Smile

アオ

文字の大きさ
上 下
37 / 55
3章

9

しおりを挟む




 「そいつはかわいいだろう?自慢のペットだよ」



 低い男の声が後ろから響いた。

 だけど、振り向けない。

 目を背けると多分確実に襲われる。

 「父上・・・」

 アラン王子の苦々しい呟きが聞えた。

 「君が予言の少女だね。こんなところで会えるとは光栄だよ」

 「よく言うよ、私を殺そうとしてたくせに」

 ボソッとつぶやいた私の言葉は聞えないらしい。

 「その野獣は、君とはお話できないよ。考えられないように薬を飲ませ、

 数日何も食べさせてないから」

 ひどい。なんてひどいことをするんだろう。

 「まあ、さっきちょっと食べたみたいだから私の言うことは聞くだろうけどね」

 じっと野獣を見つめた。

 口の辺りに血が滴っている・・・・・。

 でも。

 凶暴そうで恐ろしいけど・・・・・なんて美しい獣なんだろう。

 こんなに綺麗なのに、かわいそうに自由がないなんて。

 「だからあんたが嫌いなんだよ」

 あんなに飄々としていたアラン王子が心底嫌そうに後ろでつぶやいた。

 のそり、のそりと野獣が私に近づいてくる。

 よく見ると、あちこち傷跡がある。

 ムチか何かで打たれたんだろうか。

 むごいことを。

 「かわいそうにお前、虐待されてたんだね」

 一歩野獣に近づいた。

 「やめろ、ヒナ。危険だ!」

 後ろからアラン王子が止める。

 それを制止する国王。

 「まあまあ、姫様はそれとお話したいんだろうよ。そっとしときなさい」

 人を馬鹿にするような口調。きっと野獣と話が出来ないってわかってるんだろう。

 野獣は相変わらず殺気だっている。私の声がまったく聞えないみたいだ。

 こっちの世界に来ていつもいつも動物達に助けてもらった。

 どこにいても彼らは私の心配してくれて励ましてくれた。

 みんなこころ優しい子ばかりだった。

 この子だってきっとこんな事はしたくなかったはず。

 だから抵抗して抵抗してムチとか使われたんだね。

 「痛かったよ・・・ね」

 そっと野獣に近づく。

 「こんなことしたくないんだよね」

 もう手が届くところまで近づく。

 「ヒナ!危ない!」

 野獣が私に向かって大きく吼える。

 この声も悲鳴にしか聞えなかった。

 私はそっと野獣の大きな首に抱きついた。

 「もうそんなことしなくていいんだよ。苦しまなくていいんだよ」

 野獣の首はとてもとても温かかった。

 野獣は大きく吼えた。牙をむき出しにし、私から逃げようとした。

 「ヒナ!」

 大丈夫、この子はもうひどい事はやらないよ。

 だって、ほら瞳が優しいブルーにかわったよ。


 ドォォォォォォォォン!!

 大きな爆音とともに王宮が激しく揺れた。

 「な、なにごとだ!」

 「へ、陛下!お逃げください」

 親衛隊と国王が慌て始めた。国王は何人かの人たちに囲まれて逃げていった。

 ニコだ。ニコの仕業だ。向こうも計画どうりに進んでるんだ。

 「ヒナ。今のうちに」

 こそっとアラン王子が私に言う。

 「うん。行こう」

 抱きついていた野獣からそっと離れる。

 「もうお行き。今のうちに逃げるの。わかった?」

 野獣にそっと告げた。

 じっと見つめてなにかいいたそうだったけど早く行かなければならなかった。

 「さよなら」

 私たちはパニック状態の中を走りぬける。

 「やつらが逃げるぞ」
 
 「早く捕まえるんだ」

 パニックの中でも正気な人はいるもので、すぐに見つかる。

 出口がもうそこなのに。

 急に私の体が中に浮いた。

 「わわっ」

 「ヒナ!」

 ドサッと白い背中に乗せられた。

 『ちゃんと捕まって』

 アラン王子とゼフさんも背中に乗った。
 
 『王宮を抜けるから』

 私たちに告げると野獣は走り出した。

 ゼフさんは気を失っていた。





 
 
 「ルル~。見事だねぇ~」

 でっかく上がった花火は朝日に照らされてもキラキラと輝いて見事に虹を描いていた。

 「派手にやれっていったのはあんただろう?」

 ふふ。そうだけどね。

 「あと5分おきに3発。四方に仕掛けてる。あんたはその隙に逃げな」

 一つ目の花火でヒナタは行動を起こしたはず。

 待ち合わせの場所まで少々距離がある。

 そろそろヒナタも着いている頃かな。

 「じゃあ、ルル行くね。ありがとうね」

 ヒラヒラ~と手を振ってニコは走っていった。

 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...