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10 艦上生活 4 ※
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浮遊戦艦ヴァルトルーデにおけるディートハルトの役目は、戦艦への魔力供給だ。
日に一度艦橋に赴き、動力部に繋がる魔道具に、その身に流れる膨大な魔力を流し込む。
ディートハルトが所属する第一航空師団は、このヴァルトルーデの運用を司っている。ディートハルトはその師団長という事になっているが、実際に艦を動かすのは艦長であるロイドだ。
士官学校にて、航空法や飛行管制、母艦運用等の知識は叩き込まれたものの、第二王子であるディートハルトは所詮は旗印であり、士気高揚用の置物だ。
それは、何か問題が起こった時にディートハルトに責任を取らせない為でもある。
唯一、我儘を通し戦闘機部隊の指揮権のみはもぎ取ったが、それも何かあった際に責任を取るのはディートハルトではなくバルツァーや艦長という事になる。
魔力供給を済ませた後は、報告書や航行日誌に目を通し、承認の署名をする。
戦闘機の演習計画を練り、豊富な魔力による戦闘機の遠隔操作で仮想敵を務める時は楽しいが、実際の実戦にディートハルトが出る事は許されていない。
基本的に、ひどく下らなくつまらない毎日だ。
「随分と厳重に囲い込まれる」
今日の分の魔力供給を終えた時、ぽつりと話しかけてきたのはロイド艦長だった。
「例のテラ・レイスですよ。殿下の部屋に閉じ込めっぱなしではありませんか」
アリサ。彼女はディートハルトのつまらない日常に、唐突に現れた面白い玩具だった。
「風紀を考えたら、艦内を好きにうろつかせる訳にはいかないよね?」
「その通りですが歩かせなさすぎです。さすがに健康に悪いですよ。しかも艦内で彼女に引き合わせて貰えたのは、バルツァー大佐と私だけではありませんか」
「お前らは既婚者だし愛妻家だからね。俺は女を他の男と共有する趣味は無いんだ。あれは幸いバルツァーに保護されるのも早かったから、何の手垢もついてなかったしね」
もの慣れない女を自分好みに躾ける、というのは存外に楽しかった。継続的に同じ女を抱くいうのも、ディートハルトにとっては初めての事だ。
全ては高すぎる魔力のせいである。
「囲い込むのも結構ですが、少しは外の空気も吸わせるべきです。第三デッキなら人払いをすれば他の乗員の目に触れるのも最小限で済みましょう。あまりにも閉じ込めすぎると病気になりますよ」
「うーん、そっか。第三デッキならいいかもね。人払いの手配は任せるよ」
ちらりとロイド艦長を一瞥し、ディートハルトは自席を立った。
ペットを飼うというのも色々考えないといけないんだな、などと思いながら。
◆ ◆ ◆
有紗がディートハルトの部屋から外に出して貰えたのは、隣国の戦闘機の接近があった日から二日後の事だった。どうやらロイド艦長やバルツァーより、閉じ込めすぎるのは良くないという進言があったらしい。
毎日抱き潰されるせいで、有紗は朝起きられない。日本で女子大生をしていた時は、いくら頑張ってダイエットしても痩せなかった身体が、少し細くなってきた気がする。
疲れ果てて食事量が減っている事が第一に思い当たるので、減っているのは脂肪ではなくて筋肉のような気がして素直に喜べない。
外に出るにあたって、有紗はこちらの町娘風のワンピースの上から、ディートハルトのフード付きのコートを着込まされた。
「そんなに寒いんですか?」
「うーん、まぁ、寒いのもあるけど、やっぱり女が居るってのを大々的にすると艦の規律が乱れるからね。俺がテラ・レイスを連れ込んで寵姫にしたってのは知れ渡っていることではあるんだけど」
そう言うと、ディートハルトは軽く肩を竦めた。
「後は、俺が単純にアリサをほかの男に見せたくない」
この王子様は残酷だ。どうしてそんな恋人に対するような事を言うのだろう。
ディートハルトは有紗の頭にフードをすっぽりと被せた。ぶかふかのコートからはディートハルトの匂いがして心臓が跳ねる。
勘違いしてはいけない。この男にとっての有紗は、ただの奴隷でペットだ。
今は有紗を気に入っているようだが、寵姫なんて男の気持ち次第の不安定な立場である事は、歴史が証明している。
有紗は俯きながらディートハルトの後ろを歩く。
時折すれ違う軍人から、好奇の視線が突き刺さって嫌だった。
ディートハルトに連れて行かれたのは、飛行船のデッキだった。
周囲が見渡せるよう見張り台が設けられていて、当直らしい軍人が二名いる他は、人払いされているのか誰もいない。
「全然風がないんですね。こんなに高いところを飛んでいるのに」
「それは結界のおかげだね。気温の低下や揺れなんかも結界のおかげで抑えられてるんだよ」
言われてみれば、この船はほとんど揺れない。有紗は自分が乗り物酔いしやすい事を、今の今まで忘れていた。
外は船内に比べるとひんやりしていたが、寒いという程ではなかった。時刻は夕暮れ、上空は既に群青で、山際だけがオレンジ色になっている。
この色彩は、昼と夜の狭間、黄昏時にだけ見られるものだ。
(綺麗)
一見すれば日本で見られた夕暮れと変わらない空に見える。だけど、群青になった上空に輝くのは、地球では皆既月食の時にしか見られないような赤い月だ。
「少しは気分転換になった?」
「はい」
有紗は頷いた。奴隷としてはこう答えるのが正解だと思ったからだ。
有紗はどちらかと言えばインドアで、家にいるのが苦ではないタイプである。
だからディートハルトの部屋にずっといることはそこまで辛くなかったし、むしろ乗組員から好奇の視線を向けられる方が苦痛だったが、それを正直に伝える事は、不興を買うのが怖くて出来なかった。
有紗はディートハルトに戻るよう促されるまで、ぼんやりとデッキからの景色を眺めた。
◆ ◆ ◆
「……今日もするんですか?」
デッキからディートハルトの部屋に戻った有紗は、寝室に連れ込まれ、圧し掛かってきたディートハルトに尋ねた。
「今日はどうしたの? 嫌?」
今まで大人しく身を任せていた有紗が珍しく聞いたからか、ディートハルトは首を傾げた。
「痛むんです。その……毎日するから……」
下腹部を抑えながら訴えると、ディートハルトはふっと笑った。
「そっか、毎日いっぱいしたもんね。大丈夫、いい薬があるから」
そう言って、ベッドサイドの物入れから、ディートハルトは小さな丸い容器を取り出した。
中身は軟膏タイプの薬のようだった。容器を開けた途端、ハーブっぽい匂いが漂う。
「痛むのはおまんこの中だよね? 塗ってあげる」
「あの、今日はしないっていう選択肢は……?」
「無いよ。だってヤリたいもん」
言いながらディートハルトは有紗の服を剥いていく。
抵抗は出来ない。首輪の制約が怖い。
「アリサは嫌そうな顔はするけど、基本的に従順で逆らわないよね?」
「それは……首輪があるから」
「ちょっとくらいなら抵抗してもいいって俺は言ってるよ? 試してみればいいのに」
試せるものか。
首を締められて意識が飛ぶのは恐怖だ。有紗は口を一文字に引き結んで俯いた。
ディートハルトは有紗の服の前をはだけさせ、ポンと肩を叩いた。
「ほら、後は自分で脱いで。全部ね。そんでベッドの上で足を広げて、塗りやすいように見せてごらん」
いやらしい要求に、弾かれたように顔を上げた有紗に、ディートハルトはいい笑顔で微笑みかけてくる。
「嫌なら嫌でいいんだよ」
有紗は悔しさに唇を噛むと、要求に従うべく半身を起こし、ブラウスと胴衣を纏めて脱ぎ捨てた。
有紗が全裸になる間に、ディートハルトも服を脱いでいた。
「足、開いて」
再びこちらに戻ってきたディートハルトに促され、有紗は渋々と足を開いた。
自分から性器を男の目に晒すのは恥ずかしいし屈辱だ。ディートハルトは軟膏を右手で掬い取り、もう片方の手で有紗の陰部を開いた。
「何もしてないのに濡れてひくひくしてるよ? やらしいね」
「そんな訳……、っ!」
右手の指先で入口に触れられ、有紗は息を飲んだ。
処女を喪ってたった四日。しかしその間毎晩のように身体を貪られた為、有紗のそこは、簡単に男の指を受け入れてしまう。
塗り薬も潤滑油の役割を果たし、気が付いたら指は根元まで胎内に入り込んでいた。
「ここより奥は指じゃ無理だね」
ぬち、くちゅ……と水音と共に膣内を弄られる。その手つきは薬を塗るためのものなのでゆっくりだが、性感を開発されつつある有紗の身体は如実に反応し、きゅうっとディートハルトの指を食い締めてしまう。
「こら、締めつけちゃダメだよ。薬が塗れない」
「そんな事、してなっ……」
「嘘つき」
「んんっ……」
ぐり、とお腹側の性感帯を刺激され、有紗は悲鳴を上げた。
幸いな事にディートハルトはそれ以上はそこを弄らず、あっさりと指を引き抜いた。
(終わったの……?)
有紗はぼんやりとディートハルトの動きを目で追い、軟膏を追加で掬いとるやいなや、自身の性器に塗り付け始めた姿を見て、ぴしりと硬直する。
まるで自慰のような手の動きに目が離せない。
大きく目を見開いて見つめていると、クスリと笑われた。
「奥までは指じゃ塗れなかったから、こっちで塗ってあげるね」
ひっと有紗は息を飲んだ。
(へんたいっ……)
ドン引きし、反射的に身を引こうとする有紗の身体を押さえ込み、ディートハルトは膣口に男根をあてがった。
次の瞬間には、ずぶりと中に侵入してくる。
「あ、あ……」
大して慣らされてもいないのに、受け入れてしまう自分の身体が信じられない。
有紗の瞳からは生理的な涙が零れた。
「は……やっぱアリサは気持ちい……」
一番奥まで押し込んで、ディートハルトはとろりとした眼差しでうっそりと微笑んだ。
この戦艦に乗って今日で四日目で、有紗のこの国の知識も少しだけ増えた。
ディートハルトやバルツァーが、空き時間にこちらの事を少しずつ教えてくれるのだが、それは、この国で主神として崇められる、月の女神ツァディーの教えによるものだ。
ツァディーは魔力を司る赤い月の化身とされる神で、奴隷制度を正当化する教えを説いた神でもある。
奴隷は、前世での罪を雪ぐ為に堕ちるもの。
そして、奴隷の主になる者が、奴隷に温情を与え、教育を施した上で解放すると、大きな善行になると聖典に記されているそうだ。
だからこの国の奴隷は、主人の裁量と本人の才覚次第で再び市民権を取り戻す可能性を持っている。
そして、ディートハルトが有紗を嬉々として抱くのは、ディートハルトの魔力が多すぎるせいだという事を、改めて教えられた。
こちらでは、平民でも種火を出す程度の簡単な魔法が使える。しかし、貴族認定されるレベルの魔力の持ち主は、結婚相手を探す際制約を受けてしまう。
まず魔力の相性が合わなければ、交わる時に酷い苦痛を味わう事になる。
魔力の相性が一致しても、魔力量に差があるとやはり問題が発生する。
唾液や精液といった体液には、濃厚な魔力が含まれ、魔力の高い者の体液を魔力が少ない者が摂取すると、魔力酔いを起こしてしまう。
魔力酔いはお酒に酔った状態に似ているそうだ。少しくらいなら頭がぼんやりしてくらくらするくらいで済むが、あまりにも魔力量に格差があると、急性アルコール中毒のようになって倒れてしまう。最悪命の危険もあるとの事。
女性の方が魔力が強いのはまだマシらしい。女は受け入れる性なので、キスが出来ない程度で済むからだ。
魔力の強い男性の場合は大変で、そのままでは普通に性交する事すら出来ないそうだ。
それでは子孫を残せない為、魔力酔いを緩和する霊薬が開発された。
しかし、その薬には、摂取後何日間も寝込んでしまうほどの強い副作用があるそうである。
また、あくまでも症状を緩和するというだけの代物なので、非常に気を使いながら致さなければいけないらしい。
具体的にどう気を使うのかは、ディートハルトが教えてくれた。
「排卵日を狙ってキスはなし。体液の接触は入れて出すだけの最低限。まるで種馬だよね」
それを聞いて少しだけ同情心が湧いた。
王族の男性は、誰もがそういう悩みを抱えながら致しているそうだ。
この悩みは一部の高位貴族にも当てはまるらしく、発散の対象となるのは主に高級娼婦だ。彼女達は魔力酔いを緩和する薬物を使用し、副作用に苦しみながら身体を切り売りしているそうである。
そして、この世界における高級娼婦は、貧しい平民家庭に高い魔力を持って生まれた子供が行きつく先だ。
魔力の理の外にある異世界人は大変貴重で得難い存在で――だから有紗はディートハルトに貪られる。
有紗の性格や容姿を気に入って抱くのではない。単に体質が都合がいいから抱くだけ。
その上子供が出来ないこともほぼ確定とくれば、彼にとっては後腐れなく、実に都合のいい女という訳だ。
胎内に性器を根元まで埋め込んだディートハルトは、薬を浸透させる為か、子宮口に先端を強く押し付けたまま動こうとせず、有紗の身体をぎゅっと抱き込んできた。
「あー、入れてるだけでも気持ちい……アリサは? 痛くない?」
「…………」
唇を引き結び、目を逸らすとそっと首輪をなぞられた。
悔しい。脅されてる。
「このままなら痛くないです……」
渋々答えるとディートハルトはふっと笑った。
「じゃあ薬が染み込むまでもう少しこのままで居ようね。ああ、いいな。落ち着く……」
ひくん、とディートハルトのものが胎内で震えた。
いつまでこのままでいるつもりなんだろう。
動く気配のないディートハルトの温もりに包まれ、有紗は段々眠くなってきた。
連日のように貪られまくったせいで、有紗の身体には疲労が溜まっており、いくらでも眠れる状態である。
このまま睡魔に身を任せ、眠っている状態で終わらせて貰えるなら、それはそれで悪くないかな、と思い、有紗は目を閉じた。
その時である。ディートハルトに奥を小突かれ、意識が強制的に引き戻される。
「寝ないで、アリサ。痛くないみたいだから動くよ」
囁きと共にディートハルトはゆっくりと腰を動かし始めた。
ディートハルトの動きは、有紗を気遣ってか、いつもよりも穏やかだった。
しかしずちゅ、ぬちゅ、という水音と共に、奥を念入りに刺激してくるのはいつもと変わらない。
「ん、ふっ、あ……おく、やっ……」
認めたくないが、連日の交わりで開発されつつある有紗には、ゆるやかな刺激は少し物足りない。そう感じる自分に愕然とし、有紗は動いてしまいそうになる腰を必死で抑えた。
「気持ちよさそうだよ? きゅうきゅう締め付けてきてるのに本当に嫌?」
ぐ、と一番奥に押し付けられる。
「……っ!」
自分の意識とは別の場所でぎゅう、膣壁が収縮して、嫌でもディートハルトの形を意識してしまった。
ディートハルトは、観察者のような眼差しで有紗をじっと見つめている。
「痛くない?」
尋ねられ、有紗は目を逸らした。
「答えて」
首輪に触れられ、渋々と口を開く。
「いたくは、ないです……」
ゆっくりだからか、薬が効いたからか、ヒリヒリするような鈍い痛みは収まっていた。
ディートハルトは有紗の返事に嬉しそうな笑みを浮かべる。
「手、シーツじゃなくて俺の背中に回して」
嫌だ。
ふるふると首を振ると、きゅ、と首輪が締まった。
「あ――」
隷属の首輪の発動に有紗は目を見開いた。
す、とディートハルトの指先が首輪に触れ、締め付けが和らぐ。
「はっ、はあっ、はあっ」
はくはくと酸素を求める有紗に、ディートハルトは再び告げる。
「手、回して」
ぼろりと涙が零れた。唇を噛み泣きながら有紗はディートハルトの背中に手を回す。
「ん、いいね。この密着してる感じ」
ディートハルトが満足気に笑う気配があった。耳朶を食まれ、ぞわりとした感触が背筋を走る。
最低だ。奴隷扱いしてくる男と、まるで恋人みたいに交わらないといけないだなんて。
抽送が突然激しくなった。
「ん、あっ、あっ、ふっ……」
浅い場所から一番奥まで、気持ちいいところを掻き抉られ、頭の中がスパークする。
覚悟していた痛みはなく、ただただ気持ちいい。
強すぎる快感から逃げ出したくても抑え込まれているせいで叶わなくて、ディートハルトに抱き着く指に力が篭った。
胸の膨らみが胸板に押し潰され、身体の前面全体に男の逞しい筋肉を感じる。
知らず知らずの間に内腿に力がこもり、男の身体を挟み込んでいた。
「や、あ、あ、あぁんっ……」
激しく揺すぶられ、きつく目をつぶって必死に耐えていると、唇に何かが触れた。
驚いて目を開くと、至近距離にディートハルトの顔があり、次の瞬間には口腔内を貪られていた。
吐精は、深い口付けと共に始まった。
舌の侵入と共に最奥に先端が捩じ込まれ、結合部に密着した陰嚢が力強く脈打って胎内に白濁が撒き散らされる。
どぷどぷと先端から撃ち込まれる大量の精液が、膣の中を白く染めていった。
唇も子宮口も今日もすぐには解放されない。
執拗にマーキングをしてくる姿はまるで犬みたいだ。そんな事しなくても、有紗はディートハルトに首輪で縛られているのに。
こんな行為は無意味だ。性器で蓋をし子種を刷り込んでも、実を結ばないとも言われているのだから。
(早く終わって……)
有紗は心の中で呟いた。
日に一度艦橋に赴き、動力部に繋がる魔道具に、その身に流れる膨大な魔力を流し込む。
ディートハルトが所属する第一航空師団は、このヴァルトルーデの運用を司っている。ディートハルトはその師団長という事になっているが、実際に艦を動かすのは艦長であるロイドだ。
士官学校にて、航空法や飛行管制、母艦運用等の知識は叩き込まれたものの、第二王子であるディートハルトは所詮は旗印であり、士気高揚用の置物だ。
それは、何か問題が起こった時にディートハルトに責任を取らせない為でもある。
唯一、我儘を通し戦闘機部隊の指揮権のみはもぎ取ったが、それも何かあった際に責任を取るのはディートハルトではなくバルツァーや艦長という事になる。
魔力供給を済ませた後は、報告書や航行日誌に目を通し、承認の署名をする。
戦闘機の演習計画を練り、豊富な魔力による戦闘機の遠隔操作で仮想敵を務める時は楽しいが、実際の実戦にディートハルトが出る事は許されていない。
基本的に、ひどく下らなくつまらない毎日だ。
「随分と厳重に囲い込まれる」
今日の分の魔力供給を終えた時、ぽつりと話しかけてきたのはロイド艦長だった。
「例のテラ・レイスですよ。殿下の部屋に閉じ込めっぱなしではありませんか」
アリサ。彼女はディートハルトのつまらない日常に、唐突に現れた面白い玩具だった。
「風紀を考えたら、艦内を好きにうろつかせる訳にはいかないよね?」
「その通りですが歩かせなさすぎです。さすがに健康に悪いですよ。しかも艦内で彼女に引き合わせて貰えたのは、バルツァー大佐と私だけではありませんか」
「お前らは既婚者だし愛妻家だからね。俺は女を他の男と共有する趣味は無いんだ。あれは幸いバルツァーに保護されるのも早かったから、何の手垢もついてなかったしね」
もの慣れない女を自分好みに躾ける、というのは存外に楽しかった。継続的に同じ女を抱くいうのも、ディートハルトにとっては初めての事だ。
全ては高すぎる魔力のせいである。
「囲い込むのも結構ですが、少しは外の空気も吸わせるべきです。第三デッキなら人払いをすれば他の乗員の目に触れるのも最小限で済みましょう。あまりにも閉じ込めすぎると病気になりますよ」
「うーん、そっか。第三デッキならいいかもね。人払いの手配は任せるよ」
ちらりとロイド艦長を一瞥し、ディートハルトは自席を立った。
ペットを飼うというのも色々考えないといけないんだな、などと思いながら。
◆ ◆ ◆
有紗がディートハルトの部屋から外に出して貰えたのは、隣国の戦闘機の接近があった日から二日後の事だった。どうやらロイド艦長やバルツァーより、閉じ込めすぎるのは良くないという進言があったらしい。
毎日抱き潰されるせいで、有紗は朝起きられない。日本で女子大生をしていた時は、いくら頑張ってダイエットしても痩せなかった身体が、少し細くなってきた気がする。
疲れ果てて食事量が減っている事が第一に思い当たるので、減っているのは脂肪ではなくて筋肉のような気がして素直に喜べない。
外に出るにあたって、有紗はこちらの町娘風のワンピースの上から、ディートハルトのフード付きのコートを着込まされた。
「そんなに寒いんですか?」
「うーん、まぁ、寒いのもあるけど、やっぱり女が居るってのを大々的にすると艦の規律が乱れるからね。俺がテラ・レイスを連れ込んで寵姫にしたってのは知れ渡っていることではあるんだけど」
そう言うと、ディートハルトは軽く肩を竦めた。
「後は、俺が単純にアリサをほかの男に見せたくない」
この王子様は残酷だ。どうしてそんな恋人に対するような事を言うのだろう。
ディートハルトは有紗の頭にフードをすっぽりと被せた。ぶかふかのコートからはディートハルトの匂いがして心臓が跳ねる。
勘違いしてはいけない。この男にとっての有紗は、ただの奴隷でペットだ。
今は有紗を気に入っているようだが、寵姫なんて男の気持ち次第の不安定な立場である事は、歴史が証明している。
有紗は俯きながらディートハルトの後ろを歩く。
時折すれ違う軍人から、好奇の視線が突き刺さって嫌だった。
ディートハルトに連れて行かれたのは、飛行船のデッキだった。
周囲が見渡せるよう見張り台が設けられていて、当直らしい軍人が二名いる他は、人払いされているのか誰もいない。
「全然風がないんですね。こんなに高いところを飛んでいるのに」
「それは結界のおかげだね。気温の低下や揺れなんかも結界のおかげで抑えられてるんだよ」
言われてみれば、この船はほとんど揺れない。有紗は自分が乗り物酔いしやすい事を、今の今まで忘れていた。
外は船内に比べるとひんやりしていたが、寒いという程ではなかった。時刻は夕暮れ、上空は既に群青で、山際だけがオレンジ色になっている。
この色彩は、昼と夜の狭間、黄昏時にだけ見られるものだ。
(綺麗)
一見すれば日本で見られた夕暮れと変わらない空に見える。だけど、群青になった上空に輝くのは、地球では皆既月食の時にしか見られないような赤い月だ。
「少しは気分転換になった?」
「はい」
有紗は頷いた。奴隷としてはこう答えるのが正解だと思ったからだ。
有紗はどちらかと言えばインドアで、家にいるのが苦ではないタイプである。
だからディートハルトの部屋にずっといることはそこまで辛くなかったし、むしろ乗組員から好奇の視線を向けられる方が苦痛だったが、それを正直に伝える事は、不興を買うのが怖くて出来なかった。
有紗はディートハルトに戻るよう促されるまで、ぼんやりとデッキからの景色を眺めた。
◆ ◆ ◆
「……今日もするんですか?」
デッキからディートハルトの部屋に戻った有紗は、寝室に連れ込まれ、圧し掛かってきたディートハルトに尋ねた。
「今日はどうしたの? 嫌?」
今まで大人しく身を任せていた有紗が珍しく聞いたからか、ディートハルトは首を傾げた。
「痛むんです。その……毎日するから……」
下腹部を抑えながら訴えると、ディートハルトはふっと笑った。
「そっか、毎日いっぱいしたもんね。大丈夫、いい薬があるから」
そう言って、ベッドサイドの物入れから、ディートハルトは小さな丸い容器を取り出した。
中身は軟膏タイプの薬のようだった。容器を開けた途端、ハーブっぽい匂いが漂う。
「痛むのはおまんこの中だよね? 塗ってあげる」
「あの、今日はしないっていう選択肢は……?」
「無いよ。だってヤリたいもん」
言いながらディートハルトは有紗の服を剥いていく。
抵抗は出来ない。首輪の制約が怖い。
「アリサは嫌そうな顔はするけど、基本的に従順で逆らわないよね?」
「それは……首輪があるから」
「ちょっとくらいなら抵抗してもいいって俺は言ってるよ? 試してみればいいのに」
試せるものか。
首を締められて意識が飛ぶのは恐怖だ。有紗は口を一文字に引き結んで俯いた。
ディートハルトは有紗の服の前をはだけさせ、ポンと肩を叩いた。
「ほら、後は自分で脱いで。全部ね。そんでベッドの上で足を広げて、塗りやすいように見せてごらん」
いやらしい要求に、弾かれたように顔を上げた有紗に、ディートハルトはいい笑顔で微笑みかけてくる。
「嫌なら嫌でいいんだよ」
有紗は悔しさに唇を噛むと、要求に従うべく半身を起こし、ブラウスと胴衣を纏めて脱ぎ捨てた。
有紗が全裸になる間に、ディートハルトも服を脱いでいた。
「足、開いて」
再びこちらに戻ってきたディートハルトに促され、有紗は渋々と足を開いた。
自分から性器を男の目に晒すのは恥ずかしいし屈辱だ。ディートハルトは軟膏を右手で掬い取り、もう片方の手で有紗の陰部を開いた。
「何もしてないのに濡れてひくひくしてるよ? やらしいね」
「そんな訳……、っ!」
右手の指先で入口に触れられ、有紗は息を飲んだ。
処女を喪ってたった四日。しかしその間毎晩のように身体を貪られた為、有紗のそこは、簡単に男の指を受け入れてしまう。
塗り薬も潤滑油の役割を果たし、気が付いたら指は根元まで胎内に入り込んでいた。
「ここより奥は指じゃ無理だね」
ぬち、くちゅ……と水音と共に膣内を弄られる。その手つきは薬を塗るためのものなのでゆっくりだが、性感を開発されつつある有紗の身体は如実に反応し、きゅうっとディートハルトの指を食い締めてしまう。
「こら、締めつけちゃダメだよ。薬が塗れない」
「そんな事、してなっ……」
「嘘つき」
「んんっ……」
ぐり、とお腹側の性感帯を刺激され、有紗は悲鳴を上げた。
幸いな事にディートハルトはそれ以上はそこを弄らず、あっさりと指を引き抜いた。
(終わったの……?)
有紗はぼんやりとディートハルトの動きを目で追い、軟膏を追加で掬いとるやいなや、自身の性器に塗り付け始めた姿を見て、ぴしりと硬直する。
まるで自慰のような手の動きに目が離せない。
大きく目を見開いて見つめていると、クスリと笑われた。
「奥までは指じゃ塗れなかったから、こっちで塗ってあげるね」
ひっと有紗は息を飲んだ。
(へんたいっ……)
ドン引きし、反射的に身を引こうとする有紗の身体を押さえ込み、ディートハルトは膣口に男根をあてがった。
次の瞬間には、ずぶりと中に侵入してくる。
「あ、あ……」
大して慣らされてもいないのに、受け入れてしまう自分の身体が信じられない。
有紗の瞳からは生理的な涙が零れた。
「は……やっぱアリサは気持ちい……」
一番奥まで押し込んで、ディートハルトはとろりとした眼差しでうっそりと微笑んだ。
この戦艦に乗って今日で四日目で、有紗のこの国の知識も少しだけ増えた。
ディートハルトやバルツァーが、空き時間にこちらの事を少しずつ教えてくれるのだが、それは、この国で主神として崇められる、月の女神ツァディーの教えによるものだ。
ツァディーは魔力を司る赤い月の化身とされる神で、奴隷制度を正当化する教えを説いた神でもある。
奴隷は、前世での罪を雪ぐ為に堕ちるもの。
そして、奴隷の主になる者が、奴隷に温情を与え、教育を施した上で解放すると、大きな善行になると聖典に記されているそうだ。
だからこの国の奴隷は、主人の裁量と本人の才覚次第で再び市民権を取り戻す可能性を持っている。
そして、ディートハルトが有紗を嬉々として抱くのは、ディートハルトの魔力が多すぎるせいだという事を、改めて教えられた。
こちらでは、平民でも種火を出す程度の簡単な魔法が使える。しかし、貴族認定されるレベルの魔力の持ち主は、結婚相手を探す際制約を受けてしまう。
まず魔力の相性が合わなければ、交わる時に酷い苦痛を味わう事になる。
魔力の相性が一致しても、魔力量に差があるとやはり問題が発生する。
唾液や精液といった体液には、濃厚な魔力が含まれ、魔力の高い者の体液を魔力が少ない者が摂取すると、魔力酔いを起こしてしまう。
魔力酔いはお酒に酔った状態に似ているそうだ。少しくらいなら頭がぼんやりしてくらくらするくらいで済むが、あまりにも魔力量に格差があると、急性アルコール中毒のようになって倒れてしまう。最悪命の危険もあるとの事。
女性の方が魔力が強いのはまだマシらしい。女は受け入れる性なので、キスが出来ない程度で済むからだ。
魔力の強い男性の場合は大変で、そのままでは普通に性交する事すら出来ないそうだ。
それでは子孫を残せない為、魔力酔いを緩和する霊薬が開発された。
しかし、その薬には、摂取後何日間も寝込んでしまうほどの強い副作用があるそうである。
また、あくまでも症状を緩和するというだけの代物なので、非常に気を使いながら致さなければいけないらしい。
具体的にどう気を使うのかは、ディートハルトが教えてくれた。
「排卵日を狙ってキスはなし。体液の接触は入れて出すだけの最低限。まるで種馬だよね」
それを聞いて少しだけ同情心が湧いた。
王族の男性は、誰もがそういう悩みを抱えながら致しているそうだ。
この悩みは一部の高位貴族にも当てはまるらしく、発散の対象となるのは主に高級娼婦だ。彼女達は魔力酔いを緩和する薬物を使用し、副作用に苦しみながら身体を切り売りしているそうである。
そして、この世界における高級娼婦は、貧しい平民家庭に高い魔力を持って生まれた子供が行きつく先だ。
魔力の理の外にある異世界人は大変貴重で得難い存在で――だから有紗はディートハルトに貪られる。
有紗の性格や容姿を気に入って抱くのではない。単に体質が都合がいいから抱くだけ。
その上子供が出来ないこともほぼ確定とくれば、彼にとっては後腐れなく、実に都合のいい女という訳だ。
胎内に性器を根元まで埋め込んだディートハルトは、薬を浸透させる為か、子宮口に先端を強く押し付けたまま動こうとせず、有紗の身体をぎゅっと抱き込んできた。
「あー、入れてるだけでも気持ちい……アリサは? 痛くない?」
「…………」
唇を引き結び、目を逸らすとそっと首輪をなぞられた。
悔しい。脅されてる。
「このままなら痛くないです……」
渋々答えるとディートハルトはふっと笑った。
「じゃあ薬が染み込むまでもう少しこのままで居ようね。ああ、いいな。落ち着く……」
ひくん、とディートハルトのものが胎内で震えた。
いつまでこのままでいるつもりなんだろう。
動く気配のないディートハルトの温もりに包まれ、有紗は段々眠くなってきた。
連日のように貪られまくったせいで、有紗の身体には疲労が溜まっており、いくらでも眠れる状態である。
このまま睡魔に身を任せ、眠っている状態で終わらせて貰えるなら、それはそれで悪くないかな、と思い、有紗は目を閉じた。
その時である。ディートハルトに奥を小突かれ、意識が強制的に引き戻される。
「寝ないで、アリサ。痛くないみたいだから動くよ」
囁きと共にディートハルトはゆっくりと腰を動かし始めた。
ディートハルトの動きは、有紗を気遣ってか、いつもよりも穏やかだった。
しかしずちゅ、ぬちゅ、という水音と共に、奥を念入りに刺激してくるのはいつもと変わらない。
「ん、ふっ、あ……おく、やっ……」
認めたくないが、連日の交わりで開発されつつある有紗には、ゆるやかな刺激は少し物足りない。そう感じる自分に愕然とし、有紗は動いてしまいそうになる腰を必死で抑えた。
「気持ちよさそうだよ? きゅうきゅう締め付けてきてるのに本当に嫌?」
ぐ、と一番奥に押し付けられる。
「……っ!」
自分の意識とは別の場所でぎゅう、膣壁が収縮して、嫌でもディートハルトの形を意識してしまった。
ディートハルトは、観察者のような眼差しで有紗をじっと見つめている。
「痛くない?」
尋ねられ、有紗は目を逸らした。
「答えて」
首輪に触れられ、渋々と口を開く。
「いたくは、ないです……」
ゆっくりだからか、薬が効いたからか、ヒリヒリするような鈍い痛みは収まっていた。
ディートハルトは有紗の返事に嬉しそうな笑みを浮かべる。
「手、シーツじゃなくて俺の背中に回して」
嫌だ。
ふるふると首を振ると、きゅ、と首輪が締まった。
「あ――」
隷属の首輪の発動に有紗は目を見開いた。
す、とディートハルトの指先が首輪に触れ、締め付けが和らぐ。
「はっ、はあっ、はあっ」
はくはくと酸素を求める有紗に、ディートハルトは再び告げる。
「手、回して」
ぼろりと涙が零れた。唇を噛み泣きながら有紗はディートハルトの背中に手を回す。
「ん、いいね。この密着してる感じ」
ディートハルトが満足気に笑う気配があった。耳朶を食まれ、ぞわりとした感触が背筋を走る。
最低だ。奴隷扱いしてくる男と、まるで恋人みたいに交わらないといけないだなんて。
抽送が突然激しくなった。
「ん、あっ、あっ、ふっ……」
浅い場所から一番奥まで、気持ちいいところを掻き抉られ、頭の中がスパークする。
覚悟していた痛みはなく、ただただ気持ちいい。
強すぎる快感から逃げ出したくても抑え込まれているせいで叶わなくて、ディートハルトに抱き着く指に力が篭った。
胸の膨らみが胸板に押し潰され、身体の前面全体に男の逞しい筋肉を感じる。
知らず知らずの間に内腿に力がこもり、男の身体を挟み込んでいた。
「や、あ、あ、あぁんっ……」
激しく揺すぶられ、きつく目をつぶって必死に耐えていると、唇に何かが触れた。
驚いて目を開くと、至近距離にディートハルトの顔があり、次の瞬間には口腔内を貪られていた。
吐精は、深い口付けと共に始まった。
舌の侵入と共に最奥に先端が捩じ込まれ、結合部に密着した陰嚢が力強く脈打って胎内に白濁が撒き散らされる。
どぷどぷと先端から撃ち込まれる大量の精液が、膣の中を白く染めていった。
唇も子宮口も今日もすぐには解放されない。
執拗にマーキングをしてくる姿はまるで犬みたいだ。そんな事しなくても、有紗はディートハルトに首輪で縛られているのに。
こんな行為は無意味だ。性器で蓋をし子種を刷り込んでも、実を結ばないとも言われているのだから。
(早く終わって……)
有紗は心の中で呟いた。
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