めたのか、二つ返事で母の招待を受け入れた。
香りの良い紅茶が運ばれてくると、それぞれが香りを楽しんだ後、紅茶を口に含んだ。ほのかな苦味と、爽やかなフルーツのような味わいが口に広がり、私は少し落ち着いた気持ちになる。
何よりもお茶が好きな母が嬉しそうにどこの茶葉だとか、来週には別の茶葉が手に入る予定だとか一通り話した後、父は、少し言いにくそうに口を開き、昨日城に泊まる羽目になった理由を母に告げた。
私の予想通り、ベルナールは私に話したその足で陛下に謁見し、私との婚約を破棄してもらうよう進言したのだとか。しかも馬鹿正直にマリーナと関係を持ったことと、妊娠したことも一緒に。
父の話ではその場に父も居て、他にも何人かが居合わせたらしい。父が言うにはあんなに驚いた顔を陛下が見せたのは初めて見たくらいなのだとか。
「それで、カトリーヌは、殿下との婚約がダメになることに、本当に未練はないんだな?」
「はい。ベルナール殿下にその気がない以上、仕方ありませんもの」
父の質問に私はしおらしくそう答えた。本心は、本当に破棄できて良かったと思っている。学園の庭で私に話した時もまさかその話題をここで? と思ったけれど、陛下への報告もそんな感じだったとは。何をどうしたらそんな考えなしな行動が平気でできるのだろうか。
「そうか……ひとまず。殿下のことで王城は大変なことになっている。私も、もうすぐしたら戻らねばならない。殿下がカトリーヌにはもう伝えて、了承を取っていると言っていたから、その確認のために戻ってきたんだ」
「あなた! こんな辱めをカトリーヌに受けさせるのはもう十分です! 次の婚約相手は、私が決めますからね!」
「ああ……本当にすまない……まさか、この年になってもあそこまで分別のつかないままだとは、私も想像できなかったよ。カトリーヌにはきっといい相手を見つける。約束するよ」
そう言って父は再び馬車に乗り込み、王城に向かっていった。私は、冷たくなった紅茶を少し口に含むと、小さく息を吐いた。
「そうですか……」
家に戻り、侍女たちに身支度を整えてもらっていると、部屋に母が入ってきてそう言った。心当たりがないわけでもない、というか、間違いなくベルナールが婚約破棄を陛下に話したせいに違いない。
さすがにそんな重要な内容を使いに知らせるわけにもいかないだろう。ただ、父が帰って来れば母にも詳細を話すだろうから、その時のことを考えると今から胃が痛い。
お腹の辺りをさする私を、母も侍女も不思議そうな顔で見つめていた。
「とりあえず。明日は休みの日でしょう? 新しいお茶の葉が入ったのよ。お父様が戻られたら、三人で一緒にいただきましょう」
「はい……お母様」
明日のティータイムが楽しみなのか、嬉しそうに部屋を去っていく母の後姿を見て、私はため息をついた。
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「だからあんな王子の元にカトリーヌをやるのは反対だったのよ‼︎」
私の屋敷の中庭に、母の悲鳴にも似た声が鳴り響いた。理由は、いうまでもなく、ベルナールのせいだった。
昼を過ぎて屋敷に戻ってきた父を、母は昨日宣言した通り、ティータイムに誘った。かなり疲れた顔をした父だったが、そこで伝えることを決めたのか、二つ返事で母の招待を受け入れた。
香りの良い紅茶が運ばれてくると、それぞれが香りを楽しんだ後、紅茶を口に含んだ。ほのかな苦味と、爽やかなフルーツのような味わいが口に広がり、私は少し落ち着いた気持ちになる。
何よりもお茶が好きな母が嬉しそうにどこの茶葉だとか、来週には別の茶葉が手に入る予定だとか一通り話した後、父は、少し言いにくそうに口を開き、昨日城に泊まる羽目になった理由を母に告げた。
私の予想通り、ベルナールは私に話したその足で陛下に謁見し、私との婚約を破棄してもらうよう進言したのだとか。しかも馬鹿正直にマリーナと関係を持ったことと、妊娠したことも一緒に。
父の話ではその場に父も居て、他にも何人かが居合わせたらしい。父が言うにはあんなに驚いた顔を陛下が見せたのは初めて見たくらいなのだとか。
「それで、カトリーヌは、殿下との婚約がダメになることに、本当に未練はないんだな?」
「はい。ベルナール殿下にその気がない以上、仕方ありませんもの」
父の質問に私はしおらしくそう答えた。本心は、本当に破棄できて良かったと思っている。学園の庭で私に話した時もまさかその話題をここで? と思ったけれど、陛下への報告もそんな感じだったとは。何をどうしたらそんな考えなしな行動が平気でできるのだろうか。
「そうか……ひとまず。殿下のことで王城は大変なことになっている。私も、もうすぐしたら戻らねばならない。殿下がカトリーヌにはもう伝えて、了承を取っていると言っていたから、その確認のために戻ってきたんだ」
「あなた! こんな辱めをカトリーヌに受けさせるのはもう十分です! 次の婚約相手は、私が決めますからね!」
「ああ……本当にすまない……まさか、この年になってもあそこまで分別のつかないままだとは、私も想像できなかったよ。カトリーヌにはきっといい相手を見つける。約束するよ」
そう言って父は再び馬車に乗り込み、王城に向かっていった。私は、冷たくなった紅茶を少し口に含むと、小さく息を吐いた。
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